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学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第二章 苛立、葛藤、羨望。あっという間の大会までの日々。
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オーダーの発表


 そして、大会の細かな打ち合わせまで行った。直前にあんなことがあったので少し浮ついた空気だったが、何とかなった。

 もう残っているのは初戦のオーダーのみ。

 今から俺の考えたオーダーを発表し、みんなから意見を聞くところだ。

「ざっと見たところ、大将戦であのフリージアが出るのは確実みたいだな」

 手元で集められた資料に目を通すと、団体戦で『シルバティック フェンリル』のオーダーは常に大将はフリージアになっている。

「あと、みんなも知っていると思うが、スケット信奉者の枠で俺は三回出場する予定だ」

 スケット信奉者は飛び入り枠のことだが、それには出場制限もかけられている。強い信奉者が何度も入れることができれば、何でもありになってしまうからだ。

 今回の大会では同じ人物は先鋒、次鋒戦のどちらかで一回。中堅、副将戦でどちらかで一回、大将戦で一回の三回となっている。

「それをふまえてオーダーを発表する」

 皆が俺に注目する。

「まず先鋒だが、セリィにする」

「ウチっすか⁉」

「まずはチームとしての初めての初戦だ。勢いのあるやつで士気も上げておきたい。それを考えれば、お前が一番適任だ」

 セリィはランキング的に言えばチームの中では下から二番目だ。しかし、コイツは勢いに乗れば誰にも負けない強さを持っている。それに歌戦姫が前線で歌うというスタイルはなかなかまねできないところがある。ようは戦い方さえ学べば強くなれる。

「そして次鋒、チユリだ」

「あぅ」

 俺に名前を呼ばれたチユリは驚いたのか身をすくませていた。

「それで、俺がチユリのゲスト信奉者枠で出場する」

「え、なんでウチじゃないんっすか⁉」

 セリィが抗議の声を上げる。ほんとにこいつはコロコロと表情が変わる奴だな。

「さっき言ったようにお前はもう戦い方が確立されている。でも一方、チユリは今まで歌の一辺倒で勝ってきた。このままその戦い方をすると、行き詰まる。だから俺が出て、戦い方を学んでもらう」

