表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
第二章 苛立、葛藤、羨望。あっという間の大会までの日々。
16/46

女狼のプロポーズ

 なんだかんだ言っても大会の日まではあっという間だった。もう前日を迎えていた。俺と『フェルクレイリィ ヒナ』のメンバーの5人はミーティングルームに集まっていた。

 集まったのは大会のトーナメントの組み合わせの発表があるのとその組み合わせに応じた編成を考えるためだ。

 発表は十時の定時で各チームの責任者の登録したメールアドレスへ送信される流れとなっている。今はその定時の十分前となっている。

「今さらなんっすけど、どういう風に戦うんっすか?」

 しばらく暇になっていたため、退屈していたセリィが話しかけてきた。

 まぁ、ここにいる奴らのほとんどは団体戦が初めてだろうから説明が必要か。

「今回は非常にわかりやすい」

 俺は淡々とわかりやすく説明を始めた。

 まず今回は、五人一チームで先鋒、次鋒、中堅、副将、大将に分かれてそれぞれで戦う。チームワークより個々の力が求められる。先に三勝すればチームが勝利する。

「それで、変態、組み合わせのほうはどうするつもりよ」

 はい、変態ですよ、生きていてすみません。

「組み合わせ次第だな。まあ大体は決めているがな」

 そんな時だった。俺の端末の着信音が鳴る。俺に皆の目線が集まった。俺はメールを確認する。すると案の定大会の組み合わせの発表のメールだった。添付のファイルにはトーナメント表があった。俺はそれを開く。

 そして多くのチームからいち早く名前を見つけることができた。二番目に名前があったからだ。つまり、一番強いとされている相手と戦わなければいけない。

 そして相手チームの名は……。

「初戦の相手は『シルバティック フェンリル』だ」

 俺がそういった瞬間に場の空気が凍った。あれ、俺何かおかしなことを言ったか?

「……あぅ」

「あ、これは無理っすね」

「……急造のチームだと思って危惧はしてたけど、こうなるなんてね」

 チユリが、困ったような声をだし、セリィがあきらめたような声をあげて、クリスが頭を抱えた。ほかのチームの情報まで手を回すことができなかったので、状況を把握していないのだが、反応を見る限り結構強い相手なのだろう。

 俺がみんな何かを知っているそうなので聞き出そうとしたその時であった。

「失礼するよ、みなさん」

 そう声が聞こえ、ミーティングルームの扉が開けられる。現れたのはクレマだった。服装はいつものようにスーツ。相変わらず彼女の現れている褐色の太ももはけしからん。

 しかし、俺とは違い他の者達の表情は固まる。緊張でもしているのだろう。そうなってしまうのも仕方がない。クレマは何万人の生徒が在籍している数少ない歌戦姫育成学校の学園の理事長であり、さらに歌戦姫黄金期と呼ばれる時代を支えてきた立役者の一人なのだ。まだプロ入りも分からない見習い歌戦姫にとっては雲の上のような存在なのだ。

 急造間もないチームのミーティングに現れるなど誰しも思わないだろう。

 一言二言挨拶を交わした後にクレマは言う。

「さっそくだけど哉芽君、トーナメントの組み合わせは確認したのかな?」

「ちょうどさっき確認したところだ」

「なら話が早い。君と話したいという人がいるから、ここに呼んでもいいかな?」

「時間かかるか?」

「いやそんなにはかからないと思うよ」

「じゃあ、お前等少しミーティングの時間借りてもいいか?」

 俺は今この場にいるメンバー達に目くばせをすると別にかまわないと身をすくめるようにして目で語る。むしろ、クリスに関しては何バカなこと聞いてんのよという目線が飛んできている。

