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上屋敷梁子のふしぎな建物探訪  作者: 津月あおい
1軒目 魔女の墜落した家
18/110

1-16 【真壁巡査の混乱】

閑話のサブタイトルは【】で表記しています。

真壁巡査視点です。

 真壁衛一は上の空だった。

 巡回用の自転車に乗っているが、そのスピードは近くを通る小学生よりも遅い。


「はあ~~~っ」


 大きなため息をついて、衛一は自転車を停めた。


「まったく、こう……どうして俺は……」


 頬をパンッと両手ではたき、気を取り直して目的地へと向かう。

 その音に小学生が驚きの視線を送っていた。


 しばらくして、昨日梁子に職務質問した場所に着いた。

 ふと違和感を感じる。


「あれ? ここ、こんな場所だったか……? たしかあそこに古そうな洋館があったような……」


 見回してみてもどこにもそれらしい建物はない。

 住所は合っているはずなのに、記憶の中にある風景とはどうにも違っていた。

 それもそのはず、一夜にしてエアリアル・シーズンの家はかき消えていたからだ。

 衣良野に「混乱魔法」をかけられた衛一は、なかなかその異変に気付けない。


「いや~~、どうみてもここ、だよな……?」

 

 地図とにらめっこしながらあたりを見回す。


 衛一はあれから日報を書くはずだったのだが、記憶を改ざんされていたために一向にうまく書けないでいた。しびれを切らした部長に「もういっぺん巡回がてら現場を見て来い!」と放り出され、しぶしぶここへやってきたのだ。

 衛一自身は、梁子のことを思い出すと思考に靄がかかったようになり、それがうまく書けない原因だと思っていた。


(やっぱりあの子に一目惚れしちまったのか? それで……こんな……)


 日報を書こうと思えば思うほど、記憶は混乱し、結果一日中そのことを考える羽目になっていた。それほど彼女に惚れてしまったのだろうか……。そう思うと、不甲斐ないを通り越して情けなくなってくる。

 これでも勤務態度はずっとまじめな方だった。

 私情をはさむようなことはいっさいせず、感情に振り回されるなんて論外。市民のために己を捨てて全力で仕事に臨む――。

 そんな姿勢が自分のポリシーであり、誇りであった。 


「はあ……まったく俺らしくねえな。しかし……今、彼女どうしてるのかな。もうあの絵は描き終わったかな……」


 折りたたみ椅子に座って、デッサンしていた彼女の姿をふと思い出す。


「ん? そうだ、彼女は……たしか絵を描いていた。そう……古い洋館の絵を……。そして……衣良野と書かれた表札があって……その家の庭に入って……猫に襲われて……。そうだ、ここだ! たしかにここだった」


 梁子のことを思い出しているうちに、急に思考がクリアになったようだった。

 だが、妙なことも思い出した。

 その絵に該当する建物が、どこにも見当たらないのだ。

 あったであろう場所は草がぼうぼうの更地である。

 これはいったいどういうことなのか……。


「……そうだ。俺は本部に確認もとっていたはずだ。あの家は空き家だと……。それなのにどうして……。夢まぼろしだったのか? いや、もう一度上屋敷さんに会って絵のことを聞けば……」


 衛一は自転車を押すと、街の巡回を再開させることにした。

 ひととおり終わった後で梁子の家に向かうことにする。

 幸いにも、手元の手帳には身分証明をさせたときに控えた梁子の自宅の住所が記載されていた。


「こういう形で再会するのは気が引けるが……まあ、仕事だからな、仕事。けっして不純な動機じゃあないからな……! うん、セーフだセーフ」


 にやにやと笑みを浮かべながら、自分を納得させる言葉を羅列する。

 自然とペダルをこぐ足にも力が入る。

 十分な速度を取り戻した自転車は、住宅街を颯爽と駆け抜けていった。

【登場人物】

●真壁衛一――交番勤務の警官。階級は巡査。

●部長――真壁巡査と同じ交番勤務の警官。階級は巡査部長。

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