三
橋野の入部を理由に、夏川が席替えを提案してあみだくじで決めたが、夏川の座る場所は変わらず議長席のままとなった。夏川の位置から時計回りに天水、橋野、古泉、水上という配置になった。
「しばらくはこれで固定か」
水上がどうでもよさそうに言った。
「席変えませんか?」
上座は落ち着かないので夏川は水上に言った。
「くじで決まったんだから諦めろよ、議長殿」
「議長じゃないですよ」
「部長と議長って、どっちのほうが偉いんですかね?」
「そりゃあ部長だよ」
橋野が発した疑問に天水が即答した。
「いや、議長だろ」
なぜか水上が反論した。
「部長っていっても会社の中間管理職じゃないからね。写真部の長、つまり部長が一番偉いんだよ」
「部長の権力なんて所詮は部内だけのものだろ。その点、議長はありとあらゆる会議を取り仕切ってるからな、国連総会とか。なあ、議長」
水上は夏川に同意を求めた。
「なんというか、絶好調ですね二人とも。それと議長じゃないです」
が、同意はしない。
「ふふ、水上君、夏川君、残念ながら君たちは勘違いしているよ」
天水は不敵な笑みをたたえながら言った。水上が勝手に言っていることなのにいつの間にか夏川も巻き込まれていたらしい。まったくもって心外である。
彼女は、おそらく橋野が入部したから嬉しくて舞い上がっているのだろう。水上は悪ノリしているだけに違いない。
「確かに、一般的には議長の方が偉い。それは認めよう。しかしだね、今は写真部の部活動の時間。この間は何人たりとも部長である私の意に背くことはできぬのだよ!」
天水はバン、とけっこう強く机をたたいた。痛そうな音だった。決め顔だが、歯を食いしばっている。
「写真部ってそんなに独裁的なんですか?」
「いや、話半分に聞いてていい。天水は褒めたりして持ち上げると雑用とかやってくれるから、便利」
「なるほど、勉強になります」
蚊帳の外で、古泉が新入部員にろくでもないことを教授していた。
「言い返せねえ。悔しいが仕切りは部長に譲ろう。すまない、議長殿」
「あ、いえ、本望です」
うなだれた水上は放っておくことにした。
その後は何事もなかったかのように天水が仕切って、文化祭の出し物について話し合った。教室をスタジオに改造しての撮影会、暗室を用意しての現像体験、パソコンを使った写真編集講座などの意見が出た。
しかし、検討してみるとそのどれもができそうになく、結局夏川と天水が推した写真展示が無難だろうということでまとまった。
「よし、今日はこれまで。みんな、この後時間ある?」
全員を見回しながら天水が言った。みんな特に予定はないらし。
「何かするんですか?」
そう聞いた夏川に天水は答えず、微笑みかけた。
「紗綾ちゃんは自転車で来た?」
「はい、自転車ですよ」
「じゃあ大丈夫だね。これより、紗綾ちゃんの入部歓迎会を行います。神妙に」
天水がそう宣言したので、とりあえず拍手をした。統一感のない拍手が止むと、古泉が聞いた。
「どこか行く?」
「ファミレス、とかで」
天水は確認するように橋野の方を向いた。
「行きましょう」
と、橋野が賛成した。
「神妙なファミレス……店内に祭壇とかがある?」
「それはきっとファミレスじゃない。別の何かだ」
「入らない方がいい?」
「そうだな」
古泉と水上はどうでもいいことを話題にしている。いつものことだが。
「一番偉いらしい部長のおごりですか?」
夏川が笑いながら聞くと、すかさず橋野が天水に向かって合掌し、
「ごちになります」
と頭をさげた。が、天水は、
「割り勘にしようぜ。さややん以外で」
と、親指を立てて言った。もちろん、反対するつもりはない。