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学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第一章 キグルミ、サンドイッチマン、プラカード。そして物語は再スタート。
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 とりあえず、睡蓮等に手伝いをしてもらい、あの化け猫キグルミを脱がしたはいいものの、経験した者は分かると思うが、ああいうのは使えば使うほど臭くなる。

 よって、セリィにスレイナを一回シャワー室に連行してもらい。数十分が経ち今に至って、全員がミーティングルームに集合することができた。

 まぁ、おかげでクリスの機嫌がもう目も当てられない。スレイナに噛みつかなければいいのだが。

「とりあえず、自己紹介からだ。まずはそこの遅刻者から」

 俺がそう当てると慌てたようにスレイナは立ち上がる。

「えっと私は、千灯スレイナと申しますです! 不束者ですが、よろしくお願いしま、す!」

 そう言って彼女は頭を大きく下げた。前の机に額をぶつけるほどに。彼女は額を押さえてあははと苦笑いをする。なんというか、クリセントが我慢の限界みたいだ、一言二言罵声を浴びせたい顔をしている。

 それに本人も気付いているのか、体の前で指の先と指の先を重ねて、気まずそうな仕草をしている。それにいろいろと突っ込みを入れたくなる自己紹介だ。

 俺は改めて彼女を見る。やはり、あいつの妹だ。

 同じ桃色の長い髪だ。姉のようにストレートではなく、少しくせ毛ではある。目や顔その他すべてにあいつの面影がある。背丈もあの時のあいつと同じだ。

 歌戦姫ランキングは一五二七位中一五〇一位。それより下位は休学者ばかりであるため、実質最下位と変わらない。

「信奉者は全員で二〇名ですが、皆さんの足を引っ張らないように頑張ります!」

 その彼女の言葉にこのミーティングルームにいた者達はざわつく。

 俺はもう人目を気にせず、頭を抱える。

 二〇人だと! 他の歌戦姫は少なくとも五百人の信奉者がいるのは確実なのだ。なのに三桁どころか二桁。それも二桁の中でも少ない二〇だと! 学園での団体戦の人数の上限は千人だ。最悪一対五十の割合になりかねない。

 これだと、団体は一敗が確実。これは一か月後の大会までにどうにかしないといけない。

「さすが、『姉の劣化コピー』というところね」

 そう言ったのは案の定クリスだった。まぁ、結構待たせた方も悪いのだが、言って良い事と悪い事があるだろう。

「さすがに言って良い事と、悪い事…………」

「あ、あの! いいんです、確かにそうですから……」

 俺が咎めようとした時、スレイナが割って入ってそう言った。

 そんな言われていいのかよ。それはそれで気に食わない。

「ふん! まぁ、いいわ。次は私の番ね」

 そう言ってクリセントは自分の自己紹介を始める。

「私はエルハーベント家の次女。クリセント エルハーベント。クリスで呼んでいいわ」

 やたらと家の名前を強調するなとは思った。

 他にも簡潔に自己紹介をした後に、次の者に代わっていく。

「ワタクシは糸李 睡蓮。ワタクシの事は睡蓮で結構です」

 仕草も口調もすごく大人だ。

「ウチはセリィ エネルジーコっす。ウチの事はセリィでいいっすよ!」

 この中で一番元気な声だと思う。まぁ、ただ、椅子の上にあぐらをかいている。まぁ。ショートパンツをはいているので大丈夫であるが。まぁ、そんなに作法とか礼儀とか気にしない立だから別に俺は気にしない。

「えっと、僕はチユリ モルビィードと言います。以後ヨロシクです」

 大人しそうな感じを受ける。悪く言えば自己主張できない内気な性格だろうな。

 まぁ、確かに癖があるメンバーではあるな。

「もう聞いているだろうが、今回この五人の歌戦姫でチーム『フェルクレイリィ ヒナ』というチームを結成する。これは学園の理事長命令であるから、よほどの問題がない限り絶対だ。個々思う所があるだろうが、了承してくれ」