 俺はクレマにかまわないというと、彼女は後ろを向く。

「フリージア君、入ってきなよ」

 そう言うと腰まで伸ばしたストレートの銀髪の学生服の女が入ってきた。後ろには他の生徒が付き従っているようだった。おそらく彼女がフリージアなのだろう。

「キミが刃斧斗 哉芽君だね」

 そのフリージアという女性が右手を差し出してきた。俺はそのまま右手を出して握手をする。凛とした声でとても誰が聞いても耳に残る声だった。そして彼女は微笑んだ。

 握手が終わると彼女は話を始める。

「私はフリージアリィ ブリランティエだ。フリージアで構わない」

 彼女のひとつの動作でその長い髪は動きに合して流れる。そこから漂ってくる匂いはとてもいい匂いだ。

「ああ、よろしく頼む」

 しかし次の瞬間だった。クリスが急に机をたたきながら声を上げる。

「この変質者! 次の相手だと分かって言ってるの⁉」

 クリスのその声に俺は改めてフリージアの顔を見る。

「そうなのか」

「そうなのかって言っておきながら、全然わかってないわね」

 クリスが頭を抱える。対戦相手だからってべつに敵対心を絶対に持たなきゃだめってことはないだろう。

「良いわ、私が教えるわ」

 そう言ってクリスが話し始める。

「彼女はこの学園の歌戦姫にして生徒会長よ」

「へぇ~」

「…………とりあえず、この学園で生徒会長という意味が分かるかしら?」

「生徒の代表ってことだろ?」

「…………それはそうだけど、ここでは違う意味が出てくるの」

 もうなんかクリスがあきれた感じでいるのを前面に出してきて言う。

「この学園の最強よ。歌戦姫ランキング一位しかなれない称号でもあるわね」

「そう言われるとこちらもうれしいものだね」

 笑みを浮かべてフリージアは言うのだった。それを気にすることなくクリスは言う。

「そして、実力は高く、プロになるのは確実とされているわ」

 若くしてそこまでの実力をつけているのか。大体の者はプロリーグとしていきなりプロに入ることは難しい。だいたい早くても一、二年はアマチュアリーグで腕を慣らすのが普通である。ここでクリスはにらみつけるようにしてフリージアを見る。

「そして今まで無敗の歌戦姫。そして、私が初めての黒星を与える相手よ」

「何を言ってるのです‼」

 扉から少し高い声が聞こえた。俺はそっちに視線を移すと、そこにはフリージア以外に二人の女性がいた。その声を上げたのは、背が小さな方だった。

「フリージア会長にそんな生意気な言葉を吐くとは許せないのです!」

「あら、あなたはアザリアさんね」

「ワタクシメ、アザリア・R・インノチェン・テトの名を知っているとはよく勉強してやがるのです! でも会長の口の利き方は別の話なのです!」

 アザリアと名乗った彼女はオレンジ色の髪を短くポニーテールにしていた。口調からしても真面目そうなのがうかがえる。朱色の眼鏡が一層その真面目さを引き立てている。

 手足も細く一つ一つの動作にかわいらしさがある。

「アザリ、その件は別にかまわない、むしろ好ましいほどだその挑戦心は」

「…………挑戦心ね」

 明らかな敵意の視線をフリージアに向けるクリス。挑戦心という言葉を上から目線だと感じたのかもしれない。

 でも、相手はそれを許してしまえるほどの風格があるのは認めなければならない。

「しかしですね!」

「アザリはん?」

「ふぎゃん!」

 部屋に入ってきたもう一人がアザリアの首根っこを摑まえる。捕まえた瞬間濁った声をアザリアは上げていた。

「フリージアがいいと言っているんよ? …………あなたそれでもでしゃばるつもり?」

 く、黒い。黒いオーラを出しながら彼女はアザリアの首根っこを掴んでいる手に力を入れる。それも微笑みを崩さずにやっているところに少し恐怖を覚える。

振船ブレフネ先輩‼ イタイ。痛いのです! もうでしゃばり、ませんのです! 許してくださいのです!」

 振船と呼ばれた彼女の外見は美しいというのがしっくりとくる。スタイルもよく、古風であり端正な顔つきをしている。今は制服を着ているが着物などきたらとてもよく似合うだろう。彼女の腰のあたりまで伸びている黒髪が一層それを引き立てそうだ。

「いえ、あなた何度言っても聞かんよね? 一度体にきっちりと教えるしか人と思うんよね? どんなことして体に教え込ませよか?」

「…………リンドウ、そろそろ許してやれ、アザリは悪気があったわけじゃないんだ」

 フリージアに名を呼ばれた女性はそう言われると黙ってアザリアの首根っこを手放した。

「すまないね、騒がしてしまったようで」

「……ふん」

 先ほどのやり取りに毒気を抜かれたのかクリスはそう言って黙った。

「それで、次の対戦相手さんはここに何をしに来たんだ? まさかコントをしに来たってわけでもないんだろ?」

 そう俺が言うとチームの親玉でもあるフリージアは微笑む。

「それもそうだね、今日来たのは挨拶もあるんだけど、一番の目的は」

 彼女の言葉に懐の熱さを感じる。これが学園一位の風格とでも言うのだろうか。

「…………刃斧斗 哉芽、君に話があってきたんだよ」

 少しその場に驚きの雰囲気が広がる。それもそうだろう。一位の歌戦姫がわざわざ一回の男に話をしに来たんだから。

「私は…………」

 フリージアは俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。下手な奴が見たら、勘違いしそうだな。

 でも次に彼女が言った言葉に衝撃を受ける。


「私は君が欲しい」


 始め彼女が何を言っているのか、理解できなかった。

「はぁ⁉ 何言ってんのよ!」

「その言葉の通りだよ」

 クリスの言葉をすぐさま打ち消すフリージア。俺に矢先が向いていなかったら別に勝手にしろって話なんだが。何も言い返せなくなったからってそう俺をにらむな。クリス。

「一応、聞くが、なんで俺なんだ」

 その言葉を聞いた彼女はすぐさま口を開く。

「君の経験、スキル、理由を挙げていくと数えきれない。君の全てが、私のチームにいい影響を与えるのは確実。でもそれらは建前でしかない。今から君には本当の事を言う」

 そう言うと俺に近づいてくる。彼女の背丈は高く、正直、住む次元を疑わせる程の造形美だ。銀色の髪がそれを一層引き立てる。それが自然体というのだから、末恐ろしい。

「私は小さい頃にプロで見た君のファンなんだ」

 俺はそれを聞いて黙って聞くしかなくなった。

「小さい私がみたテレビに映る君は踊るように戦っていた。そんな君に私は釘付になった。そして今私は歌戦姫になり、君は信奉者としてこの学園へとやってきた。この巡り合わせに、もう誘うしかないだろう?」

