謎②
該当する人物。まずは、俺だ。そして、彩先生。しかし、俺ではないことは、俺自身が知っている。彩先生も除外だ。彩先生の心を何ども読んでいるが、心底悪を憎む性格で、悪に加担することは、100%ありえない。かすみの情報に詳しいのは、AGUだ。かすみは、AGUを裏切り、俺の仲間になったのである。当時の総裁である北村会長とは手打ちをしたが、未だに恨んでいる奴がいるのかもしれない。さらに、かすみをギロンに拐われて、一番ショックを受けるのは、レイと俺だ。レイに恨みを持つものなどいるわけない。俺に恨みを待つ人間はわんさかいる。俺に対する恨みを晴らすために、ギロンを利用したとも考えられる。つまり、俺に恨みを持ち、かすみの情報に詳しい奴を探せばいいということだ。
俺は、このことを彩先生に伝えた。
『あなたに言われなくても、それくらいのこと想像できますわ。』
相当、機嫌が悪い。俺は何も悪いことしてないのに、頭を叩かれた。
『田中と野々村を呼んでちょうだい。何か情報を持っているかもしれないわ。』
田中と野々村は近藤の部下であった男達だ。櫻井によると、田中と野々村は、このところ元気がいいらしい。最も恐れている俺が亡くなったと信じているからだ。
『あっ、彩様。お久しぶりです。』
田中が挨拶をした。
『俺らに何か用があるんですか?』
野々村は彩先生に敬語を使わなかった。パーン‼️平手打ちをしたのは、朴正恩であった。野々村は腰を落とした。
『彩様に対する無礼は、私に対する無礼と同じです。次に無礼な態度を取ったなら、処刑です。』
彩先生が、朴正恩の頭を撫でた。
野々村はぶるっている。この国の処刑とは、もちろん死刑に他ならない。裁判などあるはずもなく、朴正恩の機嫌損ねたなら、そく死刑もありうるのだ。
彩先生が口を開いた。
『情報が欲しいの。知っていることがあったら、全て話して。ギロンについて。』
『彩様、先ほどを失礼しました。謝罪致します。我々はギロンの存在は聞かされていましたが、直接、会ったことはありません。なあ、田中。』
『死んだ近藤もギロンに会ったことはないと言っていました。仲介している男がいたと聞いております。近藤が漏らしていたのですが、日本人で、ある組織に属しているとか。』
やはり、AGUが、怪しい。
野々村が俺のことをジロジロ見ている。いやらしい目だ。こいつ、完全にロリコンだ。少し、遊んでやるか。恐怖という遊びを。
『櫻井、先ほどを言ったことを覚えてらっしゃる?この子を怒らせたら、とんでもないことになるということを。どうやら、野々村が怒らせたらみたいよ。怪我をしたくなければ、下がっていた方がいいわよ。』
俺は、身長2mほどの魔人バブーに変身をした。
『バブビバ、ブブバー。』
野々村の頭を鷲掴みし、ぐるんぐるん回し、放り投げた。本当はもっと暴れまくりたいが、彩先生の部屋のものを破壊したら、どんだけ怒られるか分からない。俺は野々村を屋敷の外に引きずり出した。15mほどに巨大化し、口から炎を吹き出し、そして、大声で吠えた。
『バブバブ、バブバブ、バブー。』
今度は田中を捉え、高い高いをしてあげた。地獄の高い高いだ。空を飛び回り、目からビームを発射。小さな小屋を焼き尽くした。
こんなもんでいいだろう。俺は彩先生の横に立ち、もとの姿に戻った。
『この子には、ヒロの精霊が宿ってるのよ。悪いことが大嫌い。正義のためなら、何でもやる子なの。ギロンも、この子の前では、5秒も持たなかったわ。田中、野々村、ヒロが亡くなったから安心だなんて、思わないように。はっきり言って、ヒロは自制が効きましたが、この子には、そういうのないの。暴れ出したら、誰も止められないのよ。悪さをしないようにね。』
そこにいた者、全員が、恐怖の顔をしていた。
『櫻井、ヒロがAGUの本部で組織改革を発表した時に参加していたメンバーのリストを用意して。大至急。』
櫻井は、頭がきれる。仕事もできる。いずれは幹部になる人材だ。リストは1時間ほどで届いた。彩先生は、リストのコピーを俺にくれた。リストを見ていて気がついたこと。
当時の幹部で不参加だったのは、北村真理子だ。組織から追い出したのだから、俺に恨みがあってもおかしくはない。真理子については、櫻井が詳しい。櫻井によると、そもそも、真理子は仕事嫌いの女で、辞めさせられたことをむしろ感謝しているそうだ。
俺の目に飛び込んできたのは、「相沢」という文字だ。以前、かすみをさらったヤクザの名前も相沢であった。
『この男はどんな人ですか。』
俺は櫻井に聞いた。
『相沢ですか。彼は私と同期に入社した男です。物静かで、人付き合いの悪い感じでした。仕事は、淡々とこなすタイプですが、目立った業績は残していなかったと思います。無断に休んだり遅刻などもなく、真面目な職員という印象です。』
諜報部員には、向いていないタイプの男ということか。
『相沢に兄弟はいませんか。』
『双子の兄がいるということを聞いたことがあります。本人とは違い、派手で遊び好き。女に目がなく、評判は悪いです。トラブルも多く、定職にもついておらず、結局、暴力団に拾われて、ヤクザになったらしいと聞いています。』
第一容疑者発見だ。俺は、彩先生に、MR.Tに連絡するようお願いした。相沢の写真。それと相沢の銀行口座を調べ、大金の入金がないか確認する旨を伝えた。
送られてきた写真を見て、はっきりした。ヤクザの相沢と同じ顔をしている。兄の方は、ゆかすみにちょっかいを出し、俺の逆鱗にふれ、お仕置きをしてやった。キンタマを握りつぶし、チンチンを引っこ抜いてやった。かすみに対する未練。俺に対する恨み。あって当然かもしれない。しかし、俺の印象では、相沢は小物だ。ヤクザの看板を背負って、大げさに振舞っていたが、所詮はチンピラ。一人では何も出来ない弱虫だ。
MR.Tによると、AGUの相沢の口座には、定期的に大金が入金されているそうだ。送り主は、バラバラで、様々な国から送金されている。だが、その中に『近藤』という名があった。決まりだ。ギロンとの仲介を行なっていたのは、相沢だ。さらに、送金者を見ていると、ふざけた名前を見つけた。『神野義諭』(かみの よしさと)。神のギロンだ。頭の悪い悪魔だ。偽名を使っているが、バレバレだ。
兄の相沢から、美しい女『かすみ』の存在を聞かされ、その女が同じ組織の一員で、裏切り者と分かり、そらに、その女の彼氏と思われる男に、兄が致命傷を負わされたわけだ。動機には十分だ。
しかし、目立たず真面目な男というのが、むしろやっかいだ。この男、馬鹿ではない。俺らが追い詰めていることを察知しているかもしれない。悪魔と契約している男だ。さらなる悪魔を差し向ける可能性は否めない。かすみとレイが危ない。俺は、彩先生とともに日本に戻ることにした。