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学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第三章 抗争、抗争、抗争。少年は拳を振るう。流れる歌に想いを乗せて。
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月夜の下のリサイタル

俺はもう少しで部屋に到着するという時の事だった。

 そこから歌が聞こえてきた。何かの歌声が聞こえる方向には公園があった。公園と言ってもこの学園内の公園は園児がいるわけでもないので遊具はなく、軽くスポーツができる程度の広場とベンチがあるくらいだった。

 俺はなんとなく気になってしまったのでその公園に足を踏み入れた。

 その公園から聞こえてきたものは……。

【君の瞳、輝いてる。 その瞳に 写るのは どんな風景だろう。

知ってみたい。覗いてみたい】

 この歌は、俺のよく知っている歌だ。そして、俺の悪夢の歌。

【朝日が照らす 午前中。君の瞳は 少し暗かった。

眠気が漂う 授業中。君の瞳は 見れなかった。

眠気しかない 昼食後。君の瞳は 違っていた】

 その声の主は知っている。だけどいつもの彼女の声ではない。

 今の声の方が百倍良い。良いのだが、なぜだ。

【そして放課後 君の瞳は最高潮!

君の瞳、輝いてる。その瞳に なんで そんなにも輝くのだろう。

知ってみたいよ。覗いてみたいよ】

 なぜだ。俺の心を締め付ける。

 血はつながっていても、姉のこの歌はアップテンポで明るい歌だった。

 でも、今の彼女が歌うその歌は、バラードだ。とても静かな月夜に響き渡るほどの澄み切った声。

【君が何を思い、何を感じ、何を考えているの?

気になって君の後を ついていく。

そして分かった、君の瞳が輝いている理由】

 やめろ、やめてくれ。逃げたくても、俺はその場から動くことができない。

【それは君が夢を追い求めているから。

一生懸命に辛くても頑張れる程の 追い求める夢があるから】

「……あっ」

 スレイナがこちらに気付いた。俺との間に沈黙が拡がる。

 俺の方も声をかけることができなかった。

 沈黙に耐えかねたのか、スレイナの方から声をかけてきた。

「……えっと、聞いてました?」

「…………ああ、お前、人が見てないときちんと歌えるんだな」

 俺は内心を悟らせないために皮肉を言ってごまかす。

「…………あはは」

 彼女は苦笑いを作る。今の彼女の服装は薄着だった。首にはネックレスをつけていた。鍵型のネックレスだった。俺はなぜかそれに見とれてしまった。

 それに彼女も気付いたのか、ネックレスをさわる。

「これ、気になりますか」

「……べつに」

「…………これおねえちゃんの形見なんです。クレマチス理事長からもらったんです」

 それは長い間一緒に過ごした俺にも知らない形見だった。クレマは病院で唯一シオンの最期をみとった信奉者だった。だからだろう。そんなものを持っていたのは。

「何か不安になった時はこれを握り締めるようにしてるんです」

 彼女はその瞳で星空を眺めて言う。

「…………私、刃斧斗さんに嫉妬してたんです」

 急に何を言いだすんだ。

「おねえちゃん、忙しすぎて家に帰ってくる事もまれで。だから私、いつもおねえちゃんと一緒にいられた。あなたに嫉妬してたんです」

 売れっ子の歌戦姫になれば連日のように試合、取材、テレビ出演、の繰り返しだ。彼女の言葉は嘘偽りないことを俺が一番分かっていた。

「でも、私と遊んでくれるときはとても、優しかった。いつも、あなたの事ばかりいってたのにはジェラシーを感じてました」

 彼女はまだ星空を眺めていた。

「でも、そんなおねえちゃんが大好きでした」

 俺は真正面から彼女を見ることができなかった。

「だから私、思うんです」

 俺は気付き始めていた。認めたくないことを気付き始めていた。


「大好きなお姉ちゃんが見ていた景色を見てみたいんです」


 ああ、やっぱりだ。スレイナは似ているのだ。当たり前といえば当たり前だった。

 血のつながった姉妹なのだから、似ていて問題ない。

「だから、前に刃斧斗さんにいった『私の歌を聞いてくれる人達の為に歌います』はおねえちゃんの受け売りなんです」

 俺がスレイナにイライラしていた理由はこれだった。あまりに似ていた。俺の信奉した歌戦姫の面影に。だから、俺は触れられたくない所を触れられたように腹を立てていた。

 今もその笑顔を直視はできない。

 もしその笑顔を直視してしまえば、何かを認めてしまいそうで怖かった。

「明日の試合、いや、もう今日ですね。勝てないでしょうけど、お願いします」

「そこは冗談でも、勝ちましょうっていえないのか」

「…………あはは」

 彼女は苦笑いを作る。

 そこからまた沈黙が訪れる。俺はようやく金縛りが解けたので早くその場を退散することにした。

「刃斧斗さん、無理しないでくださいね」

『哉芽っち、無理だけはダメだからね!』

 俺は聞こえるはずのない声が聞こえたような気がしたが、それを振り払い手を上げて返事だけをし、逃げるようにその場を後にするのだった。


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