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学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第三章 抗争、抗争、抗争。少年は拳を振るう。流れる歌に想いを乗せて。
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スレイナ(Rank.1501) VS フリージア(Rank.1)~衝突~

 一人の歌戦姫が走る。走る。肺が苦しくなろうとも、走る。

 途中で何のために走っているのか分からなくなる。

 頭の中にあるのは、一人の青年のところに向かわなければならないということだけ。

 その方向に走っていくと目の前にある光景が映る。

「だあああぁぁぁああああああ!」

 その青年が戦っているところが見えてきた。

 しかし、スレイナはその光景に唖然とする。その理由はその青年の姿だ。

 服はいたる所が破れ、片目は打撲か何かか腫れ上がっていた。

 だが、狭い道の上で敵をなぎ倒し、けん制し、その渓谷を一人でひたすらに守っていた。

 先ほど持っていた得物で飛び出してきた一人の敵を突き倒した。よく見たらあたりに敵の信奉者の屍がつみあがっていた。

 でも、その姿はとても痛々しく、見ていられないとスレイナは思ってしまった。

「何をしているぅ! 相手は『欠陥品』だぞ! つぶしてしまえ! フリージア様の顔に泥を塗るマネはするんじゃない!」

 罵声が飛び交っているが、何せ渓谷は狭く、一気に相手しようにも四人が最大となってしまう。そして経験の差か、哉芽が上手く引いたり押したりをし、後ろに回り込まれるのを阻止している。でもスレイナは思う。

 なぜ、哉芽がそこまで戦うのか、そこまでボロボロになってまで戦うのか。なぜ? そういった言葉が彼女の頭の中で渦巻く。

「いったん、引けとの命令です!」

「なぜだ!」

「他の渓谷のうち一本が崩落し部隊が壊滅、中央の渓谷は部隊が壊滅、親衛隊が直々に攻略することになり、一時引いて体勢を立て直すとのことです!」

 その隊長らしき男は舌打ちをする。そして退却の指示を出して引いていく。

 そしてその姿が見えなくなると、哉芽は崩れ落ちるようにして膝をつく。

 それを見たスレイナは駆けだす。その青年のもとへと。

○ ○

 意識がもうろうとしている。なぜかは分からないが、敵が一時撤退していった。

 俺は手に持っていた得物をその場に落とす。

 そして、自然と目線が下がったことに気が付く。それで俺は膝をついたことに気が付く。

 ああ、このまま倒れ込んで寝てしまえばどんなに楽だろうか。

 でも俺の本能がそれを許さない。

『カナメっち⁉』

 その声は愛しい声、でも、ありえない声だった。もうその声の主はもうこの世には……。

 俺はその声の方を向く。

「刃斧斗さん!」

 駆け寄ってきているスレイナの姿が見えた。まったく紛らわしい。

「こんなにも怪我をして、大丈夫ですか⁉」

 これが大丈夫に見えるか。見えるならお前の目は節穴だ。

「今からでも遅くありません、棄権しましょう。もうその体では」

「……………………甘ったれたこと言ってんじゃねぇぞ‼」

 ああ、疲れのせいで感情の制御部分がどっかにイってしまわれたらしい。もう頭では分かっていてももう止められない。

「お前は何もわかっちゃいねぇ! お前がここに来たってことは本陣が襲撃されたってことだろ?。河豚狸をはじめとしたあの親衛隊がお前を逃がしたんじゃねぇのか。ここで簡単に棄権してみろ!」

 あいつらは個々では力を持っていない。だから、まともに敵と当たれば玉砕することは火を見るより明らかだ。でもあいつらは河豚狸はそれを承知した。

「あいつらの想いを踏みにじるつもりか‼」

「でも、あなたがこれ以上戦ったら…………」

「人のせいにして逃げてんじゃねぇよ‼」

 俺はもう思ったことを止めれるような状態ではなかった。

「俺はもう子供じゃねぇんだ、自分の事は自分で決められるんだよ! 自分がムリかどうかなんて自分が一番分かるんだよ!」

 そう俺が言うとスレイナはしばし黙り込む。そしてゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

「…………どうしてそこまでして戦うんですか?」

『私の為に』という言葉はなかった。それは彼女自身もわかっているのだろうか。

「そんなの分かんねぇよ、でもな…………」

 つい最近、同じようなことを誰かに聞かれたような気がする。その時は答えが分からなかったが、今は少し見えてきた。

「戦わなかったら、たぶん俺は、俺でなくなる。きっと死んでしまう」

 だから俺は戦っているのだろう。それは明確な答えではなかったが、大きくは間違ってはいないだろう。

「…………でも」

 ああ、でもってうるせぇ、優しい所がむかつく。あいつとそう言う所が似ていてむかつく。むかつくむかつくむかつく。

「てめえ、そういう所がむかつくんだよ!」

 あいつとだっていつもケンカしていた。こうやってお互いが怒鳴っていた。でもこいつは言い返すこともしな…………。

「……………………私だって」

「ああ? 聞こえねぇぞ!」

「私だってあなたにむかついてます‼」

 それは歌戦姫らしく大きな通った声だった。俺の耳を打ち付けるような声だった。

「私がお姉ちゃんの妹だからかどうかは分かりませんけど! あなたは他のメンバーには優しくして、私には厳しくして、私に何の恨みがあるんですか! 私がお姉ちゃんの妹だからってだけですか! そんなのどうしろっていうんですか! 自分ではどうしようもない事じゃないんですか!」

