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学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第三章 抗争、抗争、抗争。少年は拳を振るう。流れる歌に想いを乗せて。
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スレイナ(Rank.1501) VS フリージア(Rank.1)~ラストダンス~

 俺はフリージア本陣へと走り出す。我に返った敵の信奉者たちが俺を止めようとかかってくるが俺は拳の一振りで玉砕する。まともに殴られた者は足が宙に浮き、十数メートル吹き飛ばされる。

 俺は昔、プロリーグで活躍していた頃の信奉者能力の一つ【完全攻撃主義者】を使えるようになっていた。これは一切の防御を無視してすべてを攻撃に費やすという能力だ。

 だから、一殴りで文字通り、人を殴り飛ばすことができる。

「てめぇが、刃斧斗 哉芽か。もう『欠陥品』じゃねぇな」

 俺の前に立ちはだかる者がいた。そいつは身長を二メートルを簡単に超えるような身長で筋肉質な体をしていた。

「俺は、フリージア様の四騎士のひとり、ゲン……」

「一つ良い事を教えてやる…………そんなにべらべらしゃべってると、舌噛むぞ」

 俺はそいつの前で大きく体を沈み込ませて跳躍力を生かして相手の顎にめがけてアッパーを放つ。それで相手の体は少し中に浮く。そしてその宙に浮いている体の重心部分めがけて俺は体を捻り、後ろ蹴りを放つ。すると相手は大きく後方へと飛んでいく。

