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上屋敷梁子のふしぎな建物探訪  作者: 津月あおい
2軒目 白木蓮の咲く家
22/110

2-2 事件

 それから数日後、梁子はまたデリバリーのスクーターを乗り回していた。

 今日は平日なので夕方からの出勤である。

 暮れなずむ街を背景に、軽快に風をきる。


「そういえばあの化けタヌキさん、どうしてるでしょうね」

『さあな。どこかでまたエサでも探してるんだろうよ』

「エサ? そういえばタヌキって、何食べるんですか?」

『やつら雑食だからな……柿の実やらドングリやら昆虫やら、食えるものならだいたいなんでも食うぞ。ああ、あの家なら、白木蓮の花弁でも食べていたかもな』

「えっ、あの花って食べられるんですか?」

『ああ。滅多に口にしないが、食いもんが他になければ仕方ない』

「へえ。食べれるんですか……たしかに白くてつるっとしてて、なんだか美味しそうですもんね」

『お前も食うのか。まあ、人間も食えないことはないだろうが……よしておいた方がいいだろうな』


 ジュルリとよだれをたらしそうになった梁子に、サラ様は呆れたように声をかけた。


「でもなんで人間に化けてたんでしょう。まさかあの家の住人……なんてことは……」

『そんなわけあるか。異形の者が棲みつくなど、そうそうあるものではない。このあいだのは例外だ。長く住めばそれだけ近所の者に不審がられたりする……そんな危険をわざわざ冒しているとは考えにくい。あそこに居たのはたまたまだろう』


 しゃがれ声はエアリアルたちの家を思い出したのか強く否定した。

 あれは例外中も例外だった。

 なにせ魔法科学者と付喪神たちが棲まう家だったのだ。

 あのような特殊な家が頻繁にあっては食事がしにくくてたまらないのだろう。

 サラ様はそうあってほしくないと半ば願っているかのように吐き捨てた。


『そんな不可思議がそうそうあってたまるか』

「サラ様だって……不可思議のかたまりじゃないですか。あの、思うんですけど、たまたまだったら余計に化ける必要は無かったんじゃないですか? だってその家の人じゃなかったら単なる不審者ですよ」

『むう……そう言われるとそうだな。ではなぜ……』

「ねえ、サラ様、もうすぐあのタヌキさんがいた家の近くですよ」

『……だからなんだ』

「ちょっと見に行ってみませんか?」

『行ってどうする。たしかエサ場を覗き見されて怒っていなかったか? わしは余計な面倒ごとを起こしたくはない』

「でも……あの家、良さそうなお家だったじゃないですか。なんでタヌキさんが化けていたのかも気になりますし、ね、もう一度行ってみましょうよ」

『はあ……わかった。だがあのタヌ公がまた居るとは限らんぞ』

「はい!」


 梁子は嬉々としてアクセルをふかした。


 白い木蓮の咲く家が見えてくる。

 だが、そこは物々しい雰囲気に包まれていた。


「えっ、いったい……何があったんでしょう?」


 家の前には人だかりと、たくさんのパトカーが停まっていた。

 救急車に白い布がかけられた担架が載せられていく。


「サラ様、誰か亡くなったんでしょうか……」

『ああ、そのようだな』


 小声で話していると、他の野次馬たちの声が聞こえてきた。


「孤独死ですって」

「サヨさん、結構なお歳だったものね……」

「最近見なかったけれど……私、声をかければ良かったわ」

「でもたしか息子さんが一人いたわよね?」

「ええ、様子見に来てたのかしら……」

「嫌だわ。私もああなるのかしら」

「かわいそうにねえ」


 どうやら亡くなったのはこの家の老齢のご婦人らしい。

 梁子はワクワクしていただけに、居たたまれない気持ちになった。

 家の周りには現場を保存するためか、規制線が張られている。

 警官が何人も出入りしたり、見張りのために往来に立っている。

 その中に見知った顔があった。


「あっ! あれは……」


 真壁巡査だった。

 梁子が気づいたのとほぼ同時くらいに、向こうもこちらに気づいたようだった。

 真壁巡査はニヤニヤと笑いそうになって慌てて頬を叩いている。


「ええと……出直しますか」


 梁子は面倒くさいことにならないように、静かにその場を離れることにした。

【登場人物】

●上屋敷梁子――間取りを集めるのがライフワークの女子大学生。ダイスピザというピザ屋でデリバリーのバイトをしている。

●サラ様――上屋敷家の守り神。他人の家の間取りが主食。

●真壁巡査――交番勤務の警官。

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