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 橋野が入部した翌週、写真の展示に使わせてもらう教室が決まった。教室の大きさと展示用のボードの大きさがわかったので、今回はボードの配置と写真の展示方法を話し合うことになった。

「こんなこともあろうかと」

 と、水上は製図用の方眼紙を机の上に出した。

「な……、一度は言ってみたかったセリフを」

 天水は悔しがっているが、みんな気にしない。

「ボードの置き方から決めるか」

 そう言ってから、水上は全員に方眼紙を一枚ずつ配った。しっかりとした厚紙だ。

「これってけっこう高かったんじゃないですか?」

「気にすんな」

 五人とも方眼紙に教室を表す枠を描いて、ボードの置き方を考えている。

 古泉は方眼紙を眺めながら、去年の大学祭の展示を思い出していた。使う教室は今年と違うところだが、部屋の作りはほとんど変わらない。ボードを並べて写真を飾るというのも去年と一緒だ。

 だから、去年の改善点をボードの配置に反映させることにした。去年は写真を多く飾ろうとして通路が狭くなってしまった。

 何度か消しゴムを使って描き直していると、天水と水上が話し始めた。

「ひとまず、壁際にボードを並べるってのは決まりか?」

「そうだね。とりあえずはそれで考えてみようか」

「通路は広くした方がいいよな」

「うん。去年は狭くて、迷路みたいだったからね。思い返すと、あれはない」

 天水も古泉と同じことを考えていたらしい。

「そんなにヒドかったのか?」

 水上は夏川に聞いた。

「といっても、通路が狭かったくらいで、あとはなかなか良かったと思いますよ」

 少しばかり無理に褒めているような気がしないでもない。

 三人が意見を出しあってるかたわらで、橋野の手が止まっていることに気付いた。方眼紙を見つめながら何か他のことを考えているようだ、と古泉は思った。

「どうかした?」

 正面に座っている橋野に古泉が声をかけた。彼女ははじかれたように顔をあげた。

「あ、いえ。展示って私の撮った写真もだすんですか?」

 橋野はおそるおそるといったふうに尋ねた。

「うん」

 簡潔に答える。

「ええー」

「不満?」

「いえ、不安というか、自信がないです」

 橋野は鞄から赤いコンパクトデジタルカメラを取りだして、古泉に見せた。

「カメラも、これですし」

 橋野のカメラに目を向けた。薄型の電源を入れるとレンズがせり出すタイプのコンデジだ。古泉は橋野が言いたいことがなんとなくではあるが、わかった。天水はデジタル一眼レフ、水上はフィルム一眼レフ、古泉はレンズ交換式ミラーレス、夏川はファインダーのついた高級コンデジをそれぞれ使っている。そのことに対して彼女は劣等感、というより疎外感のようなものを感じているのではないだろうか。

 カメラのことだけではなく、すでに四人で成り立っていた写真部に中途半端な時期に入部したことも疎外感の一因になっているかもしれない。どうにかしてあげられないだろうか、と古泉は思った。

「そのカメラだと、いい写真が撮れない?」

「はい。皆さんのようなもっと良いカメラじゃないと」

 古泉は少し数秒黙ってから立ち上がり、水上と夏川の後ろを通って天水の背後にあるパソコンの電源をつけた。

「おかまいなく」

 パソコンがたちあがる間に、彼女の方を向いていた四人にそう言っておいた。インターネットを開き、お気に入りに登録してあるサイトにアクセスし、検索をした。

「橋野、これ」

 目的のページを開いてから橋野を手招きした。彼女はなぜか緊張した様子で近づいてきた。その顔を見て古泉は、さっきの態度だと怒っているように思われたかもしれないと気付いた。

 橋野はおそるおそるパソコンの画面を覗いた。澄みわたる空のもとに連なる白銀の山々が写された写真が、画面いっぱいに表示されている。

「これって?」

 状況がわからないであろう橋野が聞いた。

「橋野のと同じ機種で撮られた写真」

 橋野はもう一度画面に目を向けた。

「こんなに綺麗に撮れるんだ……」

 古泉は見やすいようにと橋野に椅子をゆずった。同じページの他の写真を順番に見ていく。

「どんなカメラにも得意な被写体と苦手な被写体があるから」

 橋野の横に立って古泉が話し始めた。

「機能なんてのはあまり重要じゃなくて、どう写したいのかを考えながら撮ることが大切だと思う。もちろん、思い通りの写真にするには技術が必要だけどね。私もまだまだだし」

 そう言いながら橋野の肩に手を置いた。

「わたしにも、こんな写真が撮れますかね」

「できるよ。もっと良いと思える写真も撮れる」

 静かになったと思い振り向くと、三人とも話し合いを中断してこちらを向いていた。

 ちょうどいいタイミングだと思ったので、古泉は先ほど思いついたことを提案することにした。

「話は変わるけど、今週末、橋野の地元を案内してくれない?」

 写真部では毎週ではないが、土曜日に写真を撮りに近場に出かける。橋野の地元は二つ隣の市なので時間はあまりかからないで行ける。

「賛成。紗綾ちゃん、お願いしてもいい?」

 橋野は戸惑いながらも、

「はい」

 と、はっきりとこたえた。

 中途半端な時期に入部したこともあり疎外感を味わわせてしまったかもしれないが、それでも彼女はこの時期に写真部に入ることを決めてくれた。古泉は、橋野を仲間に迎え入れたいと、あらためて感じた。

 デジタルカメラの場合は「デジタル」と表記するようにしています。何もなかったら、例えば単に「一眼レフカメラ」と書かれている場合はフィルム一眼レフカメラのことを示しているはずです(見落としがなければ)。

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