僕とささきちとナイフ
ちゅんちゅん…
鳥の鳴き声が聞こえて
目を覚ますと
誰もいない…。
まさかと思って時計を見る…。
8時26分…。
「え…もうこんな時間!?
皆起こしてくれなかったのか。」
薄情な奴らめ!
慌てて着替え冷蔵庫から
栄養補助食品を取り出し
寮から飛び出す。
寮生活だと近くて便利だし
デカイ学校内にはショッピングモールや
コンビニだって備え付けられている。
急げば大丈夫とついつい寝てしまうが
この時間は結構やばい。
教室に滑り込むと
チャイムが鳴った。
ギリギリセーフ!
僕の事を置いていった奴らが目に入る。
「あ、拓真間に合ったのか」
「よく間に合ったね…今日はもう遅刻かと思ってた」
「拓真の足も先生から逃げる以外に役立ったんだね」
一生懸命走ったのに貶された。
「翔太達だって起こしてくれれば良かったじゃん!」
「一回起こしたぞ」
「起きなかった拓真が悪い」
「俺達全然悪くないじゃん」
「え、そうなの?
ごめん…起こしてくれたんだ
最初に言ってよ」
一度起こしてくれたのに起きなかった僕が悪いのか…仕方ない…まぁ間に合ったし。
「まぁ嘘だけどな」
「すぐ騙されるよねほんと…」
「起こそうともしてないよね。
むしろ遅刻するか間に合うか賭けてたし」
やっぱり一回喉掻っ切っておいた方が良いかもしれない。おもむろにカッターを取り出す。
このくらいしておかないとこいつらは反省しない。
「皆拓真くんをからかうのも程々にしてあげてください、あと拓真くんもカッターしまって」
隣から声がしてカッターを持っていた手を
ぎゅっと握られる。
…いや…潰され………痛い痛い痛い。
カッターを手から離…落とすと
手を離してくれた。
声の正体はささきち…こと佐々木若葉。
小柄な体躯に灰色に近いボブカット。
太眉が愛らしい。
僕の反対隣の席の女の子だ。
危険な武器も所持していないし
持っているのは自作の催涙スプレーくらい。
少々さぼり癖もあるが
それを差し引いても
まともだと言える。
ささきちに免じてカッターをしまう。
「今日は来たんだね」
久しぶりに見たよと海が若葉に挨拶する。
「えへへ…ちょっと忙しくて
でも神坂さんが同じクラスって
聞いて来る事にしたの…
でもまだ来てないね?」
残念だなぁ…と肩を落とすささきち。
小動物みたいで可愛い。
でも神坂さんまだ来てないのか。
これだけ皆といれば半裸の僕達が描かれていた
禁断のノートとでも言っておこう。
あのノートの話に触れる事もなくて助かる。
というかもう思い出したくない…。
「和泉たんって私の独自調査によればこの時間には教室にいてもおかしくないんだけど…。」
沙織がそう呟く。
何でそんなことも知ってるんだストーカー野郎。軽蔑の目を沙織に向ける。神坂さんもこんなストーカー紛いの事をする奴が近くにいてさぞご不満だろう。
丁度その時教室に神坂さんが入って来た。
「和泉ちゃん!おはよう!」
沙織が駆け寄っていく。
「おはよう、神坂」
「おはよう、神坂さん遅かったね」
「おはよ…」
「あ、神坂さんおはようございます」
皆が次々に声をかける。
よし…この流れで僕も…
ささきちに続いて声をかけようとすると
「神坂さんおは…」
背中に当たる硬い感触…これはカッター!!
おはようと言おうものならば
そのまま切りつけられそうだ。
いや…でも数が多い。
一本以上は確実に背中に当たっている。
一本はカッターで正解だろう…
しかしこれはスタンガン!!
