蝉の声
未だ寒い季節なので文章で暖かくなろうとした結果です。
蝉がうるさく泣き喚く午後は、より一層夏の暑さを感じさせてくれる。子孫を残すためと、彼らが必死に鳴くのは仕方のないことである。だが如何せん暑い。
窓を閉め切り部屋の奥に逃げ込んだって、その声は聞こえてくる。クーラーをガンガンと効かせて、その上氷枕で涼んでも蝉の声で暑さを感じるのだからたっまもんじゃない。そんなことをボヤけば、隣に座る少女は苦笑しながらこう行った。
「そんなに毛嫌いしなくてもいいじゃないですか。あの声が聞こえないと夏が来たって感じがしませんよ?」
少女は蝉の声にそれほど不快感を持っていないようだった。きっとこんな小さなことで悩んでいる自分がおかしいのだろう。しかしあの声だけは、どうしても慣れない。
「それはそうだけど、五月蝿すぎるし暑いんだよ。もっと数が少なければこんな気持ちもおきないさ」
溜息をついて閉め切った窓の外へと視線を向けた。
「――あぁ、また耐熱ガラスを買い直さないといけないな」
彼らの声に当てられてボロボロになっている窓を見つけて、憂鬱な気分になる。まだまだ夏は始まったばかり。この壊れ具合だと、今年は二回ほど窓ガラスを取り替えないとまずそうだ。ほかの家では蝉の声でここまで出費はしないだろうに。
体質とは言え、弱い体に生まれてきたのが恨めしい。しかしその分、冬に強いから何とも言えないが。
少女はボロボロになった窓ガラスを見て何を思ったのか、思いついたかのように手を合わせて言った。
「これを期に声に慣れてみませんか? 窓開けちゃいましょうよ。こうガバッと開けて全開にするんです」
何を言い出すかと思えば、去年の夏と同じ事を言っていた。
「そう言って死にかけたのは何度目かな。私はもうごめんだね。蝉の声だけは無理なんだよ」
「慣れれば暑いぐらいなんですがねぇ」
少女はのほほんと言うが、私にとっては死活問題である。
「熱いどころじゃないよ。私は燃えてしまうんだよ」
少女がなんと言おうとも、私にとっては彼らの声は熱いのだ。熱くて暑くて燃えてしまう。
だから早く冬が来ないかと思いを馳せるが、外はやはり、彼らの大合唱でうるさかった。