鬼VS天使②
『伐折羅大将、ご迷惑をおかけして、申し訳ない。』
俺は、大将と握手をした。
『なんの、なんの。こちらこそ、我が友人が失礼を致しまして、ご無礼をも許しください。彼は、阿修羅大王といい、戦いの神です。一人で、帝釈天の軍団に向かい、引き分けたほどの実力を持っています。悪いものでは、決してありませぬ。』
『その強さは、戦わなくても伝わってくる。あなた同様に。』
『ひとつ質問しても、よろしいでしょうか。』
『この子のことですね。』
『はい。幼い女が一人で、この邪気に包まれている空間にいる参り、阿修羅を呼び出し、戦いを挑むとは、只者ではないはず。』
『あなただから、本当のことを話します。この娘こそ、悪魔、つまりルシファが狙っている神の子です。救世主の母となる人なのです。ゆえに俺が守るべきは子なのです。あなたなら分かるはず。この子の純粋な心が。』
伐折羅大将はレイを見つめた。
『よく分かりました。優しい子ですね。そして、あなた様を信頼しています。そこの娘、名を何と申す?』
『私はレイです。』
『レイちゃんか。いい名だ。今日は何をしにきたのじゃ?』
『これを試したかったの。』
レイは、手に握った豆を見せた。
『ガハハハ。面白い。確かに純粋な心だ。豆で阿修羅を倒そうと思ったのか。面白い、実に面白い。レイちゃん、豆を貸してごらん。』
レイは、伐折羅大将の大きな手のひらに、豆を数個乗せた。
『いいかな、レイちゃん。レイちゃんが、やろうとしたことは間違いはない。ただし、ちょとしたコツがいるのですよ。こんな風に投げてはダメだ。』
伐折羅大将が、阿修羅に向かって豆を投げた。阿修羅からは戦いのオーラは消えている。
『ね。これではダメ。どうすればいいのか。この小さな豆に念を入れるのです。気、あらいはオーラでもいい。ウォー、ヤア‼️ヤア‼️やあ‼️』
再び、阿修羅に豆を投げつける。
『痛い。痛い。やめろ、伐折羅。苦しいぞ。やめてくれ。』
なんと、阿修羅が膝をついた。
『分かったかな。それと、一つ、約束をしてくれるかな。黙って出かけるのは良くないぞ。それは、君が子供だから言ってるのではないから。周りに、心配をかけるのは、よくないこと。これは大人にも言えることだ。分かるかな。』
『はい。分かりました。おじさん、ありがとう。そっちの変な顔のおじさんも、レイの願いを聞いて、来てくれてありがとう。』
『おい、伐折羅、この娘、なんていい子なんだ。わし、気に入った。わしも仲間に入れてもらえないだろうか。』
『阿修羅大王、もちろん喜んで。そして、そこの後ろにいるお方も、こっちに来てはどうだ。』
伐折羅大将と阿修羅が振り返った。
陰から姿を現したのは、煌びやかな衣装を身につけた背の高い男であった。いまの言葉で言えば、まさにイケメンである。優しい眼差し、しなやかな身のこなし。優雅に舞を舞っているようだ。ところが、背中には、円を描くように幾つもの剣のようなものが刺さっている。武器なのか飾りなのかが分からない。
『何やら楽しそうでしたので、そっと覗いていました。力強いオーラの中に、小さいながら鋭く輝くオーラに誘われて来てしまいました。伐折羅大将、お久しぶりです。阿修羅大王は、相変わらず激しいお人ですね。そちらの大きな方は、、、なるほど、そういうことでしたか。』
伐折羅大将も阿修羅大王も跪いた。
『これは、これは、千手観音様。前回、お会いしたのは、確か300年ほど前でしたでしょうか。再会できて光栄です。』
『わしなんか、お会いするのは、数千年前振りですぞ。もしや、小娘のオーラが呼び寄せたのか。』
『さすがですね、阿修羅大王。その通りでございます。その子に会いたくなりましてね。その純粋で綺麗な心に会いたくなり、やって来ました。来て良かったです。』
なんだか、凄いメンバーが集まってきた。
阿修羅大王がレミに近づき、耳元で囁いた。
『レイちゃん、面白いことを教えてあげようか。さっきの豆を、あの金ピカのおじさんに、ぜーんぶ、いっぺんに投げつけてごらん。』
『本当にいいの。』
『いいよ。やってごらん。』
レイは念を入れ始めた。
『はああああ、、、えいっ‼️』
持っていた豆を全部、千手観音に投げつけた。念が込められた30個ほどの豆が、千手観音に向かっていく。千手観音は、にこっと笑い、30個の豆を30本の手で受け取った。
『凄い。』
レイは驚いた。そして、あることに気がついた。
『あの人、手がいっぱいあって、その手に全部目がついてる。』
今度は俺が驚いた。レイには動きが見えたのだ。
『ほおおお、レイと申すその子、私の手の動きが見えるのですか。しかも、この手に目があることも分かったとは。なかなかやるなあ。やはり、来て良かった。』
『おじちゃん、その豆、全部返して。レイも出来るから。』
『よかろう。投げますよ。それ。』
千手観音の30個の腕から、豆が一斉に投げ返された。レイは、俺の秘技『千手観音』を使い、猛烈な速さで手を動かし、全ての豆を受け取った。