多分光と海だ。
後ろにいるのは翔太を含む計三名。
この三人は邪魔しかしてこない。
しかも笑顔のまま表情変えずにだ。
昨日と同じように声をかけノートを見たことを悟られないようにする&美少女と話すという目的が砕ける。
沙織やささきちと話すときは何もしてこないというのにこいつら本当に悪党だな。スタンガン二個とカッターを跳ね除ける。
「おはよう」
神坂さんと目が合う。
「あれ…顔色悪いよ…?」
心配そうに手をこちらに伸ばしてくれる神坂さん。今までの僕ならこれだけで天に昇天していた事だろう。
「大丈夫だよ、拓真は元からおかしいし」
光が神坂さんの手を遮る…。
なんて事をしてくれたんだクソ虫…
合法的に触れれる所だったんだぞド畜生!
…じゃなかった今回は助かった。
仕方ない。悔しいけど…。
「光、拓真が泣きそうだぞ」
「ほっといて大丈夫でしょ」
「ちょっとくらい良いでしょ」
光と海が口を揃える。
やっぱ腹立つ…。
そこに先生がやってきた。
昨日とは違う…。
良かった。
昨日の教師だったら目が合った途端に
追いかけてきそうだし…。
「早く席に着いてくださいね。
このクラスの担任の近藤岬です。
一年間よろしくお願いしますね。」
少し気の弱そうな男の先生だ。
可哀想だがこの問題児ばかりのクラスで
近藤先生がまとめれる気がしない。
「今日は第二教習所でナイフを扱います。
9時までに第二教習所に移動し
準備を済ませてください。」
そう言って教室をさっと出て行った。
やはり近藤先生には
このクラスのまとめ役は荷が重いだろう。
「よし、行くか。」
そう言って翔太は教室の窓から飛び降りる。
それに光、海、沙織、僕、ささきちが続く。
後ろを見るとふわりと神坂さんも飛び降りていた。
なぜこうも躊躇なく飛び降りるのかというと
ここから飛び降りたほうが近道だからだ。
僕ら以外は普通に校舎から出るが
飛び降りても着地に失敗しなければ
怪我をすることもないし
大丈夫だと思うんだけど。
今は2階から飛び降りたが場合によっては
4階から降りることだってある。
木も生えてるし…安全…多分…。
このクラスは総勢三十名ほど。
他のクラスはもっと人数がいたりするけど
僕らのクラスは翔太と光と海、沙織など
沢山の問題児を抱えているので
仕方ない事だろう。
不登校の級友もいるが
いじめなどではなく理由があって
不登校になっているらしいから
学校側も特別に許可を出している。
教習所で待っていたのは
ナイフなどを扱うのが上手く生徒の間で
刃物の伊藤
とクソダサい異名を付けられている先生だ。
しかし当時中二の時翔太に一対一の勝負を挑み
その結果呆気無く負けたので
顔を真っ赤にして(授業を自習にして)
職員室に閉じこもってしまった過去がある。
いつも上から目線だったので
あの時はとてもスッキリした。
「お前ら早いな。」
僕らにナイフを渡し他の奴らが来るまで
適当にやっとけと指示しやがった。
伊藤…翔太の次は僕が狙いか…。
適当にやっとけなどと
無責任な事を言われると…
こいつらは容赦無く僕に向かって
切りかかって来る。
カツラ被ってることバラしてやる!!!
光の攻撃をギリギリで交わし
翔太に斬りかかるが…
腹立たしい事に刃物はこいつの得意種目…
ちっ、避けられたか。
その間に海が背中に向けてナイフを向ける。
本当は寸止めというルールなのに
どうしてこんなにも
勢い良く斬りかかってくるんだ!
取り敢えずムカツク整った顔に
一回くらいナイフを当てたい。
激闘を繰り広げていると
神坂さんと一緒にナイフで闘っていた
沙織とささきちから仲裁が入る。
どうやら他の皆が来たようだ。
今回も引き分け…
ナイフを当てられなかったけど
自分も当てれなかった。
今日にでもこの三人の誰かの
(主に翔太)顔にナイフを当てたかった。
前回は僕と光、海VS翔太だったのに
今回は僕が一人だったからちょっと辛かった。
確かその前は海が一人だったはずだ。
こういう時間では大抵一対三か
沙織が時々参戦してきて一対四になる。
その方が楽しいけどその後の時間は
勉強は眠たくて
本当にやる気が出ないのが悪いところだ。
最初からやる気なんてないんだけどね?
ほら…うん…気分的に。