謎①
バチカン、スペインと出かけていて、大事なことを忘れていた。もうすぐ、保育園に入園のするのだった。本当の悪魔と戦ってきたが、保育園の悪魔ちゃんたちの方が、俺には恐ろしい。
悪魔で、思い出したことがある。この部屋にやってきた『ギロン』のことだ。ルシファや、その手下のベルーガ姉妹でさえ、この場所を特定出来ていない。なぜ、チンピラ悪魔のギロンが、レイの居場所、つまり、ここが分かったのか。理由があるはずだ。もしも、ギロン独自の情報網があるのならば、それを断ち切らないと危険だ。蛇の道は蛇。悪者の事は、悪者に聞け。俺は彩先生にお願いして、北朝鮮の朴正恩に会いに行くことにした。彩先生は、承諾してくれた。
俺は、かすみのもとに、よちよち歩きで近づき、かすみの足にまとわりついた。
『あら、どうしたの?寂しくなっちゃったかな。』
かすみは、俺を抱いてくれた。俺は、かすみの耳をばくばくした。
『いやあん。こら、ちひろちゃん、イタズラはダメよ。』
『ママ、彩姉ちゃんと出掛けてきまちゅ。おちごとでしゅ。』
『怪我しないようにね。』
かすみは、キスをしてくれた。
俺は、3歳児になり、彩先生と平壌に瞬間移動した。なぜ、3歳児かといえば、彩先生いはく、ベビーだと抱っこしないといけないので、疲れるそうだ。そして、俺にスカートを履かせて、恥ずかしがるところを見るのが楽しいらしい。俺には拒否権がないと、きっぱり言われた。櫻井が屋敷の前で、待っていた。
『お待ち致しておりました。あのヒロさんが、亡くなられたと、お伺いしております。お悔やみ申し上げます。』
『無敵なヒロも病気には勝てませんでした。あなたも健康には注意するように。』
『どうぞ、こちらへ。』
俺と彩先生は、屋敷の中に案内された。というより、彩先生は勝手にどんどん進んでいく。すれ違う人は、全員、最敬礼で迎えている。最高指導者である朴正恩を平気で叩ける女性だ。怖がる気持ちはよく分かる。
『彩様、そちらのお嬢様は、どなたですか。』
『この子は、ちひろといいます。彼女はヒロの意志を引き継いでいますの。ヒロの精霊が宿っていると言えばいいかしら。小さいからといって、侮ってはいけませんよ。すでに、あなたより頭は良く、わたくしより強いです。いずれ分かるでしょう。』
まあ、当たってる。ヒロの精霊が宿るとか言ってるけど、ヒロそのものなんだから。
朴正恩が走ってきた。そして、彩先生の足元にひれ伏した。きっと、あれをやるに違いない。やっぱり、やった。
『朴、真面目に仕事してましたか。』
そう言いながら、朴正恩の頭を踏みつけている。周りの家来たちの顔が凄い。皆一同に驚いている。そして、全員、跪いた。立っているのは、彩先生と俺だけだ。
彩先生は、応接室ではなく、最上階の部屋に入っていった。なんとも豪華な部屋である。彩先生専用の部屋だそうだ。ちなみに、隣の部屋が朴正恩の部屋で、明らかに狭い。彩先生は、大きなソファーに座り、俺も横に座った。朴正恩は、ソファーの前で直立不動の姿勢でいる。
『朴、あなたにに聞きたいことがある。あなた、「ギロン」という化け物を知っていますか。』
朴正恩は、一瞬ビクッとした。その反応を彩先生も俺も見逃さなかった。
『知ってるのね。包み隠さず、教えなさい。心配する必要はないわ。すでにギロンは死んでいます。ここにいる、この子が始末しましたので、安心して。』
朴正恩は、さらにビックリした顔をして、俺を見た。この男、案外、根は素直だ。根性は腐ってはいない。
『彩様、本当にこの子が、ギロンを倒したのですか。』
彩先生の顔が赤くなっている。
『わたくしが嘘を言っているというの、あなたは。』
バシッ‼️得意の平手打ちが炸裂した。
『も、も、申し訳ございません。あの恐ろしいギロンが、こんな可愛い娘に倒されるとは、信じられなかったもので。すみません。』
『わたくしを怒らせるのは、まあいいでしょう。でもね、この子だけは怒らせないでね。あなたも知っているあの「ヒロ」より強いのよ。信じられないと思うけど、これが真実なの。さあ、ギロンについて知っていることを話して。』
朴正恩は、ギロンについて語り始めた。
『今から2年ほど前のことです。平壌で、若い女性が拐われるという事件が多発しました。その首謀者がギロンです。ギロンは、美しい女性の魂を好む悪魔です。魂を吸い取り、己の活力にしているのです。可哀想なのは、魂を抜かれた女性たちです。夢遊病者のようになり、どこかに売られてしまうそうです。私は直接、ギロンに遭遇したことはありません。ただし、ギロン一人で企てた犯罪でなく、共犯者が数名いたということです。そのうちの一人が、先日、ヒロ様によって討ち取られた、忠舎定、つまり近藤仁です。近藤らは美しい女性の情報をギロンに与え、ギロンは女性を誘拐し、魂を食らう。魂の抜けた女性を近藤らが受け取り、人身売買でどこかに売っている。こんな図式で、持ちつ持たれつの関係を築いていたらしいのです。』
彩先生は、呆れた顔をして、朴正恩を見た。
『それだけ分かっていて、あなたは何も手を打たなかったのですか。あなたは、最高指導者でしょ!』
彩先生が怒っている。怒って当然だ。
『いいえ、我々も、何もせずにいたのではありません。しかし、いかんせん「ギロン」は悪魔です。いつ、どこに現れるかは、全く分からなかったのです。そして、近藤以外の共犯者は逮捕し、処刑しました。近藤については、人質を取られているということもあり、手出しが出来なかったのです。』
『近藤については、わたくしにも責任が少なからずあります。破門にしたことを後悔していますわ。命を絶つべきでした。』
ということは、ギロンに世界一の美女『かすみ』の情報を渡した奴がいるということだ。かすみに対して恨みを持ち、かすみの情報を知っているということであれば、捜索する人物の範囲は狭められる。