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学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第三章 抗争、抗争、抗争。少年は拳を振るう。流れる歌に想いを乗せて。
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控室『フェルクレイリィ ヒナ』

「はてさてどうなるっすかねー」

「…………緊張する」

「みなさん、お茶でもいかがです?」

 ここは『フェルクレイリィ ヒナ』の控室だった。そこにはメンバーであるセリィ、チユリ、睡蓮の三人がそれぞれさまざまな思いのもと、モニターの前に座っていた。

「…………大丈夫かな」

 その言葉はセリィだった。彼女はモニターに写る『荒野』にたたずんでいる一人の青年を見ていた。それに睡蓮は気付く。

「そうですね、彼の体の事もありますし」

「……え、体の事?」

 チユリは睡蓮の言葉に首を傾けた。

「あなたも彼が歌の加護が得られないことは知っているでしょ」

 確か自己紹介の時にクリスが『欠陥品』と言っていたことに気付くチユリ。

 チユリは首を縦に振る。

「ただでさえに二戦、相当な疲れに怪我だってしているはずです」

「でも、平気な顔して……」

「今にも倒れそうな人に誰がついていくと思いますか」

「……あぅ」

 チユリもそれはたしかだと思う。でも、道理だと理解しても心では納得できない。

「ぼ、ぼくが、治癒歌を歌っていれば、そうしてれば、お兄は、もっと」

 チユリが感情的になった。それを見た睡蓮は優しく微笑む。

「それを言ったら、私がもっと強ければ、刃斧斗さんに楽をさせてあげれました」

 そして近くにいたセリィが声を上げる。

「だったらウチが負けなければ、この大将戦はそもそもなかったっすよ」

 セリィもお姉さんのような優しい笑みをチユリへ向ける。

「…………何かできないのかな」

「残念ながら今はないでしょうね」

 その睡蓮の言葉にチユリはうつむく。

「でも、祈ることはできるっすよ。きっと、チユリンの想いはカナメンに届くっすよ」

 その言葉を聞いてチユリは両手で祈りはじめる。

 その時だった。ミーティングルームの扉が開かれる。そこに現れたのはクリスだった。

「…………えっと」

 ミーティングルームを占拠して引き籠るなどをやらかした後だ。クリス自身、その場でしゃべることが難しかった。なんとしゃべったらいいのか分からなかった。

 紡ぎ出そうとしても言葉が上手く出てこない。

 クリスがそんな自分に嫌気がさしそうになった時だった。

「クリスさん、お茶でもどうですか?」

「ここ開いてるっすよ」

 睡蓮がにこやかに笑ってくれた。セリィが手招いてくれた。

 それだけでクリスは目頭が熱くなりそうになる。

(…………私、ここにいていいんだ)

 幼少の時から刷り込まれていた家の価値観。そこに見放されてしまったら自分の居場所がなくなるものだと思っていた。

 今でも恐怖心はぬぐえていなかった。でも、私がここにいていいんだという事実だけでも心が軽くなる。クリスはセリィに言われるままセリィの隣に座る。

「はい、お茶です」

 そう言って睡蓮がお茶を持ってきた。その器は温かかった。クリスは自分の手が冷たいのか、お茶が熱いのか分からなかった。でも、暖かくなった。心も合わせて。

 クリスは黙ってそのお茶に一口をつける。するとチユリと目が合った。

「…………僕は皆みたいに割り切れない。だから僕と一つだけ、約束して」

 その真っ直ぐな目にクリスは目を背けたくなる。でも背けてはいけないような気がした。

「お兄が心配してた。だから、話してあげて。そしたら、僕は他に何も言わない」

「…………分かったわ」

 そう短くクリスは言った。

「さぁ、そろそろ試合が始まるっすから、応援に集中するっすよ!」

 お茶とお茶うけの準備をしていた睡蓮が戻って椅子のところに座る。皆、四人ともモニターの方へと注目する。

(もし、この絶望的な試合に、本当に勝てたら、あいつの言うこと信じてみてもいいかも)

 そんな奇跡が起これば信じてもいいかもしれないとクリスは思った。

 彼が言ったように自分の想いを自分の家族にぶつけるのだ。

 もしその結果うまくいかなかったら……。

 その時は彼に責任をとってもらおう。そう思いながらクリスはモニターを注視する。


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