表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/23

【一人暮らし】

* * *

一人暮らし

* * *


オオカミ君が入社した年の12月。

ご両親の強い意向で一人暮らしを始めないといけなかったですね。


今、思えば、それがオオカミ君との距離が縮まりだしたきっかけだったと思います。


☆ ☆ ☆


あなたにしてみれば、”ちょうど買い替え需要を迎える家電でもあれば、もらい受けたい”という意図だったのでしょうが、


『洗濯機か、炊飯器もらえませんか?』


と、いきなりねだられた時には、(こいつ、正気か?)とあなたの神経を疑いました。

そんなことを甘えられるほど、親しくなかったですしね。


そんな都合のいい家電品は無かったので即断りましたが、その数日後に、実家に未使用の炊飯器があることを思い出しました。

20年も前に父親が会社のくじ引きで引当てたものでした。母親が『あんたが結婚するときに持って行ったらいいわ。』と押入れの奥にしまっていたことを思い出したのです。


それは五合炊きの炊飯器で、実家で使用しているものは十合炊き。今後壊れたとしても出番がないでしょう。そこで、思いきって実家の母に電話して探してもらいました。

お願いした時点では母は忘れていましたが、後から『有ったわ。よう覚えてたね』と連絡をくれました。

20年前の品とはいえ、信頼できる国内メーカーのものです。差し上げて恥ずかしい品ではないでしょう。

そのまま一人暮らしを始めた後輩に譲りたい旨を相談し、了解をもらいました。


翌日、オオカミ君が一人の時を見計らい、炊飯器をまだ買っていないか確認しました。

『未だ』だったので、20年前の品だけど実家に未使用の炊飯器があるから受け取ってくれるか確認しました。そうして喜んで受け取ってくれることになりましたね。


それから仕事が早めにあがった日に、わたしは会社終わりで実家に受け取りにいきました。スクーターで炊飯器を運ぶのは、なかなか怖かったんですよ。


あなたが喜んでくれて良かったけど、一週間くらい経ってから、ちゃんと動いたか確認すると、『まだ持って帰ってない』とのこと。

その後、一カ月ほど経ってから、今度は母から『ちゃんと使えてるのか?』との心配を聞き受け、再度あなたに確認しましたら『まだ使ってない』とのことでしたね。


別にいいけど……と済ませたいところでしたが、会ったこともない人のことで、母の手をわずらわせた上に心配もかけていたので、「ちゃんと使えたか報告する義務があるんじゃないの?」とやんわり話させていただきました。


その後しばらく経ってから、またこちらから聴いたら『使えた』とのことで、やっと安心しました。欲を言えば、そちらから報告いただきたかったですけどね。

なんせ20年前の代物なんですから、壊れていたらゴミをあげたのと一緒のこと。もちろん母にも報告しておきました。


そんなことがありつつ、日常でもスーパーで調味料などの特売品などを見つけると、


(オオカミ君いるかな?勝手に購入してだぶったら、一人暮らしには多いいしな。電話したらあかんかな?明日も安いかどうかわからんし)


そんなことを思うようになりました。

何度もそんなことを思うようになってから、思い切ってあなたに訊いてみました。


「最近、スーパーで特売品見つけたら、オオカミ君いるかな?って思うようになってんねん。日持ちするようなもんなら、買っちゃってもいい?」


あなたは『そんなん思ってくれるんですか?嬉しいです。是非お願いします』と想像以上に喜んでくれましたね。

その時、日頃から訊いていたご両親への不信感を思いだし、こういう愛情が足りてないのかな?なんて、ご両親に大変失礼なことを思ってしまいました。


それから、特売品を見つけると、一つ余分に購入して差し入れさせてもらうようになりました。ただそういうことをやりだすと、本当にキリが無いので、”超特価”と言えるような時だけにしていましたけど、本当はもっと頻繁に差し入れたい気持ちでいました。


あんまりやり過ぎると、逆に気味悪がられても不本意ですし、本来家計にまわすべきところを他にまわしている訳ですから、主人に申し訳ない気持ちも傍らにありましたしね。


あなたはわたしのそんなおせっかいに、素直に喜んでくれているようで安心していました。その内、月末に近づくにつれ、『食べるものがない』といったようなことを言うようになりましたね。そんな時には比較的安価な乾麺などを差し入れました。けれども甘えさすばっかりでは独立させようとしている親御さんに申し訳ないので、やり過ぎにならないようにしつつ、パスタならこんなソースを選べば、数回に分けて使えるよ、野菜も一緒に摂れるよと、なるべく今後のためのアドバイスをするようにしていました。


わたしは、一人暮らしをする子供に、差し入れのいっぱい詰まった小包を送る親の気持ちが知れた思いで楽しく嬉しかったです。


☆ ☆ ☆


今にして思えば、そうした小さな関わりが、小さな責任を生み、やり取りが増え、広がり、結果的に距離を縮めることになっていったのだと思います。

あぁ、でもあなたにしたら『距離が縮まった覚えはないですけど?』と思うかもしれませんね。


それが私の一方的な想いだったとしても、私には嬉しい関係でした。

そして、それが今途切れてしまっていることが、自分の不甲斐なさから来てると思うと、悲しく情けないです。


あなたという存在がいなくなり、わたしはずっと同じ場所にいて、今も、そこが欠けたまま過ごしています。他の何かが補ったりなんかはありません。


あなたの方は、新しい環境で新しい関係を築けている人がどんどん増えていることでしょうね。もちろん、それを恨めしく思ったりはしていませんよ。むしろ喜ばしく思います。

だから、わたしも一人置いていかれっぱなしにならないように、新しい世界を広げていこうと思っています。


この手紙も、その一環なんですよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