5話 餌になった原因がわかりました
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修正しました。
「どうしてここまでしてくれるんですか?」
誘拐したとは思えない行動の数々に、ついに我慢できず聞いてしまう。
「もう、後悔したくないから」
「え?」
答えてもらえなくても仕方ないと思っていたために、反応が少し遅れる。
レイアの顔はどこか寂し気で、目は俺を見ているのに、見ていない。何があったのか気にはなるが、聞かれたくないことかもしれない。
「安心して。本当に嫌がることはしないし、不自由な思いもさせないから」
「うん……」
結局聞くことは出来ず、街を歩く。初めてのヒールはとても歩きづらく、更に歩くのが遅くなった俺にレイアが合わせてくれている。
「それじゃ、次はギルドだね。身分証だけなら役場でいいんだけど、ギルドのほうが少し利点があるからね。ついでにお昼もそこで済ませよっか」
「そういえばギルドってどういうところなんですか?」
記憶喪失なら聞き返すのが当然だろう。さっきは忘れてしまったが、まだおかしなタイミングではないはずだ。
「ギルドは大きな街に必ず一つある施設で、住民や自治体から寄せられた依頼を登録している人たちに仕事としてあっせんする施設ね。難易度があって、基本的に自分たちの実力に遭った依頼を掲示板から探して受けてる。パーティーを組んだり仲間との待ち合わせに使うことも多いから、食事もできる酒場も運営しているの」
「へえ」
ゲームでも似たような設定のものがあった気がする。どの世界でも同じことを考えるのだろうか。
「他にも何か緊急事態があったとき、住民や冒険者に呼びかけるために魔道具の拡声器が設置されていて、場所はどの街も分かりやすくなるべく中心に建てられている。ってところかな」
ギルドが街の防衛の要のようだ。衛兵とかはどうしているのだろうか。
「ミーナ、ちょっと」
「ん?」
レイアに連れられて道の端に寄る。
「歩くときもうちょっと気を付けないと下着見えるよ」
「え?」
少し周りを見れば、男の鼻の下が伸びているように見える。昨日の男たちと似た嫌な視線も感じ、慌ててスカートを抑える。
「き、気を付けます」
再び並んで歩き、危なくなったら注意を受ける。それでも鼻の下を伸ばしている人はいるもので、少し不快に思うも我慢して歩く。
レイアのことはそこまで警戒しなくてもよさそうだと思い始めたが、まだ深奥するには早すぎるだろう。
「着いたよ」
「おぉ!」
他と比べても大きくて立派な建物。ギルドであることを表す看板。想像とそこまで違いはない外観に、自然と声が漏れる。
中は正面をまっすぐ行けば受付があり、右を向けば依頼が張り出されているであろう掲示板。左を向けばたくさんの座席とテーブル、カウンターが見えるから酒場なのだろう。何人かお酒を飲んだりご飯を食べてるのが見え、そのほとんどが男だった。
「この子の登録をお願いします」
「はい、かしこまりました。ではこちらに名前と性別、年齢の記入をお願いします」
「そういえば字、書ける?」
首を横に振る。数字の表記は一緒だったけれど、他はやっぱりわからない。年齢は前世では十八だったが、この姿ではどう見ても無理である。十六でいいだろう。
「年齢は覚えてる?」
「たぶん、十六だと思います」
「十六ね」
記入を終えて髪を受付に返す。何かの道具を使ってその紙に書かれた内容を転写していた。あれが魔道具というやつか。
「それではこちらに手を触れてください。この魔道具から発せられる魔力で生体情報を読み取り、ステータスをこのカードに転写します。身分証にもなりますので無くさないようお気を付けください。万が一紛失した場合は、再発行手数料をお支払いいただく必要がございます。ただし、年に二回までとなっておりますので、気を付けてくださいね。また、カードがないと依頼を受けることも出来ません」
「わかりました」
装置に触れる。体の中に何かが入ってくる感じがして、少しだけ気持ち悪くなったけれど我慢する。これが魔力というやつか。
「はい、どうぞ」
カードを受け取ってステータスを確認していく。といっても文字は読めないため数字を見ていくだけなのだが。
低いのは七で他はほとんど五十ちょっと。一番高いのは二百を超えている。
「見せて。えーっと、やっぱり筋力が一番低いのね。魔力がかなり高い。二百三十八もあるよ。他は全部平均より少し上かな」
予想はしていたけれど、筋力が低すぎることにショックを受ける。これでは剣を手に取って戦うことは出来そうにない。他が平均より少し高いということは大体五十行かないぐらいが普通ということか。だとしたら筋力はそれの五分の一もないことになるわけで――考えないようにしよう。
「次はスキルツリーの説明ですね。スキルツリーを利用しスキルポイントを消費することで、様々な技能や魔法を習得することが出来ます。スキルポイントは才能に応じて何ポイントか最初から所持しており、増やすにはレベルを上げる必要があります」
レベルもあるのか。異世界というよりも、ゲームの世界に来てしまった気分だ。レベルを上げることで筋力なんかも上昇するのだろうか。
「人によって得意不得意がありまして、たとえば得意な魔法は消費ポイントが少な目で習得できるんですが、苦手なものは倍以上かかることもあります。一番最初のスキルでも適性によってかなり変わってしまうので、出来る限り適性に合わせてスキルを習得していくことをお勧めします。
そしてこりらがそのスキルツリーです。スキルを習得するには基本的にギルドに来ていただくことになります」
そう言って出されたのは少し大きめの水晶。触れてみれば空中に映像が表示され、名前の通り木のように枝分かれしている。右下に数値がいろいろあって、それのどれかがスキルポイントなんだろう。ほとんどゼロなのが不穏だが。
「スキルを習得するのは下から順番になります。上のスキルを取るには必ず分岐前のスキルを取る必要がありますので、いきなり上位のスキルを習得することは出来ない仕様となっております」
いきなり強いスキルを覚えて無双、ということは出来ないのか。
「やっぱり初期ポイント多いね」
「そうなんですか?」
「うん。魔力が高かったから予想はしてたけどね。一番高いステータスがそのままポイントだったはずだから。でも習得スキル適性はどれもゼロだね」
苦笑しながら告げるレイアに、やはり覚えられるものはないのかと肩を落とす。本当に転生特典というものは存在するのだろうか。
「あ、でも回復と浄化、補助魔法の適性がMAXだよ」
支援に特化してるのは、重宝はされるだろうが場面によってはかなり邪魔になるだろう。
「ん、なにこれ。贄の血……? とても希少な血。血を好む種族やモンスターに狙われやすくなる。道理で……」
餌になった原因が分かりました。
――え、ということはこれから先もレイア以外に襲われる可能性が高いってこと? 何それ怖い。




