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学園抗争歌戦姫~スクール・ストライフ・ソング・ヴァルキュリア~  作者: 十参乃竜雨
閑話その二 引き籠り、ゲーム、説教、ボクの戦(うた)わない理由
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書店にて遭遇。そして平和的交渉

気にしなければいいのに。

 そんな言葉が頭によぎる。でも人は自分のさがに逆らうことはそうそうできない。強い意志でもない限り。昨日のセリィとの一件でチユリの事が気になってはいた。かといって、強引に彼女の家に乗り込むわけにもいかない。

 なんとか接点が持てればいいのだが。

 彼女はどこか俺と同じ匂いがする。アニメ見たいとか言ってたからな。

 しかしまぁ、急にどうするってこともできないわけで。俺は取り合えず、書店に向かっていた。マンガやラノベを見に行くためだ。

 別にネットで購入してもいいんだが、やっぱり手に取って、いろいろと物色できるというのは書店の利点だ。

 それに同じチェーン店の書店でもそれぞれに特色がある。マンガやラノベがたくさん置かれているところもあるし、ある種類、あるレーベルが豊富な書店もあったりするし、平積みに力を入れているところだっている。その逆もしかりだ。

 その店に関わる人、その書店に来る客層で特色がどうしても出てくるのだ。書店に通い詰めるとそう言うことが見えてくる。だからPOPとかをきれいに作っていたりするとびっくりしたりもする。

 逆にラノベとかマンガの棚でしょっちゅう1巻が欠けているのを見たりするとすこし残念な気持ちになる。

 大変なのは分かるけど、全国の書店員さんには頑張ってほしい!

 話はさておき、この学園の中にある書店はどんな感じなのか気になる所でもある。

 場合によってはクレマに上訴も辞さない覚悟だ。


 そんなこんなで学園の敷地内にある書店へとたどり着いた。やはり広大な敷地に、何万人もの学生が通うところから、書店の規模はかなり大きかった。

 ちょっと心が浮かれてしまう。俺は自動ドアをくぐる。

 書店独特な香りが俺の鼻をくすぐる。

 この匂いは好きだ。そして、初めて来た書店の目的のコーナーを探すときの楽しみは特別だ。次回からはもう、迷うことなんてなく真っ直ぐに向かうようになるしな。

 俺はあえて案内板を見ずに広い店内を歩き回る。

 やっぱり学園ということもあって、参考書といった勉強に関する類が多い。それについで雑誌が多い。まぁ、参考書は俺には縁がないだろうな。俺は一階に目的なものがないとみるとすぐに階段を見つけ出し、上る。

 すると階段の階層表示が目に入った。

 一〇階もあるのかよこの書店。どんだけ品ぞろえすごいんだ。ここは。

 で、マンガは8階か。どうやら上の方に隔離されているというわけか。

 俺は階段を上っていく。そして8階が近づくにつれて、階段に貼られているチラシやポスターが色鮮やかになっていく。

 で、案外苦労せずに8階まで登ってきた。

 どうやら同じ階にCD、DVDコーナーもあるようだ。もちろんアニメ関係の。

 とりあえず、まずは目的なものを探そう。

 俺は階段付近にあるレジを通り過ぎてマンガの海に入っていく。

 そこら辺は手際がいいので、目的の物が置かれた棚を発見し、手に取る。

 それからも二,三の目的のものを回収する。それが終わると、少し店内を物色することにした。

 もしぴんときたものがあれば試しに一巻目を買ってみるのもいい。

 俺は棚や平積みされた物に注目しながらゆっくりと歩く。そんな時だ。思わず静かな書店で声をあげそうになった。そこは平積みの一画だ。

 とあるマンガの限定版だった。特典に、アニメDVDがついているというものだ。アニメ化された作品で、その未放送の部分が今回の原作の特典となっている。

 ネットでは入荷するとすぐに売り切れになったという代物であり、それも特典が好評ということもあり、とにかく入手困難な代物。

 なんでこんなところにあるんだという疑問はさておき、俺はそれを手にとろうとした瞬間だった。小さな誰かの手が俺にぶつかる。

「すみませ…………あ、」

「あ」

 その手の主と俺は目が合った。それは俺の知っている人物だった。

「……、何してるんだ?」

「……あぅ」

 書店なので少し抑えた声量でジャージ姿のチユリに聞いた。ジャージ姿といっても、最近は可愛いものも多いよな。小柄でスレンダーのチユリのスタイルを損なわない可愛いデザインのジャージである。ジャージでも、案外彼女はそういう所は気にしているのかもしれない。でもおびえた様子で明らかに会いたくない人物に会ったって顔してるな。

「……、それ、あるって聞いたから、買いに来た」

 俺がチユリの手を引いた隙に手に取った限定版に指を向けられていた。

「お前もこのマンガ好きなのか?」

「うん。アニメ化される前から、原作の大ファン」

 俺もこの作品のファンだ。

「どういう所が好きなんだ?」

「最近忘れかけてた王道もの。最近奇にてらった作品が増殖しているのにたいして、これは王道にチャレンジしたまっとうなファンタジー。きれいに描写が描かれていて、出てくる登場人物がいい意味で個性的に描かれていて……」

 何かのスイッチが入ったかのように、チユリは話し始める。まったく想像できなかったチユリの姿である。

「……あ。……あぅ」

 そんな自分に気付いたのか、顔を赤くしている。

 なんだこの可愛い生き物は。すると上目使いでこっちを見てきて言う。

「それ、買っちゃうの?」

 俺はその一言に困った。正直これは譲りたくはなかった。でも、かといってそんなに熱い想いを語られると同士としては無下にするわけにもいかない。

 どうしたものか…………そうだな。

 俺は、ゆっくりと棚へと戻した。

 俺は特にコレクションするこだわりはない。その作品を堪能できればいい。

「譲る。その代わりと言ってはなんだが……」

 俺は条件を言おうとした時だった。

 俺とチユリの間に影が走ったかと思うと。

「モレ、『ブレ興』の限定版ついに手に入れたんだお!」

『ブレ興』とはその限定版のマンガの略称だ。

 俺達の間を割って入ってきたのは河豚狸であった。

「…………あぅ」

 チユリが泣きそうな顔をしている。もちろんあの巨体豚が持つあの限定版に向いている。

 とりあえず、俺のやることがここで確定。

「よう、河豚狸、こんなところで会うなんて奇遇だな」

「おう! 刃斧斗氏! 奇遇だお」

 俺は河豚狸の肩を掴み力を入れる。

「い、いたい! いたいんだお! 刃斧斗氏! どうしたんだお?」

「いや、ちょっと、そこのトイレ、で話でもどうかと思ってな」

「い、いや、モレはこれから忙しいんだ、おぉおお」

 なんでか知らないが俺から逃げようとするので、少し手に力を入れた。

「そう言うなって、平和的な話し合いをしようとしてるだけだ」

「そ、そんな怖い笑顔で言われても説得力ないんだお! 確実に武器を隠し持っている顔なんだお! それと野郎とツレションする趣味はないんだお。二次元美少女になって出直してくるんだぉ!」

「何面白いこと言ってるんだ、あはははははははは」

 だれのどこの口が怖いなんて言ってるのかな~。それよりも。

「抵抗しなければすぐに楽になるからな」

「もう隠す気すらないんだお⁉」

 俺は腕力をそのままに河豚狸を近くトイレまで連行した、平和的な交渉は見事に五分もかからずに終了したのだった。


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