 そして着地地点で何人もの信奉者を巻き込みながらやっと停止する。

 ゲン・何とかは起き上がってくることはなかった。俺は敵が唖然としている隙をついてフリージアの本陣ステージへと飛び乗る。

 そこにいたのは銀色を基調としたきらびやかなステージ衣装を身に着けるフリージアの姿があった。それはそれは見惚れるほどに美しかった。

 敵じゃなかったらずっと観賞しておきたいくらいにき綺麗だった。

「あのピアノ線使いに四騎士を三人も向かわせたのがあだとなったようだね」

 ピアノ線使いとはアイリアの事だろう。

「私が敵をステージ上に上がらせたことは一度もないんだけどね。つまり君が私のはじめてを奪ったわけだ」

「そりゃ光栄だ」

 抗争中そんな冗談にそれぐらいで返すのが常識だろう。

「でも、抵抗せずにそのマイクを渡してもらうとありがたいんだが」

 今彼女は、耳に賭けるタイプのマイクをしている。それを取り上げればこちらの勝ちだ。

「悪いけどそれはできない相談だ。取れるのならとってみればいい」

「危害を加えるわけにはいけないんでね」

 歌戦姫は歌戦姫の加護が薄いとされているため、ルール上、歌戦姫に故意に危害を加えることは失格行為となり、周りに警備しているジャスティス警備員の制裁対象となる。

「君は、その心配をする必要はないよ」

 フリージアは不敵に笑う。

「私も信奉者だ。私自身のね。だから君は何の心配をしなくていい」

 チユリのように、自分も一緒に戦うことのできる歌戦姫か。加護を受けれる歌戦姫だ。

 情報収集ではそんなこと一切なかったがそれも仕方がない事だろう。先ほど言っていたように今回が初めてのケースなんだから。

「だから、君は私との……」

「フリージア様がピンチだ、出助けをしろぉ!」

 その声で信奉者たちがステージに上がろうとしていた。その時だった。

「全軍、きけええぇ!」

 そのフリージアの声に皆が動きを止める。

「私がみすみすマイクをとられると思うのか‼ 私は大丈夫だ。だから、君たちは彼がいない本陣を全軍で攻めるんだ!」

 その声を聴き、皆その指示に従った。それほど、信奉者から信頼されているということだろう。やはり学園のトップだけのことはある。

 周りは本当に最低限の信奉者が残り、あとはスレイナの方へと突撃しに行った。

 俺は、フリージアに言う。

「悪いけど、俺はそんなにも甘く……」

 言葉の途中だった。俺の顔のすぐ横を突風が走る。俺は頬に熱いものが流れるを感じる。俺は後ろを見ると一本の槍が地面へ突き刺さっていたのを見る。

「私は、君の肩を並べて一緒に戦えるようになれるふさわしい女になれるよう、たゆまぬ努力を続けてきた。君に魅了された日から一日も欠かさずにね」

 俺は、息を飲む。プロリーグでもこれほど気で押されることはそうそうなかった。

「今日は本当に素敵な日だ。敵同士とはいえ、君と同じ舞台に立てたのだから。加護が全て復活せず、満身創痍で君が万全の状態でないのが、少し残念だが」

 本当に熱烈なプロポーズをしてくるな。もし、俺があいつに出会わずに彼女と出会っていたのなら、結果はどうなっていたのだろうか。

「私がどんな女か、存分に今日は堪能してくれ。だから今は私だけを見て私と」

 でも考えるだけ無駄だ。そんな仮想の世界は、絶対に訪れないのだから。

たたかってくれ」

「ああ、わかったよ」

 ここで他の事を考えたら、その隙に全てを刈り取られる。そう俺の本能が告げていた。

「よかった。じゃあ、君も楽しんでくれ。このダンスを!」

 そう言うと彼女は歌を歌い始める。

 攻撃歌【飢狼ガロウ

 その舞台上でアップテンポの曲が流れ始める。俺はその空気に飲み込まれそうになるのをぐっとこらえる。

【喰らえ、己の飢えを満たすため。

                邪魔する者は、その牙で喰いちぎれ】

 その声は神秘的で聞き入ってしまうほどの歌声だ。俺は相手へ向かって飛び出す。

 信奉者能力【紡ぎ出す神話スピニング・ミソロジー

 彼女の頭上の何もない空間から、先ほどの槍が4本出現する。

 おいおい、歌戦姫なのに信奉者能力持ちだと。もうその存在自体が反則チートだろ。

 もし、あの槍がまともに当ってしまえば、加護のない俺は死んでしまうこと間違いない。

「さぁ、グングニル。いけ!」

 フリージアが前へと大きく手を振り出すとその四本の槍は俺へと向けて一直線に飛んでくる。俺はぎりぎりのところでその四本を回避する。

「グングニルは、一撃必中の槍。当たらなければ……」

 俺はそう言われて後ろを見る。そのおれに避けられた槍はそれぞれ大きく旋回をし、再び俺を襲おうとしていた。

「当たるまで君を追いかける」

 当たるまで俺を追跡するのなら、俺に考えがある。

【弱きものとて、容赦はするな。自分が狩られる者にならぬために】

 俺は最初の三本を避ける。そして最後の一本が俺を襲おうとした時。

「あああぁぁぁぁぁあああああああぁぁ‼」

 俺は自分の信奉者能力【絶対攻撃主義者】を最大限発揮する。

 俺は拳を真正面から拳でその槍を受け止める。俺の能力とその槍の真正面の勝負だ。結果は、槍の切っ先がつぶれるとそこから槍は二つ三つに折れ曲がり勢いがなくなり音を立てて地に落ちる。地に落ちるとそれは光の粒子になり消えていく。

