夕餉(ゆうげ)の買い出し
もう夕方になっていた。俺は朝走り終わって寮に戻ると筋トレをした後、二度寝に入った。昼前に起きると昼飯を作り、撮りためたアニメを視聴しながら食べた。
そして気づいたら夜になっており、晩御飯を作ろうと思ったら俺の補給基地となっている冷蔵庫は枯渇の危機に陥っているとわかり、近くのスーパーに来ている。
学園の敷地内にスーパーがある。そこに新鮮な食材や惣菜、弁当などが置かれている。学園の外のスーパーとはそんなにそん色はない。まぁ、学生が圧倒的に多いから、コンビニ並みにカップラーメン等のインスタント系の食材がそろっている。逆に弁当などは少ない。これはまぁ、学食があるせいだろうけど。あと、こういったところで学生ではない人達が働いていたりする。
俺は店内の入り口の近くにある野菜コーナーを見て回り、適当にメニューを考えてその野菜をカゴに入れていく。そこから精肉コーナーに行き、割引の札が張られた肉を手に取って品定めした後、カゴに入れていく。
簡単にパパッと作って、続きになっているアニメを見よう。
そう思って俺は総菜、弁当コーナーを通り過ぎようとした時だった。
「あ、奇遇っすね」
またまたその声に聞き覚えがあったので俺はその声の方を向く。
はたまたセリィだった。今日はコイツとよく会うな。
まぁ、ストーカーされているわけでもないから、ほんとに偶然なんだろうな。
「偶然だな。買い物か?」
「そうっすよ、晩飯を買いにっす」
そう言って彼女は自分の手に持っている籠を見せてきた。その中には半額シールが張られた弁当が二つあった。よく食べるな……。でもそれは……。
「お前、自炊はしないのか?」
女性だからとかそんなことは関係なく、俺は聞いてみた。
「あははは、炊事は全て妹にまかせていたっすから」
彼女は笑いながら後ろ頭を掻く。
でも、俺は笑えなかった。
たまにぐらいなら別に良いだろう。彼女の素振りからして毎日であることは想像に難くない。栄養素が偏る事をはじめ、こういう店にある弁当は保存が利くように油でコーティングされているものもあるし、食品添加物があったりする。毎日は体によくない。
こいつの統括者である以上、無視できる案件ではないな。
俺は少し考えた後、一つの考えを思いつく。
「…………とりあえず、その弁当、戻してこい!」
一度手に取った弁当を戻すなど、マナーがあまりよろしくないがこの際仕方がない。
「ええっ! なんでっすか? 結構おいしんっすよこの弁当。半額になるのが珍しいっす」
「金がないんだろ? 俺が晩飯作ってやる。その方が安くって旨いのがたらふく食えるぞ」
「ほんとっすか‼」
予想以上の食いつきに俺は後ろに後ずさってしまう。
「…………あ、ああ。二言はない」
「じゃあ、戻してくるっすね」
あっさりそう言うと小走りして弁当コーナーへと戻っていくセリィ。尻尾があったらきっと振っているんだろうな。
一分もしないうちに彼女は戻ってきた。彼女のカゴは飲み物だけになっていた。
「それより。何作るんっすか⁉」
そういうと俺の腕に飛びついてきた。お、おい。お前のその胸が俺に当たってるぞ。なんというか、クリスのとはまた違った柔らかさが俺の腕を刺激する。
セリィは俺のカゴの中をのぞき込む。
「カナメンも、結構食べるタイプっすか?」
お前と一緒にするな!
「作り置きしようと思っていたんだ。冷凍してればまたいつでも食べられるようにな」
万能調理器具、電子レンジさんだ。これを発明した人は世紀の発見をしたといえる。
「いやー、これはいよいよカナメンにはお嫁に来てほしいっすな」
それを言うなら婿だろって突っ込むのも馬鹿らしくなったので、言わなかった。
「どうせ、お前の部屋には調味料とか調理器具とかないんだろ? 俺の部屋くるか?」
「お、さりげなく乙女を部屋に誘う、カナメンすごいっすな」
「飯食ったら強制的にお前を排除するから安心しろ」
「なんか言い方がひどいっす!」
だってリラックスしてアニメが見れないだろ?
「それと今のところお前に手を出すつもりはもうとうない」
「それもひどいっす!」
悲痛な声を彼女は上げるが気にしない。俺は打ちひしがれる彼女を放っておき、レジへとカゴを持っていく。
会計が終わり、品をレジ袋に詰めて店を出ると、セリィが慌てて俺についてきた。
彼女がいろいろと文句を言ってきたが、俺は笑ってさらにからかってやった。
それから、俺達は晩飯をとるため、俺の部屋へ向かう。