表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第一章 キグルミ、サンドイッチマン、プラカード。そして物語は再スタート。
4/46

(3)

 引き籠り生活のまず良い所は二度寝が堂々と時間を気にせずできることだ。ちょっと早く起きてしまったな。そうだ! 二度寝をしよう!

 そうなったときの幸福感と言ったら何物にも代えられない。

 だが、あいにく馬鹿野郎のせいで学園に通うことになった。

 朝起きたら、あ、もう学校か、と思った時の絶望感は最悪の部類に入る。

 だから俺は絶賛機嫌が悪い。

「…………まったく、こんな日に遅刻とか何考えてんのよ!」

 今俺はミーティングルームにいた。俺の目の前には長机が四角に並べられており、そこに四人の少女が集まっていた。その誰もが歌戦姫であり、あのクレマが俺に統括者プロデューサーをさせるというチーム『フェルクレイリィ ヒナ』のメンバー達だ。

 今回は新チームの発足式と顔合わせを兼ねた会議の日。

 その中の一人、日に焼けていないきれいな長い金髪を後ろに二本に縛っている女が悪態をつく。碧い目は印象的だ。細い手足に白い肌、一部のスキがないというように隅々まで気を使っている。少し生真面目な印象を受けるぐらいに洗礼されている。

 彼女は机を一回叩いて、その上に乗っていた飲み物の容器が揺れる。

 こぼしたら掃除をするやつの迷惑だろ。俺だって二度寝ができなくて不機嫌なんだ。少しは黙っていてくれ。

 そう心の中で愚痴りながらメンバーの詳細なデータを頭の中で思い起こす。

 彼女は、クリセント エルハーベント。備考の少し性格に難があるという評価はその通りだ。周りの目を気にせず堂々と悪態をついているところからも分かるだろう。彼女は過去に別のチームに所属していたが、他のメンバーとの軋轢で脱退。それがまぁ一度や二度ではない。

 実力の方はたいしたものだ。この学園には歌戦姫総勢一五二七名における歌戦姫ランキングというものにおいて、クリセントはそのランキングで五六位、二桁ランカーと呼ばれている。一回生ということもあり、かなりの実力であることがうかがえる。つまりは入学して数か月で数々の大会で優秀な成績を修めているということだ。それも無敗。

 それと調整者が不在の為、彼女が全体の指揮を執っていることは過去の試合の動画から確認済み。その指揮の腕前もなかなかではある。歌の方もなかなかにうまい。

 正直、その性格に難がなければ、チーム戦でも勝利を重ね、さらにランキングを上げていることは間違いないだろう。

「このエルハーベント家の人間を待たせるとはいい度胸をしてるわね!」

 彼女はこの国有数の名家であることは事実である。代々この家の女性は歌戦姫に、男性は政治家にというのは決定事項であるらしい。小さいころから歌戦姫になるためのレッスンをしていることは実力からも察せる。

 でもまぁ、これらの事を含めてクレマが雛だというのも分かる気がする。

 遅れている奴に非がないというわけではないのでここは黙っておく。

「なにか、事故でもあったのですかね」

 きれいに手入れされた長い藍色の髪を腰まで伸ばした女がそう言葉を発した。

 まず、寮の場所とこのミーティングルームはかなり近いはずだ。学園の敷地内は完全自動操縦車が動いているはずだから、自動停止がきちんとしているので、事故の線はないだろう。