『ねっ、できたでしょう。』
そこにいる全員が笑顔になっている。全員がレイの魅力に心を奪われた。
俺はレミの底知れぬ可能性にあらためて感心した。しかし、目の前にいる男たちは、なんとも頼もしい。俺の記憶だと、千手観音は、28の神を従える、神中の神と言われている。天から地獄まで、世の中は25層 に分かれており、40本の手がそれぞれの世界を救うそうだ。だから、 40×25で、1000本の手となる。ちなみに、25ある世界の中で、1番上に当たるのが天上界で、コレを『有頂天』という。28の神というのは、正式には『二十八部衆』と言われ、そこにいる、金剛力士つまり伐折羅大将、阿修羅大王もその28人の中に名を連ね連ねている。金剛力士については、阿形(那羅延堅固王)、吽形(密遮金剛力士)の二体が別々に数えられている。他にも毘沙門天、帝釈天なども属しているのだ。そんな凄い神の親分を、レイが呼び寄せた。
レイが何やら、ごにょごにょと言っている。
『鬼は〜外‼️えーい‼️』
誰もいない壁に向かって、豆を投げつけた。すると、壁から小さな丸っこい小動物が出てきた。頭と尻に矢印のようなものが付いている。
『痛い、痛い、ゴブリン、ゴブリン、なんだ、なんだ、苦しい、苦しい、ゴブリン、ゴブリン。』
阿修羅大王が叫んだ。
『お前は、ゴブリン。何をしている。』
さっきまで、にこやかな顔をしていた阿修羅大王が、恐ろしい顔に変わっている。三面ある顔、どの顔からも怒りが見える。
『痛い、痛い、こわい、こわい、逃げろ、逃げろ。』
『逃すか‼️』
阿修羅大王が6本の腕から、6本の矢を投げつけた。逃げるゴブリンの周囲に槍か刺さった。
『お前、何をしてた。何のためにここにいる?』
伐折羅大将が、冷静に尋ねた。
『何も、何も、別に、別に。』
ゴブリンはとぼけた。ゴブリンとは、下級の悪魔。小鬼と呼ばれることもある。俺が、ゴブリンの心を読み取ろうと思ったが、すでに千手観音が読み取っていた。
『ここは、貴方のようなものが来る世界ではないです。美しい魂に惹かれて来られたようですが、無駄です。貴方のような小悪党には、所詮無理。たとえ、魂を吸い取ったとしても、その純粋さに、身体が耐えられず、消え失せるでしょう。さあ、お帰り、貴方の世界、地獄へ‼️』
千手観音の千のナイフがゴブリンめがけて、飛んでいく。ゴブリンの姿は跡形もなく消えた。
『レイちゃん、貴女の洞察力は素晴らしい。隙を見せて、隠れている小鬼に気がつかない我々に比べ、貴女の感性は鋭い。よく、見つけましたね。素晴らしいです。』
千手観音は、喜んでいる。
『ヒロ様、この子を守りなさい。そして、成長を見守りなさい。この子とともに、貴方様も成長します。この子も素晴らしいですが、貴方様も素晴らしい。しかし、まだまだ未熟です。今のままでは、ここにいる伐折羅大将や阿修羅大王にも勝てないでしょう。日々修行。この子とともに切磋琢磨するのです。さすれば、この子の力が本格的に目覚めた時、貴方様も開眼成就なさるでしょう。やはり、ここに来て良かったです。また、いずれ会うことになります。それまで、さらば。』
千手観音は、風とともに消えて行った。
『ヒロ様、千手観音様は、貴方様に大きな期待をしているのです。千手観音様も私も、そして阿修羅大王も、貴方様の本当のお姿を知っています。しかし、今はまだ伏せておくよう指示されております。』
『そうでしたか。色々と気を使っていただいて、ありがとうございます。ご期待に応えるよう、精進したいと思います。』
『ヒロ殿、一つ気になることがあるのじゃが。先ほどのゴブリンが、地獄に戻るまえに、叫んでいた言葉が気になるのだ。奴は「キング様」と叫んでいた。気をつけなされ。』
阿修羅大王は、見た目はグロテスクだが、心は優しい。阿修羅大王が言っていた「キング」。俺にも聞こえていた。
『レイちゃん、戦いではなく、一度、遊びたいのお。今度、会うときは、面白い技を見せてあげるぞ。では、わしも戻るとするか。』
阿修羅大王もどこかへ向かって行った。
『ヒロ様、この場所は、邪気が充満しております。私が、邪気を祓い、そして、今後一切、邪悪な者が出入りして出来ないようにします。レイちゃん、さっき言ったことを守るように。一人で、遠いところに出かけてはならぬぞ。』
『うん。ありがとう。お礼に、ぼんちゃんの秘密を教えてあげる。』
レイは、伐折羅大将の耳元で何やら話している。
『なるほど。いいことを聞いた。レイちゃん、私も貴方様の味方です。いつでも、呼んで構わないぞ。では、この場所を焼き払う。お二人、帰路につきなされ。』
『レイちゃん、帰りは新幹線を使おう。』
『うん。乗ってみたい。』
『伐折羅大将、後は頼みました。』
『ヒロ様、おねしょをしないように。ガハハハは。』
秘密って、そんなこと伝えたのかよ。