 何かたまったものが爆発したような言葉。その感情の本流は止まることなく流れ出す。

「それに刃斧斗さんにむかついてるんです! 嫉妬しているんです! だって、家族の私よりもお姉ちゃんと一緒に過ごしているから。ずるいですよ! それに優しいお姉ちゃんが家に帰ってきたらあなたの話ばっかり私にするんですよ! あの時の私はあなたが憎くて憎くて仕方がなかったんです! お姉ちゃんをとった奴だって!」

 何を!

「なら俺も言わしてもらうけどな、あいつはいっつもてめぇの話ばっかりしててむかついてんだよ! てめぇは良いよな! 血がつながってんだから! そんな特別な関係はこっちは願っても得ることはできねぇんだよ! 他人だからいつあの関係が壊れるかわかんねぇから、俺はずっとずっと、あいつのそばにいられるように努力してきたんだよ!」

 俺は痛みさえ忘れて叫ぶ。

「天才やら、勇者なんて言われたけどな、決してそれは天性の才能で手に入れたもんじゃねぇんだよ! 他の奴が寝ている時間だって鍛錬してきてたんだよ! すべてはあいつの想いを叶えるために! あ……」

 そう言った時に俺は、気付いた。気付いてしまった。気付きたくなかったのに。

 俺の戦う理由。

 それはもう言葉にしてしまった。もう認めてしまうしかない。

 俺はスレイナの姉、千灯シオンの想いを叶えるために戦っていたんだ。

 でも主目的を失くしてしまい、俺は空っぽになってしまった。

 そしてそれを認めてしまえば、必然的にシオンの死を認めてしまうことになる。

 そうなることが俺は怖かったのだ。だから、クレマに引き出されるまで引き籠っていたのだ。現実から、あいつのいない真実を認めたくないから、逃げていたのだ。

 俺は意識を失いそうになる。…………だが、俺の手を取る者がいた。

「きっとあなたはお姉ちゃんのことを…………」

「言うなあああぁぁぁぁぁあ!」

 俺は叫んでいた。俺の悲痛の叫びにおびえることや驚くこともなくスレイナは言う。

「この前、私、あなたに言いましたよね。何のために歌っているのかって」

 そうだ。あの言葉に俺は耳をふさぎたくなったのを覚えている。

 シオンが同じことを言っていたのだ。私の歌を聞いてくれる人達の為に歌いますと。

「あれ、お姉ちゃんのマネなんです。でも、マネでもいいんです」

 俺はただ黙ってその言葉を聞いていた。

「私には夢があるんです」

 あのオドオドしていたスレイナはどこに行った。運動神経もなく、どんくさい奴なのに。

「お姉ちゃんが何を思って何を感じ、何をしようとしていたのか。私はそれが知りたいんです。それで、私は……」

 ああ、やっぱりこいつらは姉妹だな。


「お姉ちゃんの成し遂げられなかった想いを私の手で叶えたいんです」


 やっぱり、いつもあいつと口げんかして勝てなかった理由が今分かったような気がする。

「でもそれは私の手では叶えられないくらいの大きなものなんです。だから私一人ではきっと叶えられない。私だけでは叶えられないのなら、私は私と想いを同じくする人と一緒にそれを叶えていきたいんです」

 彼女の手はとても暖かかった。

「もちろん、あなたも私の想いを叶える大事な人なんです、だから、無理は」

「……だからさっきも言っただろ」

 ここまで言われたら何かしらの答えを示さなければならない。

「俺の体は俺がよくわかってるんだよ。それにな、まだ終わっちゃいねぇんだよ」

「え?」

 俺がそう言った時、人の気配があった。スレイナはその方向を向く。

 そこにいたのはアイリア、アルディの姿と残りは親衛隊の7名ばかりだ。

「どうして……」

「アイリアにひとしきり暴れた後、他の者を回収するように言っていた」

 でも、親衛隊の中に河豚狸の姿は見えない。おそらくここにいない者は……。

「でもこの状態では……」

「俺達とお前の想いを叶えるんじゃなかったのか?」

 そう言うとスレイナは言い返すことはできなかった。

「これから、策を伝える。おそらく、これが最初で最後のチャンスだ。だから、よく聞け」

 そう言うと俺は皆を集めて、これから行うことを皆に通達する。


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