「……知っているだろうが、あの時の俺は死んでいる。期待には添えそうにないな」

 そうなのだ。いくつもあった信奉者能力は消え去り、信奉者としての能力は、経験から学園の生徒には勝るだろうが、プロになんか行けば簡単にあしらわれる。それに学園の信奉者も学べば話が変わってくるだろう。

 そんなものをチームに誘ってなんになるというのだ。

「ああ、知っているさ。君に何が起こったのかも。私は君の信奉者だからね、私は。でもそんなことは関係ない」

 その言葉は嘘偽りのない事なのだろう。彼女は真剣そのものだった。

「死んでしまえば、新たに生まれ変わってしまえばいい。本当に死んでしまったわけではないんだからな」

 まったく、簡単に言うんだな。

「簡単ではないのは分かっている。でも、どんな困難があろうとも君のそばで寄り添う」

「まるで愛の告白のようだな」

「そうとってもらってもこちらはかまわないぞ。それほどに君が欲しいのだからな」

 学園一位。プロ入りが確実とされている歌戦姫。他の奴にしてみれば喉から手が出るほどの誘いだろう。

「大変光栄で、俺にメリットがありそうだな」

「もし、入ってくれるならずっと私のそばに寄り添ってほしい」

 俺にはもったいない過ぎる話だろう。こんな絶世の美女が言い寄ってくるのだから。詐欺なんじゃないかと思ってしまうくらいに良い話だ。


「だが、断る!」


 俺はそう言った。

「フリージア会長がそこまで言っているのにそこまで言っているのですよ! どうしてあなたは、ふぎゃん!」

 リンドウにまた首根っこを掴まれて押し黙るアザリア。

「どうしてなんだい? 何がそこまで君をそうさせるんだい?」

 真剣な顔でこちらの目を見てくる。

「引きこもりをなめるんじゃあねえぞ。引きこもりは一度決めたことはなかなか曲げないんだよ」

 プロ入り確実の歌戦姫のもとでいれば生活は安泰だろう。

 でも、今そこは俺のいるべき場所ではない。

 何かを見つけなければならない場所は、きっと俺が今いるこの場所で見つけなければならない。しばらく俺をじっと見ていたフリージアだったが、口を開く。

「『今は』という感じだね」

 どうやらばれているようだった。ここまで見抜かれると、彼女の実力も認めなければいけないだろう。

「あまりしつこいと、君に嫌われてしまうだろうね。まだ時間はある。今日のところは引き下がるとしよう」

 微笑みながらそう言う。

「それと、明日の初戦、よろしくお願いするよ」

 そう言うと彼女は手を差し出してきた。俺は黙って手を差し出し握手をする。

 彼女の手は予想通りに温かかった。

「そして私の戦いを歌をそばで見て、考えを改めてくれれば、嬉しいな」

「善処するよ」

 そう会話を交わすと、フリージア一行はこのミーティングルームを後にしようとした。

「あなたがクリスはんね? あなたの噂は聞こえてるわよ」

「……それはどうも」

「いつかお手合わせ願いたいもんやわ」

「それはこちらもお願いしたいところです。自分よりランキングが上の人には。自分がランキング上げるのにもってこいですから」

「うふふ、元気やねぇ」

 クリスとリンドウは火花を散らしたあと、リンドウは部屋を後にした。

 そして、そのあとに続いて部屋を後にしようとする者が。

「おい、クレマ」

「え、何かな?」

 こいつとぼけた感じでいるが、やはり確信犯だな。

「この組み合わせ、わざとだろ」

「そんな八百長じみたことできるわけないじゃないか。いくら理事長だとしてもね」

 長年の付き合いからわかる。こいつは嘘をついている。でもその嘘を今ここで暴いても無駄に終わる。このチームには実績がないのだ。いくら入っているメンバーが強くとも、実績がなければ初戦に強い所にあてられても文句は言えない。

「わかったよ」

「それじゃあ、君たちの健闘、心から祈ってるよ」

 そう言うと彼女はミーティングルームを後にした。

 俺がメンバーを見ると正直面々はいろいろな面持ちでこちらを見ていた。

「…………いろいろあったが、明日の初戦の事を決めようと思う」

 俺はだだそうとだけ言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