「さぁ、どんどん来いよ」

 攻撃は最大の防御。加護がなくとも、最大攻撃という最大の盾を持っている。必ず必中するというのなら、真正面から叩き潰せばいい。

「ははは、君はやっぱり私が惚れ込んだ勇者だよ。君はやっぱりあの時のままだ。いや、あの時以上に輝いている」

 俺のその行動を見たフリージアはそのように感嘆する。

 数多くあった信奉者能力の一つが戻ってきただけで、あの時と比べたら格段と弱いはずだ。なのに、なぜそういうことを言うのだろうか。

「でも、だからこそもっと、君を欲しくなる‼ ミョルニル‼」

 そう言うと次はフリージアの手に槌が出現し、彼女はすかさずその槌を投擲する。

 俺はまた飛んできた、槍をたたき伏せるとその槌が飛んできた。俺はその槌を槍の時同様に正面から真っ直ぐに拳で受け止める。

 だが、その一撃は槍のそれとは違い、重かった。だが、その槌を地へと落とすことができた。しかし……。

 槌は、やがてフリージアの手元へと戻っていく。

「この槌は主人の手に戻ってくるんだよ」

 そう言ってまた槌を投げる今度はもう一つ槌を出現させ、計二つの槌が俺に襲い掛かってくる。まだ二つだけならまださばくことができる。

【自分が狩った者を自らの血肉にせよ。そして、強者の階段を上り詰めろ。

自分が絶対的強者であるために】

 そう歌った後にイントロに入る、そして……。

「私の手で、沈めてあげよう。ダーインスレイヴ‼」

 そう言うと彼女の腕から一本の剣が出現する。それは黒く染め上げられたような異色の剣だった。そしてそれを握り締め、フリージアは俺の方へと向かってくる。俺は二本の槌を叩き落とした後、その剣を俺はすれすれのところで避ける。

 するとその剣はステージの床へと叩き下ろされることとなった。ステージは大きく揺れ、その剣の下ろされた部分が大きくへこむ。

 俺はバランスを崩しながらも蹴りを放つ。しかし、それを予期していたように後ろにさっと引いてかわされた。

【喰らえ、己の飢えを満たすため。邪魔する者は、その爪で切り裂け。

獲物を捕らえる方法は考えるな】

 攻撃歌の影響でかなり攻撃の力が強化されているがかなりの物だ。歌戦姫としての実力もあり、一人の信奉者としての能力も段違いである。

 これほどの才能を持っている者はそういないであろう。

 今からでもプロに入っても上位争いをするであろう程の実力だ。

 無敗というのも納得してしまう。

【血の匂いを嗅ぐため、

              自分の持つものをフルに使い、ただがむしゃら突き進め】

 もう多くを語ることをやめ、彼女は俺を打ち倒すために、歌いながら器用にも槌を投げながら俺を切りつけてくる。俺はそれを避け、ときには自らの拳で受け止め応戦する。

 彼女の想いはそれほどに強いものだった。その一撃一撃が重い。

【弱きものとて、容赦はするな。自分が狩られる者にならぬために。

自分が狩ったものを自らの血肉にせよ】

 だからと言って俺は拳を止めるわけにはいかなかった。負けるわけにはいかなかった。

『信じてるからね、カナメっち』

 もうここにはいないずるいアイツに、俺が信奉しているアイツに、俺は俺の想いを示さなくちゃいけないんだ。きっとそうなんだと、俺はそう想っている。

 だから、決して心を屈するわけには行けないんだ。

 そう、アイツと約束したんだ‼

【そして、強者の階段を上り詰めろ。

                 自分が絶対的強者であるために】

 俺は再び迫りくる槌を地面へと叩き落した。

 そして次にフリージアの剣が迫りくる。でも今度は避けない。

 俺は俺の力を信じ、真正面からそれを己の拳で受け止める。

 もう、俺の残りの体力では、おそらくこれが最後のチャンス。

『カナメっち、頑張れ!』

 きっとこれは幻聴だろう。でもそれでよかった。

 きっとこれが聞こえたのも、今、勝つために歌っているあいつの妹、いや、スレイナのおかげだろう。その想いが俺の背中を押してくれている。

 だから、俺は戦える。本当の意味で戦えるようになった。

「ああああぁぁぁぁあぁあああっぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁあぁぁぁあああぁぁぁぁぁああああああ――――‼」

 俺はありったけの想いを拳に込めて前へと打ち出す。相手の剣と、俺の拳が衝突する。そして大きな想いと大きな想いがぶつかり合い、爆風が生じる。


 そして、その爆風が収まる時、勝敗は決した。



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