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学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第三章 抗争、抗争、抗争。少年は拳を振るう。流れる歌に想いを乗せて。
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スレイナ(Rank.1501) VS フリージア(Rank.1)~復活~

 おい、嘘だろぉ!

 目の前にいつしか見た光景が広がっている。草林に隠れながら移動をしていた俺はステージの方を見ていた。

 すべてが目の前にスローモーションで展開されている。

 自分から離れたところにあるステージが崩壊を始めていた。その巨大な鉄骨でできた鉄の塊たちが一人の歌戦姫を、押し潰そうと迫っている。

 あの時と一緒じゃねぇかよ。

 俺の、俺の大切な人、大切な思い出、楽しかったあのころを飲み込んだ、あの悲劇と。

 なんだ、なんだよ、こんなの認められるわけねぇだろ。

「ああああああああああああぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあ」

 作戦の事はどうでもいい。俺はめいいっぱいに叫ぶ。それでどうなるかは分からない。

 でも、あの時にあった力さえ、俺にはもう残されていない。

 いや、あったとしても無理だろう。

 あの時、俺は自分の大切なものを守ることができなかった。力があったのにも関わらず。

 そして、俺は気付く。

 ステージに立つ彼女がこちらを向いていた。

 こちらに気付いていたのかどうかは分からない。でもわかることがある。

 彼女は微笑んでいた。


 そして、俺の中の何かがはじけるのを感じた。


 ふざけるな。ふざけるな! ふざけんじゃぁあねええぇ。

 貴様さっき自分から、話そうって言ったんじゃァねぇのか。言ったそばから約束破ってんじゃねぇぞぉ!

 俺は駆けだす。俺はとにかくそちらへ向かって。とにかく。ステージに向かって。

 そんな姿を見たのか彼女は、こちらを見て言葉を刻んだ。


 ごめんなさい。


 俺は叫んだ。こんなの認めない。俺は認めない。認めてたまるか。

 あの時と。

 あの時とおんなじ結果に、おんなじ未来に。おんなじ結末に。

 誰も喜ばれない。誰もうれしがらない。誰もたのしくない。

 そんなものにしてたまるか。

 そんなもの……。俺がぶちこわしてやる!


 俺の体が熱くなるのを感じる。

 全身が焼けこげるではないかというような熱さだった。でも、平気だった。

 むしろ懐かしさを感じていたくらいだった。

 ああ、戻ってきたんだな。俺に。こんな俺に。もう一度力をくれるんだな。

 なら俺はそれに答える。俺は音速を越える。

「刃斧斗さん! なんで来てるんですか! 危ないですよ!」

 遠くにいた彼女の声が今は自分の耳元で聞こえる。

 というか、お前は、自分の心配をしろ。

 歌戦姫は歌戦姫の加護の効能はないといってもいい。だからこんなステージが落ちてきて下敷きになれば信奉者と違い命はないだろう。

「俺を信じろ」

 もうステージが目の前に迫っているので俺はたった7文字だけで言葉を紡いだ。

 今なら、今なら大丈夫だ。おれはできる。

 手をグッとに握り込む。これでもかというくらいに握り込む。そして、構える。

 落ちてくる悪夢に向かって。

 俺は大きく息を吸い込む。腹に向かって。

 そして、悪夢が眼前に着たその時にその拳をそいつに向けて振りかざす。

「あああああああああああぁっぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁあああぁぁああぁあぁぁあぁぁあぁぁあああああぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁあ!」


 信奉者能力【完全攻撃主義者フルファイター


 その時、周りの時が止まるのを感じる。

 誰もが俺達を黙って見つめていた。見つめているしかできなかったのだろう。

 何トンもあろう鉄の悪夢がその重力に反して放物線を描き飛んでいく。

 放物線の頂点に達したとき、それは崩壊を起こし、一本一本に分解される。

 それが今度はその放物線の向こうにいる者達にめがけて降り注ぐ。

 そのあたりにいる物は全てが信奉者であり、加護があるので死にはしないだろう。

 しかし、それらの落ちた先に立っていられる者は存在しなかった。

 ああ、俺自身も感じる。その能力は昔の俺の一部の能力でしかない。

 でも嬉しかった。嬉しくてしょうがなかった。

 今度は、今度は守ることができた。できたんだ。

「…………刃斧斗さん」

 俺はその声の方へと向く。

 そこには腰を抜かして地面に座っているスレイナの姿があった。

「なに、歌戦姫が腰抜かしてんだよ。まだ抗争は終わってないんだぞ」

「……はは、そうですね」

 俺が手を差し出すと、彼女は少し戸惑う様子を見せるものの、俺の手をしっかりと握る。

「俺は作戦通りに相手本陣に特攻をかける。だから、お前はアイリアのそばに行っていろ」

 そう言うと俺は、スレイナから背を向けて歩む。

「あの」

 俺を呼びかける声がするが、俺は振り向かない。

 でもその代わりに言葉を残す。

「これが終わったら、お前とのあいつの思い出、教えろよ」

 俺はそれだけ言うと走り出す。そして、ある言葉が俺の背中を撃った。

「はい‼」

 それは明るく元気な声だった。


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