一
八月の終わりに台風が通り過ぎ、その後また暑さが戻ってきた。
写真部の合宿という名目の旅行から帰ってきて最初の部活で、いつものように天水が切りだした。
「好日祭の出し物を決めます」
好日祭とは彼女たちが通っている大学の文化祭のことだ。旅行のことで浮かれていた夏川は文化祭のことなど全く頭になく、天水の言葉を聞いて、そういえばもうそんな時季になっていたのかと思った。
誰も反応を示さないので、夏川は他の二人の様子を窺った。古泉は平然としている。彼女は三回目の文化祭なので、そろそろ準備を始めることがわかっていたのだろう。一方の水上は、何か考えているような表情だった。
天水の発言から数秒の沈黙を経て、最初に口を開いたのは水上だった。
「それって、いつだ?」
「そこから!? そこから説明しないとダメなの?」
出し物について話し合おうとしていた天水にとって水上の疑問は意外だったようで、少しあきれ気味だ。二年生と三年生しかいないこの場でそんな質問が出るとは思わなかったのだろう。
「十一月のはじめ」
特に動じた様子もなく古泉が言った。
「二ヶ月後か。まだ時間はある、のか?」
水上は天水に尋ねた。夏川は昨年水上が文化祭が終わった後に入部したことを思い出した。準備にどれくらいの時間が必要かわからないのだろう、と思った。
「まあ、何をするかによるよね」
「去年は何をしたんだ?」
「水上君、見に来てないの!?」
天水はオーバーリアクションとも思えるしぐさで驚いてみせた。暑いのに元気だなあと夏川は思った。
「参加しなければ連休になるからな」
「てっきり、展示に感動して入部を決めたんだと思ってたよ」
「つっても文化祭自体に来てないからな。旅行行ってた」
「おみやげは!?」
天水は身を乗り出しながら聞いた。
「知らんわ!」
天水につられたのか、水上の声も大きくなった。
「去年は教室を一つ使って展示をしましたよね」
話が進みそうにないのと天水を落ち着かせるために、夏川が口を挟んだ。
「うん。人手が少なかったからあまりちゃんとしたものはできなかったけどね。今年は色々と手を加えたいな」
「あと、出店」
と、古泉が付け加えた。
「出店って?」
水上が聞き返した。
「部費を稼ぐために以前やってたらしい。聞いた話だけど」
「よし、やろう」
天水が即決した。
「できるのか?」
「うん。できるよ」
「じゃあ、やろう」
水上が賛成した。古泉も頷いている。その様子を見て夏川が、
「出し物の方はどうするんですか?」
と、話題をもどした。出店を出すことについて異論はない。
「あ、そうだった」
天水が思い出したように言った。
「むしろ出店だけにするってのは?」
「はい。焼き鳥がいい」
水上の冗談(のはず)に続いて古泉が手を上げて提案した。この二人は普段話しているときと同じ声音や態度でふざけるので、馴れていないと冗談なのかがわかりにくい。
「水上君の意見は却下で」
天水が切り捨てた。
出し物はともかく、出店では焼き鳥を売ることに決まってしまった。