 クリスが少々不満そうな顔をしているが、そこは無視をして話を進める。

「それで俺はここの理事長からお前達の統括者に任命された刃斧斗 哉芽だ」

 俺の名前を聞いて何名かが反応を示す。示したのはクリス、睡蓮、スレイナの三人。

 この学園に入学するためには試験をパスするか、スカウトされるかでとくに年齢に制限はない。だから、同じ一回生でも歳はバラバラだ。

 この中では年齢が低いセリィとチユリは俺の事を知らなくても当然かもしれない。

 その点他の三人は俺と歳が近い事もあり、俺の名を聞いて分かったのだろう。

「それは心強いですね」

 睡蓮、お前言葉の割には心強そうと感じてなさそうだな。なんか、感情の起伏の少ない奴だ。いや、無関心というのだろうか。

「…………おねぇちゃんの」

 俺はその声を拾ってしまった。でも聞こえないことにしておく。それが俺の為でもあり、彼女の為にもなるだろう。

 でもその声を拾ったのは俺だけでなかったようだ。クリスが気に食わない様子で彼女を見ていた。なぜだろうかと疑問に思う。だが、クリスがこちらを向き、俺と目線があった。

「統括者さんは、プロフェッショナルリーグで活躍していたってことは分かったわ」

 ああ、これはあれだな。八つ当たりというやつだな。

 散々待たされて機嫌が悪かったものな。めんどくさいが受け止めてやるしかないだろう。

「………………あの最悪の事件以来、『欠陥品』になったって噂は本当なのかしら?」

 ……はあ、そうきたか。

「そんなので私たちの統括者が務まるのかしら?」

 そう言ったクリスの傍でセリィが首を捻った。

「ちょっといいっすか?」

「なに? そこの野生児」

 ほんとにこいつ失礼だな。確かに俺もそのあだ名はぴったりではあるが。

「なんとなくカナメンがすごいのは分かったっすけど、『欠陥品』ってなんでなんっすか?」

 クリスはため息をついた後に解説をした。

「あなたでも抗争で信奉者が得られる歌戦姫の加護は分かるわよね」

「うん、そのおかげで信奉者のみんなが怪我をしないんっすよね」

「そうよ。それに合わせて、力を得ることもできるわ。でもその加護が受けられないのが『欠陥品』と呼ばれているわ」

 蔑称だから、あんまり推奨はされてないんだけどな、その呼び名。

 つまりは、何らかの要因でその加護を受けれなくなったものを『欠陥品』と呼んでいる。

 加護が受けれなければ守ってくれなくなるのだから、強力な攻撃を受けたらそのままダイレクトに攻撃が身体に伝わり、骨折等を平気でしてしまう。大の男が吹き飛ばされる様な戦闘なのだ。加護無しで骨折で済めば幸運と言えるだろう。

「そんな『欠陥品』なのに私達の統括者が務まるとは思えないわ!」

 あー、めんどくさい展開になってきたな。

 クレマがいればあいつの頭脳で簡単にこの場をおさめてくれそうだが、この俺ではうまいやり方はみつけられない。なら、俺なりのやり方でこの場を修めるしかなさそうだ。

「あー、つまりは俺の実力をみせれば、統括者として認めてくれるわけだな」

「ええ、『欠陥品』のあなたそれができるのならね」

「そうだな、クレマに頼んで演習所を一つ確保してもらうか……」

「理事長を呼び捨て⁉」

 クリスが何か言っているが気にしない。

「じゃあ、クリス、お前の信奉者を百人集められるか?」

「私も呼び捨て⁉ まあ、いいわ、そんなもの簡単に呼んでやるわよ!」

「じゃあ、俺とお前ら百人の信奉者で演習だ」

「はぁ? そんなので勝ってもうれしくないんだけど!」

 完璧に勝てると思っているのだろう。……あまりよろしくない考え方だな。ここでそれを悟らせるのも統括者の仕事となるだろう。

「お前が勝てばなんでも言うことを聞いてやるよ」

「はあ⁉ いい度胸じゃない! この私にそんなこと言うなんてね!」

 あ、しまった。何気なく言ってしまった言葉が挑発に聞こえてしまったみたいだ。

「私が負けたらあんたの言うことを何でも聞いてあげるわ! な・ん・で・も・ね! その代りあんたが負けた時は覚悟しておきなさいよ!」

 そういうと彼女は端末を取り出し、どこかへと電話をかけ始める。おそらく信奉者を呼び集める為だろう。俺も端末を取り出し、クレマへと電話を掛ける。

 呼び出している間、俺は後悔していた。少しめんどくさいことになってしまったと。

 少し待った後にクレマは出てくれた。そこでことの顛末を話し、演習場を貸してくれないかと聞けば、彼女は笑いながら二つ返事で応じてくれた。


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