「そうっすか、そうだったら仕方ないっすね。チユリン頑張るっすよ!」

「う、うん」

 セリィはチユリにエールを送り、チユリはそれに答えた。二人はなかなかいい関係を築けているようだ。

「それに約束だったしな」

「……うん、頑張ってみる」

 小さな声だったがそれはたしかな意志を感じることができた。

「さぁ、次は中堅だ」

 問題なのはここから。ここまでは順当ともいえる。でもこれからは納得されないだろう。

「中堅はクリスだ」

「なんで、私なの! ふつう一番強いのが大将じゃないの?」

 ほら予想通り。

「まず、中堅戦は要なんだよ、この中堅戦は早ければ勝ち負けが決まる。だから勝たなければいけないんだよ。必ずな。だからあえて俺はお前をここに持ってきた」

 負けがないというのは伊達ではない。かなりの実力を持っていることも知っている。それに努力を怠らなかったことも知っている。

「一応理に適ってはいるわね。でも納得するかどうかはこの後のオーダーを聞いてからよ」

 それと案外気が強いように映るのだが、理に適っていると分かれば引き下がる所はさすがという所だろう。それも彼女の強さの理由だろう。

「副将は睡蓮だ。そして俺がここでスケット枠として出る」

「あら、そうですか」

 抗争に関する彼女の気力は希薄である。それには理由があるのだろうが、抗争の中で理由を見出すこともできる。彼女の変われるきっかけを俺がつくらなければならない。

 気がかりなのは抗争中の彼女の『クセ』だ。彼女が今までチームを組めなかった理由の一つでもあるそれは、はたしてこのチームにどのような影響を及ぼすのだろうか。

「……アンタのやりたいことが分かったわよ」

 クリスがそのように言った。

「必然的に大将はスレイナになるわけね。勝つための布陣というわけね」

 クリスの考えているのはおそらく、大将戦は捨ててそれよりも前に決着をつけるということだろう。そうなればいいと思ってはいるが、俺の考えているのはそれだけではない。

「あなたはそんなオーダーをどう思うのよ」

 クリスが俺の言葉を待たずにスレイナへと話しかけた。

「…………い、いえ、私はそれでいいと思います」

「悔しいとも思わないの?」

「わ、私の実力では仕方ないと思います」

 俺もあえて何も言わなかった。

 俺も人間だ。そんな後ろ向きの考えの奴の事を受け入れられるかといえば、嘘になる。

「…………ほんとに重症ね」

 罵倒するかと思われたが、何かをボソッとつぶやくだけで終わった。

「最後の大将はスレイナで行く。もちろん最後のスケット枠はここで使うしかない」

 俺はオーダーを全て言い終えた。

「少しオーダーは気に食わないけど、勝つことを考えれば妥当な線ね」

「そう言ってもらえるのなら光栄だ」

 他に何か言うことはないかと他の者にも聞いたが特に何もなかったので解散することにした。明日は大会本番だ。今更レッスンしても気休めにしかならない。

 皆席を立って移動しようとした時、俺はある人物を呼び止める。

「クリス、ちょっと残ってくれるか? 少し話がある」

 他の者達は気になって振り向くが、やがてミーティングルームを退出する。明日の準備があって皆そんなに暇ではないからだ。

 外に気配が無くなったのを確認してから俺は目の前の警戒しているクリスへ話しかける。

「聞きたいのは一つだけだ。別に他意はない。ただの興味から質問する」

 俺は気になっていた。そのことをストレートに聞いてみることにしたのだ。

「なんでお前はスレイナに厳しく当たるんだ?」

「なに、残したかと思えば、説教?」

「言っただろ、ただの興味だって。説教するなんてとんでもない」

「じゃあ、逆に聞くわ。あなたはなんでそんなことを聞くの?」

「……そうだな、腹を割って話すか」

 そうじゃなきゃ、相手から本音を引き出すことなんかできないだろう。俺は自分の思っていることを語る。

「俺はあいつを見ているとイラつく。我慢しなければ酷い事を言ってしまいそうになる」

 その言葉を聞いて、黙り何かを考える仕草をする。俺の心意をはかっているのだろうか。もしくは俺の言葉が嘘かまことか考えているのだろうか。

「ずいぶんひどい事言うのね。私はむしろあなたが彼女の姉の元信奉者だから、甘やかすんじゃないかと思ってたんだけど」

「むしろ逆だな。彼女の姉を近くで見てきたからこそ、この感情が生まれているかもな。具体的になぜかは分からないけどな。分からないからこそ、こんな質問をお前にしている」

 その言葉を聞いた彼女はまた少しの間黙って考える。

 少しの間があって彼女は口を開いた。

「イラつくはっきりとした理由は私自身にも分からないわ。ただ、これだけは言えるわ。私と彼女は似ていないようで似ているの」

「どこがだ?」

「一つは姉がいるところよ」

 クリスにも姉がいるということなのだろうか。俺は引き続きクリスの言葉に耳を傾ける。

「巨大な存在と比べられたくはないのに比べられてしまう。立場や状況が少し違うけどね」

 巨大な存在か……。

「彼女と私が違うのはただ一つ。立ち向かっているか立ち向かっていないかの違いだけよ」

 俺は黙って彼女の言うことを聞いていた。彼女の言葉で少しだが、何かが見えてきそうではあった。

「これで満足かしら?」

「ああ、すまなかったな時間をとらせてしまって」

「私はこれで失礼するわ」

 そう言って彼女はミーティングルームを出ていこうとする。しかし、途中で立ち止まる。そしてそのままこちらに振り向かずにしゃべる。

「聞かれるばかりは癪だから、こっちからも聞くわ」

「答えられる範囲で答える」

 そう言うと彼女は再び口を開く。

「あなた、エリカっていう人物は知ってる?」

「突然、なんだ?」

 俺はあまりに予想していなかった質問にその意図を読みかねた。

「ただ単純よ。これまでの人生の中でエリカという人物と交流を持ったことはあるの?」

 エリカという人の名前はさほど珍しいものではない。であればどこかで交流ぐらいあるとは思うのだが。あまりに急であったため、心当たりが思いつかなかった。

「名だけでは何とも言えないな。姓の方は分かるか」

「…………いや、別にいいわ。もうわかったから」

 表情を直接見れるわけではなかったために彼女がどのような顔をしているかわからない。

 でも、その声はとてもさみしそうなつらそうな声に聞こえたような気がした。

「…………それじゃあ、失礼するわ」

 そう言うとクリスはミーティングルームから退出していった。

 俺は一人ミーティングルームに残された。

 とりあえず、考えなければならないのは明日の一勝だ。

 今からできることは限られている。相手チームの過去の試合映像などを研究するくらいだ。それは当日チームを指揮する俺に大変意味のあることだった。

 俺は映像ルームへと過去の試合映像を借りるために歩き始める。



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