「冒険者」
「クラッツ!ねぇ、クラッツ起きて!」
目が覚めた私は、近くで火の番をしていたクラッツに声をかけた。
反応がないから、わざわざ近くまで来てみたのだけど。案の定、彼は寝ていた。
まぁ、遅くまで頑張っていたみたいだから感謝してるけどねっ。
「ん、あぁ。すまない、寝ちまってたか。」
「気にしないで。それより、出発の準備しておいてよねっ。そろそろ行くよ?」
「おう、分かった。」
軽い朝食をとった後、私達はカラコッタを目指して歩き出した。
「なぁ、ナイン。お前、金は持ってるのか?冒険者登録には金がかかるだろ?」
「勿論、それくらいは持ってるわよ?宿に泊まれるかは微妙だけどね…。」
私は微妙な表情で答えた。
「…そうか、俺もだ。よく準備せずに家を飛び出して来ちまったからなぁ。でも、ナイン?その荷物の中身は何だ?ずいぶん重そうに見えるが。」
「ん、これが私の商売道具よ。中身は薬とか冒険に役立つものが入っているの。売り物だから緊急時以外は使わないわよ?それと、街には二ヶ月は滞在する予定だから。まぁ、頑張りましょ?」
「ふむ。二ヶ月か、何かしら仕入れないと、旅先で生活出来ないからな。頑張りますかね!」
そんな話をしているうちに、目の前には石造りの立派な城門が見えてきた。門では、多くの商人や旅人の一団が、荷馬車を引いて中に入っていく様子が見えた。
「うわぁ…大きい。綺麗ね。自分の目で見るのと、話に聞くのとでは全然違うわね!それにしても、今日はお祭りでもあるのかしら?」
「そりゃあ、ここらで一番でかい街だからな。」
街の中は大勢の人々で賑わっている。今日は収穫祭があって、他の街からも沢山の人が集まっているのだとか。
入口には案内板が立ててあったので、さっそく冒険者ギルドを探すことにする。
「冒険者ギルドは、街の北東にあるようね。中には酒場があって、外には鍛冶工房が併設されているみたい。とりあえず、登録を済ませましょ。」
二人は街の中央広場から北東へ、路地を抜けていく。そんな二人を、常に一定の距離から覗いている者がいた。
(チラッチラッ。)
クラッツとナインは、路地を右に曲がると、足を止めて振り返った!
同じように曲がってきた、追跡者の緋色の瞳と目が合う。彼女は驚愕の表情を見せると、慌てて物陰に隠れる。
(サッ!)
「おいおい…、今バッチリ目が合っただろ!今さら隠れても遅いから!」
すると、彼女は物陰から出てきて、ここぞとばかりに自己紹介をしてきたのである。頭の後ろで自慢気にポニーテールが揺らされる。
「バレちゃあ、仕方ないね。私はドワーフのアネッタ・ルベルディ!この街の腕利き鍛冶職人の一人なのだ!どうだ?私のお願いを聞いてみない?」
(・・・。)
二人は顔を見合わせて、何事か話し合う。
「おぃ、ナイン。このチビッ子、いきなり自己紹介してきたと思ったら、お願いまでしてきたぞ?」
「おいっ、聞こえているぞ!私は、チビッ子ではない!こう見えて歳は十九だぞ?酒も飲めるし、子供だって作れるぞ?」
等と、アネッタは騒いでいる。
「うーん。別に悪い人じゃなさそうだし、話くらい聞いてあげてもいいんじゃないかなー?」
ナインは横目でアネッタを見ながら、そう提案する。
「まぁ、ナインがそういうなら。」
クラッツはアネッタに向き直り、声をかけた。
「おい、アネッタとか言ったな。俺達はこれからギルドに行かなきゃならない。話はその後で聞いてやるから、一緒に来るか?」
「むっ、分かった!ついて行くぞ!」
そう返事するなり、アネッタは二人の後についてきた。
◇◇◇
冒険者ギルドは、レンガ造りの平屋で、その横には鍛冶工房が併設されている。ギルドの中には酒場があり、冒険者達が酒を酌み交わしている。
ギルドの受付は、入ってすぐのところにあった。
そして、受付嬢…ではなく、ギルドマスターと思われる髭面のおっさんが挨拶をしてきたのだった。
(ここは美人のお姉さんがお出迎えする場面だろー!何で髭面のおっさん!)
クラッツは内心で文句を垂れていた。
「おう、お前ら!冒険者志願の新人か?登録するなら、この紙の必要事項に記入して、また持ってきな。」
そう言って、羊皮紙か三枚渡される。
三人は羊皮紙を渡されると、各々が必要事項に記入して、登録料の銅貨五枚と合わせてギルドマスターに渡した。おっさんは、それらを一瞥した後に、少し待っていろと言って、カウンターの奥へと歩いていった。
ーー
ーーー暫くして。
「よう、三人組。待たせたな。これがお前たちの冒険者カードだ。詳しいことは、向こうのカウンターにいる、受付嬢に聞くといい。まぁ、頑張りな!」
そう言うと、ギルドマスターは待っていた冒険者と話始めた。
ナイン達は、カードを受けとると、クラッツをはじめに、言われたカウンターの方へ歩いていく。
カウンターでは、エルフの受付嬢達が冒険者相手に依頼の紹介や報酬の受け渡しをしていた。
クラッツが受付嬢の一人に声をかけた。
「お嬢さん、俺達はさっき登録を済ませたんだが、このカードの説明と、簡単な依頼があったら紹介してほしい。」
受付嬢の彼女は、クラッツに笑顔を向けると、簡単な説明を始めた。
「冒険者ギルドへようこそ!さっき登録したのが貴方達ね?マスターから話は伺っているわ。職業だけど、クラッツさんが戦士。ナインさんが狩人。アネッタさんが鍛冶職人みたいね。パーティーとして見ると、回復職がいないけど、ナインさんが錬成術を使えるみたいだから、道具で補う感じになるかしら。もしくは、ギルドで募集をかけてみるのもいいかもしれないわね。」
「つーか、いつの間にかアネッタがパーティーに入ってるんだが?」
「良いではないか。専属鍛冶職人なんて稀だぞ?」
アネッタは勝手に話を進めていく。
「それでですね。冒険者には位がありまして、低い方から第一階梯。最高で十二階梯まであります。当然、受けられる依頼も位に応じて、難易度の高い報酬が豪華なものになります。位は試験を受けることで上げることが可能です。ですが、最初は簡単な依頼をこなして慣れた方がいいでしょう。第一階梯の冒険者が受けられる依頼は、掲示板に貼り出してありますので、そちらをご覧になって下さいませ。分からないことが在りましたら、私のところへ来てくださいね。」
一通りの説明が終わると、彼女がナインに握手を求めてきた。なんでも、飼い猫の雰囲気に似ていて親近感がわいたのだとか。これからもお世話になりそうだし、仲良くなっていてもいいと思う。何故か、クラッツが端で悔しそうにしていたけれども。
次は依頼を受けて、冒険に出発です!
しかし、そんな三人を魔物の脅威が襲う!
絶体絶命のピンチから、生きて街まで戻れるか!?