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名も知れぬ冒険譚

短編初挑戦!

 広場には人々が集まり、騒ぎ、今日という日が訪れたことを心の底から喜び合っている。

 国に属する兵士たちも、そうでない傭兵たちもみな武器ではなく各々楽器を手に取り、高らかに演奏しながら人々の集まった広場の中心で、『永遠の眠りについている大きな怪物』の周りを練り歩く。周りの建物の外壁には巨大な爪でえぐったようなものや、無数にあいた穴など、『傷跡』は残されているが、この風景から暗い感情を呼び覚ますものはまずいないだろう。

 そう言い切れるだけの風景だ、と、広場を見渡せる高台からそこを眺める男は思う。


「こんなところにいたんですか……今日はあなたが主役ですよ?」


 そんなことを考えていると、ふいに声がかけられる。



「……そうだな」


 そう答える男の表情は少し誇らしげだ。が、少し、ほんの少しだけ、寂しそうでもあった。それは、例えば最後まで読み終えたばかりの、無いと分かっている続きを探すような、そんな顔だろうか、と話しかけた彼女は想像する。


 男は一瞬だけ振り返ったが、一言だけ答えるとまた無言に戻り、再び広場の方に視線を向ける。その態度に質問の主は黙って隣に並ぶことにしたらしく、黙って男の隣に立ってローブの裾をはためかせながら男と同じように黙って広場を見渡した。

「………」

「………お前こそ、あの中にいかなくていいのか?」

 しばらく無言で並びあっていた二人だが、今度は、男の方が彼女に尋ねる。

「そういう華々しい役目はめんどくさいので、残りの二人に押し付けてきました♪」

 そういってはにかむ彼女にため息をつきそうになるが、自分も同じことをしていることを思い出し、ため息交じりに苦笑を浮かべる。

「今度はどこへ連れて行ってくれるんですか?」

 少女は、男のため息交じりの苦笑いを意にも介さず、はにかみながら男に尋ねる。

 しゃべる気がないのかと思っていた男の方から口を開いたことを会話の糸口を見つけたとでも思ったのだろうか。

 男は、一瞬考え、

「……今度はどこに行きたいんだ?」

 結論が出ず、いつものように聞いてきた彼女に答えを求めた。今までも男から次はここに行こう、と提案したことは一度もなかったはずだ。

 たいてい、彼女が次はここへ行こうと提案してきた。

「そうですね…氷の大地も見ましたし、炎の海も見ました。時には山ほどもある竜の類も見ました。でも……」

 彼女は続ける。

「一つだけ、私が思いつく中でまだ見ていないものがあります」

 彼女が言った通り氷の大地も見たし、炎の海も見た。山ほどの大きさもある竜に遭遇したこともあったし、天空にそびえる過去の住人の〝痕跡”なんかも探検した。そのほかにも一体いくつの冒険をしたのか数えられないほどだ。それらにたどり着くまでの道のりは決して楽ではなかったが、それらを見るたびに彼女は子供のようにはしゃぎ、三人にそこまでの旅の苦労を忘れさせてくれた。それらと同等以上のもので、まだ目にしていないものが男には想像できなかった。

 だから、男は彼女に目線で続き求める。



「それは……」



 その後、夜通し騒いだ後、騒ぎ疲れた街の人たちが我に返ったとき、すでに広場の見える高台には誰の姿もなかった。

 締めの演説をいただこうと、街の役人が何人も街中を走り回ったが、誰一人として、彼らの後を追えるものはいなかった。

 今までともに行動してきた二人の仲間たちでさえ、二人の行き先は知らなかった。

 しかし、二人とも特に悲しい顔はせず、

「あの二人のことです、きっと今頃また私たちが想像もつかない場所へ行ってるんでしょう」

「違いない」

 そういって笑いあった。

 数日後、そうして酒場で話あっていた二人もまた、忽然と姿を消した。

 それに気づいた権力者たちは、彼らの強さを鑑み頭を抱えたが、街の人たちは、むしろ、彼らの噂話を嬉々としていろんなところで話した。ある者はどこかでまだ暴れているかもしれない魔王軍の残党を狩りに行ったのではといい、またあるものは、今度は世界の果てでも探しに行ったのではないかという。

 彼らの行動動機は、どれだけわくわくできるか、ただそれ一つだけだということを彼らの故郷の人々は知っているため、憶測は無限に広がった。

 しかし、それは姿を消してしまった彼らにしかわからないことだろう。

 それ以降、彼らが時代の表舞台に立つことはなかったが、それまでの彼らの足取りは、後の世代の者たちへ伝説となって語り継がれた。

 それらは、彼らの生まれ育った街や国にとどまらず、人々の口を伝って世界中を駆け巡り、また新しい噂を生み、それは、瞬く間に伝説へと昇華していった。そして今いる場所が窮屈だと思っている若者たちが世界へ羽ばたく手助けをした。

もしかすると、それらの誇張された伝説は巡り巡って本人たちの耳にも届いているかもしれない。そしてあまりに誇張されすぎた自分たちの冒険譚を肴に笑いながら、再び再開した4人でどこかの酒場で談笑しているのではと、本人にあったこともあっただろう街の老人たちは、道端で昔話となってしまった彼らの冒険譚に花を咲かせる。本人たちがいなくなって久しいのですべて推測に過ぎないが、どこであっても、楽しくやってるだろうというのが彼らと会ったことがある者たちの共通認識だった。



 ところで、彼女が唯一まだ見ていないものとはいったい何だったのだろうか?



 それは――。

いかがでしたか?

最後の答えは、読んでくださった皆さんにおまかせします。

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