 落ち着いた雰囲気のある彼女は糸李いとり 睡蓮すいれん。この中で唯一の二回生であり、歌戦姫ランキングは一五二七位中一二七位。三桁ランカーだ。

 ランキングは結構高い方ではある。しかし、資料には必要最低限の試合にしか出場していないとある。それが少し気がかりだ。

「特に予定がないですから、私は少し待っても大丈夫ですが」

 ミーティングルームの空気を少しでも和ませようと彼女がそう言うが、空気を悪くしている張本人のクリセントには通用しなかったようだ。不機嫌を隠そうともしていない。

「おなかすいたっすね~」

 そう言って椅子の背もたれにもたれかかり足をパタパタさせている。机の前の申し訳ない程度におかれていたお菓子はなくなり、包みの紙だけが机に散乱している。

 黒い長い髪をポニーテールにしている小柄な褐色の肌の彼女は、セリィ エネルジーコ。

 背もたれに体重を預け体を反っているということもあるのだが、それ抜きにしても彼女のバストは男のロマンが詰まっている。小柄なのによくそこまで大きくなったものだ。

 ……まぁ、それは置いておいて、彼女の歌戦姫ランキングは一五二七位中一〇二三位。四桁ランカーだ。正直あまりいい方ではないのは明白だ。

 原因は本人のプレイスタイル。それはそれでいいのだが、戦略を考えない猪突猛進な戦い方が完全にだめだ。調整者がいれば少しは変わってくることだろう。

「ほら、俺の分やるからあと少しだけ待っていろ」

 俺は自分の目の前にあった俺の分のお菓子を全部セリィに回す。

「やった! お兄さんいい人っすね~」

 ん~。なんか、人懐っこい大型犬って感じだな。でも悪い人にも尻尾を振っていそうだ。

 そんな様子を見て俺はふと彼女のプロフィールにあった備考欄に書かれてあったことを思い出す。彼女はスラム出身である。スラムのはずれで歌って小銭を稼いでいたところを学園の職員にスカウトされたという異色の経歴の持ち主だ。

 俺はどんな経歴だろうと気にしないがそういう所が他のメンバーにどのような反応をするか。それが少し気にかかる所だ。

 お菓子を食べ始めたセリィをよそに俺は最後の一人を観察する。

 茜色の髪をした彼女は小さな口で大きなあくびをしていた。俺とおんなじで眠たいのだろう。もう昼なのだがな。小柄で茜色のショートヘアー、赤い眼鏡が印象的である。

「…………帰って撮りためたアニメ見たい」

 そうだよな。俺もおんなじ気持ちだ。ちなみに俺は撮りためて一気に流し見する派だ。

 まぁ、彼女の歌戦姫のランキングは一五二七位中七六三位だ。半分よりかろうじて上という感じだ。しかし、彼女はそんな順位であるのだが、かなりの有名人である。

 幻と言えるほどの歌を彼女は歌える。だから彼女を自分のチームに入れようとしているところは数多い。それでちょっとした小競り合いが起こるほどだ。

 本人はそれを快くは思っていないらしい。寮の部屋に引きこもっていることが多いとある。それを見かねたクレマが今回のチームに彼女を入れたのだろう。

 すると俺の視線に気づいたのか。俺と目線があった。

「あぅ…………」

 そう言ってうつむいてしまった。そういった問題が彼女をそんな性格にしてしまったのだろう。しかし、歌戦姫においてその性格は欠点となる。

「ああ、もう! 遅すぎる!」

 もうクリスの我慢の限界らしい。とりあえず、もう一人を抜きして進めるしかないか……。もうセリィのお菓子も尽きそうな感じだしな。

 俺が始める旨を言おうとしたその時だった。

「すみません! 勧誘をしていて遅れてしまいましたぁ~」

 その声とともにミーティングルームの扉が大きく開け放たれた。

 ガツン。

 その音と現れた者の姿にミーティングルームにいる俺を含めた一同は驚愕する。

「あ、あれ? あれ?」

 その遅刻者はいつになっても部屋に入れなかった。

「あれれ? どうして入れないんだろう~」

 ガツン、ガツンガツン。

 俺は頭痛がしてきた。それも当然だろう。ミーティングルームに入れない原因は、その着ているバカでかい変な猫型のキグルミが扉に入らないからだ。

 まさか、この化け猫キグルミの中身が、プロフィールのあいつだというのかよ……。

 俺はこの場で頭を抱えたくなった。そう、彼女は俺が昔所属していたチームの歌戦姫の千灯チヒシオンの妹、千灯スレイナだ。

 彼女が『姉の劣化コピー』と言われる理由を垣間見たような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