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学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第三章 抗争、抗争、抗争。少年は拳を振るう。流れる歌に想いを乗せて。
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もう一つの抗争の結末

『フェルクレイリィ ヒナ』の面々は控室に集合していた。

「これはどういうことか説明してもらおうか」

「あはは、カナメン、怖いっすよ~」

 俺が抗争を終了してすでに控室の椅子にセリィが座っていた。俺達と一緒に試合に入ったのにも関わらずだ。それに分かりやすい。俺が控室に入った瞬間苦笑いしながら彼女は椅子に座っていた。セリィが顔によく出るタイプなのはよくわかっている。

 だからもうやることは決まっている。

「正座だ。正座」

 俺がそう言うとセリィは椅子の上で正座する。だが、それでは許さない。

「誰が椅子様の上で正座していいと言ったぁあ‼」

 俺の怒鳴り声にビクッと体を震わせて(オマケに大きなその胸も揺らして)俺の指さした冷たい床に大人しく正座し直すセリィであった。

 ビシビシ厳しくしろというのは本人の言葉だ。忘れてはいけない。

「なんで俺達より早くここにいるんだ? 俺達も早く決着がついたんだが。それなのにお前がここにいる理由が俺には分からん。教えろ」

「アハハっす……あのっすね」

「ハ・ッ・キ・リ・イ・エ」

「負けました‼ ごめんなさいっす‼」

 半泣きになってセリィが謝ってきた。セリィの試合の様子を見ていないので視線を変えるとクリスと目線があったので無言で目で説明を求めた。それにクリスはため息をついてから言った。

「……私の知る限りでは最速で終わったわよ」

 クリスが簡潔に説明してくれた。

 どうやらセリィは信奉者とともに前線におもむいたとのことだったが、案の定相手の罠に引っ掛かり、隊を分断され大軍に囲まれ袋叩きにあったとのことだった。

 彼女は自らも拳を振るう歌戦姫でプレイスタイルとしては珍しい部類に入る。

 だが、珍しいがゆえに皆に知られているので対策はいくらでも考えられる。

「……もういい。頭をあげろ、セリィ」

 上目使いの涙目で俺を見上げてきた。うっ、少し可愛い。

「……そのスタイルを貫く姿勢が悪いわけではない。ワンパターンなのが問題なんだ。今度戦い方っていうのをお前に教えてやる」

「ありがとうっす‼」

 そう言い俺の胸に抱き付いてくるセリィ。彼女の大きな胸が俺の体に当たる。うん。

 でもこんな小柄な体だが、自分の両親、兄弟をその背中に背負って戦っているのだ。この初戦に勝ち、大会が終わって役目を終えて引きこもり生活に戻ったとしても、たまに教えてやるくらいはしてやらなくもない。

「取り込み中悪いけど、変態さん、これからどうするわけ? これでもう全勝するしかなくなったわよ」

 セリィが負けて、チユリが勝ったことでこれで一勝一敗になった時点で残り三試合。クリスが言うのはこの後の中堅戦のクリス、副将戦の睡蓮で二勝しなければ勝てないということだろう。大将戦はもう勘定に入れていないみたいだった。

「あのな、クリス、俺は…………」

「エルハーベント家には敗北の二文字はないわよ」

 俺が言おうとしたことを遮ってクリスが言った。

 なぜ、彼女はそこまで勝利にこだわるのだ?

 俺にはそれが分からない。何かそれほどまでに敗北を嫌う理由があるのだろうか。

 俺はため息をつきたくなったが、我慢し言う。

「次の中堅戦は前にミーティングルームに乗り込んできた中にいたリンドウだ……」

 黒い長い髪を腰まで伸ばしているのが印象的でアザリアという女の首根っこを怖い笑顔で掴んでいたのが印象的だった彼女だ。

 俺が気がかりに覚えたのは、彼女の歌戦姫ランキングは一二位。『シルバティック フェンリル』のナンバー二なのは確実だ。しかし、いつもの彼女はナンバー二らしく副将戦に腰を据えているはずだった。

 しかし、今回に限ってなぜか、中堅戦できている。

 対して副将戦の睡蓮の相手はアザリア。彼女の歌戦姫ランキングは七六位。睡蓮は一二七位。アザリアはクリスと同学年である。一学年でこの順位とはなかなかのものである。

 しかし、一二位のナンバー二を押しのけてまで副将になるとは思いずらい。ならばそこに意図があると考えるしかない。意図してオーダーを変えたのだと。

「気を付けろよ。副将の彼女が中堅ということは狙って……」

「何言ってるのよ。相手がだれであろうと負けるわけにはいかないわ」

 クリスはむしろ笑みを浮かべるほどだった。

「一二位なんて、勝てばランキングがかなり上がるのは間違いないわ。これでまた上へと上がれる」

 彼女はむしろ今の状況を楽しんでいるようだった。

 しかし、勇敢と無謀は紙一重であることを、彼女は知らなければならない。

「しかしな……」

「悪いけど、これからの試合の打ち合わせをするから、私はこれで失礼させてもらうわ」

 そう言って彼女は席を立ち上がり、控室を出ていった。

「大丈夫でしょうか?」

 様子を見ていた睡蓮が俺へと話しかけた。彼女も何かを感じ取ったのかもしれない。

「……さぁ、分からない」

 俺は睡蓮よりもクリスの方でスケット信奉者枠を使ったらよかったのではないかと思ってしまった。俺は改めて収集したリンドウの資料を見る。

 そこに何かの違和感を感じざるをおえなかった。それが何か分からない事が歯がゆい。

「ここはクリスを信じるしかないな」

 スケット信奉者として参加できていれば話が変わっていた。もし違和感気付いたとしても遅い。俺はクリスの試合が始まる前にまた控室に集まるように伝えると、控室にいる全員に解散を言い渡した。


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