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上屋敷梁子のふしぎな建物探訪  作者: 津月あおい
1軒目 魔女の墜落した家
13/110

1-11 消失

「ふー、まだあんまり……眠気がスッキリとれないですけど……行きましょうか、サラ様」

『そうだな』


 午後の講義も終わり、梁子としゃがれ声の主は大学を後にした。

 バスでくだんの家に向かう。


「えっと……たしかこのあたりだったような……」


 住宅街を歩いていると、やがて昨日来た場所までやってきた。

 だが、はたと足が止まる。


「え。そんな……!」


 あの家が、あの古びた洋館が跡形もなく消え失せていた。


 草ぼうぼうの荒れた庭はそのままに、建物だけがこつ然と消えている。

 あたりに人目がないのをいいことに梁子はその敷地に立ち入った。

 門のところを見ると『衣良野』という表札もすっぽり抜けている。


「どうして……!」


 慌てて庭を突っ切ると、敷地の真ん中にはコンクリートの基礎だけが残されていた。

 それは昨日見た建物とほぼ同じ広さである。

 ところどころ崩れているところを見ると、昨日今日立て壊されたものではない。長い年月が経過しているようだ。


「サラ様……これはいったい……」

『ふむ。逃げられたな』

「えっ?」

『後手に回った。くそっ、このわしともあろうものが、不甲斐ない……』

「に、逃げられたって……どういうことですか? 一夜にして建物が取り壊されるなんて……そんなのありえないですよね?」

『馬鹿者。良く思い出せ、あいつらは皆付喪神のようなものだったはずだ。その中に一人、家の精と名乗るものがおっただろうが』

「ええ。たしか……エスオさんでしたっけ。オカマの……」


 梁子は妙なしゃべり方をしていた男を思い出す。


『そうだ。あいつがあの家の形を成していたのだろうよ。実体はなく、あくまであやつが変化した姿だったのだ、あの館は』

「えっ? 家に化けてたって……ことですか? じゃあ、わたしたちが招かれた家は……まぼろし?」

『ああ。まったくよく騙されたものだわい。どこか妙だとは思っていたが、このわしの目まで欺くとは……やはり奴ら、ただ者ではないな』

「ど、どうするんですか。いなくなってしまったってことは……もう交渉することもできないんですよね? ていうか、明日また来てくださいって言われて来たのに……」

『まんまと出し抜かれたな』

「サラ様!」


 ふはははは、としゃがれ声が呑気に笑うので、梁子は抗議の声をあげた。


「笑い事じゃないですよ! せっかくわたしが見つけたのに……逃げられるなんて! ああ、無理にでも昨日のうちに話をつけておけばよかった……」

『まあ、あの時、一度引き下がろうと言ったわしにも責任はある……。許せ。すでに手も打ってある』

「え?」


 しゃがれ声の主が何事かつぶやくと、基礎の部分から光る糸のようなものが天に向かって伸びていった。


「な、なんですか、あれ……」


 その糸はある高さまで伸びるとそこから直角に曲がり、また北の方へと伸びていく。


『目印を付けておいた。万が一、ということもあると思ってな。杞憂であればと思ったが、存外役に立った。気付かれてなければ、だが……これが追跡してくれる先にやつらはいる』

「そんな、いつのまに……」

『久方ぶりの食事だ。取り逃してたまるか……。追うぞ、梁子!』

「はい!」


 糸を追いかけて、梁子は走り出した。

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