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学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第一章 キグルミ、サンドイッチマン、プラカード。そして物語は再スタート。
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(1)

「…………眠い」

 俺は眠気と戦いながら外の並木道を歩いていた。日は温かくすっかりと春の季節になっていた。しかし風が吹くと少し肌寒く感じてしまうこの季節。

 この風が吹くたびに俺は今すぐ家へとテレポートして季節外れの炬燵に入りPCの電源を押したい気分になる。引き籠り万歳。

 でも俺はそうも言ってられない理由がある。

 昔の知人が俺に用があるといって呼び出してきたのだ。正直無下にできない相手ではあったので仕方なく、しぶしぶ下界にはせ参じた。

 俺は周りに目を配る。

 一直線の並木道。その道の両脇には立派な木がそびえたっている。花はなく葉のみを付けている。特徴的なのは葉が桃色のところだ。四季木しきもくと呼ばれている木だ。

 春には桃色の葉をつけてひらりひらりと舞い落ちる。今はまだ早い時期なので色が変わりかけている程度。夏になれば新緑の葉が生え、秋には紅葉する。そして冬に白色の葉に代わる。少しでも日の光を入れることで木自体の温度を上げようとするためそのような色になるらしい。

 四つの季節ごとに変化するため、名は四季木となった。

 だからこそ感性が刺激されるのか、多くの歌人たちがこの木の短歌や俳句を残している。

 俺は別の所へと視線を移す。

 制服を着た俺と近い年の男女が多数歩いていた。俺はゆっくりと歩いているので何人も俺を抜いていく。制服の集団の中を私服で俺は歩いているせいか、何人かこちらの様子をうかがっている。

 俺はかぶっている帽子のツバを下げる。正直人の視線はあまり好きじゃない。

 いや、正確には好きじゃなくなった、か。でも少し安堵している。

 周りにいるのが俺と近い奴等ばっかりだからだ。ならば昔の俺を知る者は少ない。

 この並木道が学園通りと名付けられている由縁ゆえんの一つに俺は感謝する。

 とりあえず俺は歩くスピードを変えることもなく、歩き続ける。

 俺が目標に近づくにつれて人の数は増えていく。それと同時に、増えてきたものがある。

「私の信奉者ファンになってくれませんかー!」

「握手会やってまーす。どうぞ私たちの歌戦姫と触れ合ってみませんか」

「サイン会始まりまーす! 先着50名様限定!」

「撮影会やってるよー。一枚千円ですよ!」

 歌戦姫。

 まさしくそれは歌って踊れるアイドルであり、主役。

 しかし、歌戦姫抗争がある。

 抗争といってもそこまで物騒なものではない。それはスポーツ。いや、ある種の格闘技といった方が正解だろう。

 そのアイドルを信奉する者達が自分の女神を勝たせるために争うといったものだ。

 だから、歌戦姫抗争は歌戦姫一人だけでは成り立たない。

 自分の為に戦ってくれる信奉者を集めたり、支援者サポーターを集めなければならない。そうしなければ弱肉強食の世界で生き残ってはいけない。

 誰もがトップ歌戦姫を目指してしのぎを削っている。

 さまざまな種類の夢や想いがあってそこを目指しているのだろう。実力をつければ、どこかの歌戦姫事務所にスカウトされプロになる。そして企業がスポンサーについたりすれば、巨万の富を得ることも夢ではない。

 大量のお金が動く世界なのだ、歌戦姫の世界は。実際にこの目で見てきた事だから嘘じゃない。だから、夢や想いが違えど勧誘に誰も熱が入るのだ。

「どうですか、うちの歌戦姫の歌聞いていきませんか」

 俺はそう声をかけられたがスゥと会釈をし、無言のまま立ち去る。

 後頭部に舌打ちをぶつけられたが気にしない。いちいち気にしてたらハゲになる。

 そうして歩いているうちに、同じ目に何回も会う。

 私服来てるんだからてめぇら気づけよ! 俺はお前たちと同じ学生ではないんだ!

 ここが学園の敷地内なのだから、一般人は俺みたいに入場許可証を首からぶら下げてなかったら入れないんだぞ。

 そして、そこのいちゃついている男女は爆発しろ!

 俺はいろいろとイライラしてきたので歩くスペースを上げ、人ゴミの中をひらりひらりと進んでいく。そもそも、ゆっくりと歩いていたら日が暮れてしまう。

 私立マジェスティカリー・ユビルス学園。通称、マジェルス学園。

 歌戦姫及び歌戦姫関連の最高育成学園の一面を持った学園である。

 その学園の敷地は広大で、毎年何人か遭難者を出すほどの広大さだ。

 そして私立であるので、どんなブルジョアがこんな学園を立てたのだとおもうだろう。でもその建てた張本人が今回俺を呼び出した張本人なのである。

『いちおう』は世話になっているのだから、これぐらいのストレスは我慢するか。

 俺は目的地に急いでいると、目の前に奇妙なものを発見した。

 俺は少し衝撃的だったので立ち止まってしまった。


「どうか、お願いです~、私の~、信奉者に~、なってくれませんか~」


 うーん。言葉だけを聞けば正直おかしい所はない。でもやたら、語尾が伸び切ってしまっている。まぁ、原因は分かっている。目の前には……、

 毛むくじゃらの三毛猫のマスコットを全身に纏った歌戦姫がいた。ただでさえダサい。猫として終わっている容姿。

 これを作ったマスコットの会社は一度つぶれるか、業種を変えるべきだ。

 あと、その化け三毛猫マスコットだけならまだいい。

 体の前と後ろにでかい看板をぶらさげている。いわゆるサンドイッチマンと呼ばれる宣伝マンだ。手にはプラカードまで装備している。変な店の勧誘にしか見えない。

 まぁ、そんな格好でこの季節だからあのマスコットの中の温度はかなり高いだろう。のぼせた声をしてしまうのも分からなくはない。

「この私に~清き~一票を~」

 選挙か! 死んでもお前に入れたくない!

「お兄さん~、お安くしますよ~」

 変な風俗か! それにマニアックだろ! キグルミとか。

「誰か~、わたしを拾ってください~」

 捨て猫か! そんな不細工なでかい猫なんか誰が飼うか!

「え、なんですか、中の人? 中の人なんていませんよ~ 何言ってるんですか~」

 なんで否定すんの? あんた歌戦姫なんだよね? そうなんだよね?

 それに歌戦姫という程の者がなんでキグルミ着てるんだよ! そもそも顔見えねぇよ。

 ……なんかもう、頭が痛くなってきた。さっさと、用事を済ませよう。

 そしたら、俺は家に帰ってコタツに入ってPCの電源を入れ、インターネットの海の中に飛び込むんだ。俺は勧誘の波をすり抜けて学園の校舎まで急いだ。

 その着ぐるみの中の歌姫の声がやたらと耳に残った気がしたが、俺は特段に気にすることはなくその場から離れた。


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