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愕然①

 久しぶりに『ヒロ』として、この夜は過ごした。ミルク以外の食事をとり、アルコールも少量ながら飲んだ。シャワーを浴びて、上半身裸の姿でリビングに入った。 レイちゃんは既に眠りについており、かすみと彩先生がソファーで寛いでいる。

『ぎゃー、何それ。やばい、笑いのツボを押されたわ。あははー。』

かすみの大笑いが止まらない。その声を聞いて、彩先生も俺を見た。

『ヒロ君。ナイス!とってもセクシーよ。』

そう言って、彩先生も笑い始めた。

俺は何のことか、さっぱり分からない。ただ、前にも同じような経験があった。レイちゃんのイタズラで、おでこに『肉』の文字を書かれた時だ。あの時も、大笑いされた。今の雰囲気が全く同じだ。俺は、鏡に向かって走った。そして、鏡を見て愕然とした。

『ガアアーー。やっちまったあ。恥ずかしい。』

ある意味『肉』の文字よりも恥ずかしい。よくよく考えてみると、今日は朝から炎天下の中、プールで遊んでいたんだった。鏡に映っていたのは、上半身裸の俺。でも、いつもと違う。こんがりと日焼けをしている。そして、ビキニの跡がはっきり残っていた。

『かすみ、俺、超〜恥ずかしいよ〜。』

『まあまあ、裸で外を歩くんじゃないし、気にしないで、いいわよ。』

優しく慰めてくれる。でも、やはり笑っている。

『こら!何、いつまでも、くよくよしてるの。ビキニの跡など気にしない。来週もプールに行くよ。もっと、くっきり跡をつけてあげる。ほら、さっさと「ちひろちゃん」に戻りなさい。戻って、かすみさんに思い切り甘えなさい。』

彩先生は、厳しいのか、優しいのか、よく分からない。俺は、言われるがまま、ベビーに戻った。そして、はいはいをして、かすみの元に向かったが、途中で疲れ尽きて、眠ってしまった。


 ああ、よく寝た。疲れも取れた。この頃は、赤ちゃんがいるのが当たり前になってきたようで、俺が起きても、すぐに気づいてくれない。おなかが空いてるし、オムツも交換してほしい。必然と誰かを呼ばなくてはいけない。バブバブと呟いても、声は届かない。確実なのは、やはり泣くことである。初めは恥じらいと遠慮があったが、もう慣れてしまった。

『オギャアーー、オギャアーー。』

だいたい一番に飛んでくるのは、レイちゃんである。今朝もレイちゃんが、すぐにやってきた。

『ちひろちゃん、起きたのね。レイ姉ちゃんが抱っこしてあげるね。』

俺は、すぐに泣き止んで、抱かれたまま、リビングに連れられて行った。かすみの姿がない。どこか出かけているようだ。何かあったら困るので、出かける際は、小型サイズの分身仏を鞄に入れてもらっている。彩先生が朝から、ビールを飲んでいる。レイちゃんが、手慣れた手つきで、俺のオムツの交換をし、ミルクを飲ませてくれた。完全に、お姉さんになっている。ここで、普通のお姉さんなら、絵本を持ってきて、読み聞かせをするのだろうけど、レイちゃんは、そうはいかない。持ってきてのは物理の問題集。ニュートンの運動の法則の問題の質問を受けた。おしゃぶりを外してもらい、説明をしたところ、理解できたようで喜んでくれた。ご褒美にプリンを二口、食べさせてくれた。なんて、優しいていい子なんだ。朝からビールを飲んでいる誰かさんにも見習ってほしい。俺は、その酔っ払いに聞かなくてはならないことがある。はいはいして、彩先生のところに近づいて行った。


『彩姉ちゃん、お話していいでちゅか。』

『おやまあ、ちひろちゃん、何か御用かしら。わたくし、母乳は出ませんよ。』

完全に酔っている。むしろ酔っている方が、事実を聞けるかもしれない。

『三ちゅの質問ちます。答えてくだしゃい。』

歯が生えてないから、なかなか上手く話せない。

『いいわよ。何でも聞いて。』

普通に聞いても、はぐらかされるから、上手く質問しなければならない。

『一ちゅめ。この前、彩姉ちゃん、お顔を殴られたけど、戦闘力が落ちたの?』

『はああ、ベビーの体でもぶっ飛ばすぞ。』

ひえー、怖い。聞きかた、間違えた。

『そんなことも分からないの。あなたに暴れる機会を与えたのよ。つまり、わざと殴られたってこと。わたくしが、あんな男ども相手に殴られると思うの。この愚か者。』

ひえー、やっぱり怖い。

『二ちゅめ。日本の政財界を牛耳ってるって、本当でちゅか?』

次に怒らせたら、絶対、平手打ちが飛んでくる。

『あの話ね。本当よ。60年ほど前に敵と思われるもの、日本に必要ないと思うものを全員、抹殺しました。それは、今も続いてるわ。ちひろちゃん、あなたは必要、不必要?』

怖えー、不必要と思われたら殺される。こんなに美人なのに、なんて怖いんだあ。そういえば、昨日のプールのチケットも酒場の酔っ払いを追い払った御礼とか言ってたけど、その酔っ払いは無事なのだろうか。しかし、こんなに厳しいくて、ボロクソに言われたり、叩かれたりするのに、なぜか悪い気がしない。不思議な女性だ。


『三ちゅ目。彩姉ちゃんの本名。沢田と言う人が「赤崎彩」と呼んでいたけど、本当でちゅか?そして、私と苗字が同じなのは、偶然でちゅか?』

このことを一番聞きたかった。あれだけ、叩かれたり、厳しくされたりしても、腹が立たないのは、ひょっとして、俺の体の中に、彩先生の血が流れているのではと思ったからだ。自分の出生について、自分自身が分かっていないのもある。

『ちひろちゃん、今はかわいいベビーだけど、いつものヒロ君の顔はどう?わたくしに似てる?わたくしのような美形ですか?似てるとか答えたら、ぶっ飛ばしますよ。わたくしと、あなたと血の繋がりはありません。しかし、あなたの疑問は分かります。なぜ、同じ姓を名乗っているか。あなたは、わたくしに貰われたの。ある人から託されたのよ。だから、あなたは、わたくしと同じ「赤崎」の姓なのよ。次の質問は、誰に託されたか、ですね。それは、秘密。あなたが、もっと成長してから教えるわ。』

俺は愕然とした。俺は、彩先生に預けられていた。そして、彩先生に育てられたのだ。言葉が出ない俺に対し、彩先生が声をかけてくれた。

『ヒロ君、あなたはいろんな意味で天才です。才能が満ち溢れています。だから、わたくしの所に来たのよ。わたくしの役目は、あなたの才能を開花させること。だから、これからも、あなたに対しては厳しくします。あなた、既に神様気取りでいるわよね。甘ったれないで。神として、まだまだ、ひよっ子よ。そう、あなたの今の姿と同じ。だから、ベビーの姿がお似合いよ。もっと心を成長させなさい。そして、わたくしや、かすみさん、レイちゃんに尽くしなさい。そうすることで、あなたの才能が花開きます。まだ、その才能の1%ほどしか生かされていません。お判り?』

再び、愕然とした。褒めてるのか、バカにされてるのか、よく分からない。でも、俺に期待をしているということは分かった。



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