始まりの日
ある高校の正門の前に1人の男の姿があった。彼は、その高校の制服を来ていることからここの生徒なのだろう。彼が見る先には1人の女子生徒が手を振っていた。
彼の名前は、山森健一。山森財閥の御曹司。彼は、一年ほど前までは別の高校に通っていた。彼が、かつて通っていた高校は聖王高校と言う。聖王高校と言うのは、聖神学園傘下の聖帝大学付属聖王高校の事を言う。彼が住む地元では有名校でもある。彼の住む街、川越市には20校の高校がある。
その内の2校は、地元では進学校として有名である。まず一つが、彼がかつて通っていた聖王高校。もう一つが、現在彼が通っている私立山戸川高校。
山戸川高校は、進学校である前に、自由な校風と体育祭や文化祭などの学校行事に力を入れているので、生徒からは好評を得ている。
更に、部活動などは必ず何かしらの部活動に入らなければならないが、先輩後輩の上下関係はなく生徒一人一人の関係は良好だ。
そんな彼も、山戸川高校では生徒会会長をしながら、野球部の主将も兼任している。
余談ではあるが、一年前に彼が転入した際の生徒会会長は、彼の姉の山森莉沙だった。
あの日から何もかもが変わった。
あの日、彼は。
遡ること約一年前。
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「先輩、進路ってもう決めたんですか?」
「あ、あぁ進路ね。……それなんだけどさ。その俺さ、進路先変更することになった」
「え、何でですか?」
「まぁ、気持ちの変化かな」
「嘘ですよね。古田先輩」
「嘘じゃないんだ」
「そんな、どうしてですか? それに、3年生全員の様子がおかしいのと関係があるんですか?」
「……わ、悪い。また、後でな」
「先輩!」
「一体何が起きてるんですか?」
「おや、山森じゃないか何してるんだ?こんな所で」
「……昴さん」
「はは、君のお父さんには、世話になっているがここは学校だ」
「昴先生」
「で、どうしたんだい?」
「古田先輩、いえ、3年生全員に何があったんですか?」
「……俺の口からは、何も言えんな。だが、聖神学園のHPを調べてみろ。放課後に、情報科室に来ると良い」
「……昴先生」
「そろそろ授業が始まる。戻れ」
「はい」
そして、放課後に俺は情報科室に来た。
いつもは、情報科室の扉は鍵がかかっていて入る事は出来ない。
それが、放課後になって鍵がかかっていないという事は、昴さんが開けたという事だろう。
部屋の中には誰もいない。当たり前か。俺は、上履きを持ち情報科室の中に入る。
情報科室の中に入ると一つのパソコンだけ起動していた。
そのデスクトップには、ある学園のホームページ開かれていた。
それは、聖神学園のホームページだった。
『聖神学園
我が聖神学園では、生徒の進路は、生徒個人の能力を活かせる分野への進学を薦めている。例えば、政治や経済に関わる事等の社会で活躍出来る様に、恥ずかしくない生徒を育て上げる事が我が学園の理想である』
そこに、書いてあったのは俺も調べた事がある。至って普通な聖神学園のホームページだった。けど、文字をドラックすると、そこには書かれていない文字が浮かび上がった。
そこには驚愕すべき内容が書かれていた。
相手の盲点を突いた最悪な行為だ。詐欺まがいの卑劣な行為だ。俺は、とにかくこのホームページを印刷した。情報科室を出ると、そこにはある一人の男の人が立っていた。
「見たか? アレを」
「ええ、見ましたよ」
「お前は、どうする? いや、聞くまでも無いか」
「ええ、行きますよ。聖神学園に」
「そうか、なら丁度良かった。俺も、あの理事長に用があったからな」
「行きましょう。昴さん!」
俺は、昴さんの運転する車で聖神学園に向かう。急いで走らせる事、20分。
聖神学園に着くと、俺と昴さんは走って理事長室に向かう。途中で警備員に何度か止められかけたが、昴さんの機転で回避する事に成功した。10分程して、理事長室に着くと二人同時に入る。
「山竝理事長……!」
「やはり、来たか。山森君に星影昴」
聖神学園理事長。山竝證。
彼はは、俺たちが部屋に入ると顔色一つ変えずにそう言った。
まるで、最初から俺たちがやって来るのがわかっていたかのように。
「私に何の用かな?」
「山竝證、お前は一体何を企んでいる?」
「なるほど、君たちが聞きたいのは、私の目的だな。目的というものではないが、ホームページに書いてあった通りの事さ」
「な、あんな事を本当にやってんのかよ。」
「山森君、別に驚く事ではないだろう。君も、知っているはずだろう。“彼”を診たのならばな」
「……」
「山竝理事長、こういう事は立場上申しにくいのですが、些か不自然に思います。生徒個人の進路は生徒自身が決める事であり、我々教育者はそれをサポートするのが、目的ではありませんか?」
「星影君、君の言いたい事は分かっているつもりだよ」
「なら、今後は生徒個人の進路をあなたが決める事はしないということでしょうか?」
「それとこれとは、話が違うのだよ。あくまでも、成績の良い者は良い企業へ、成績の悪い者は進学を。そのスタンスは変えるつもりはない」
「あなたには、教育者としての自覚がないのですか?」
「一つ言うならば、私にとってこれはビジネスだ。すなわち、生徒は私にとってビジネスの道具の一つだ」
「……」
俺たちは、二人黙ってしまった。
「さて、用というのはそれだけかな」
その言葉に、俺は自然と体が動いた。そして、懐から一枚の封筒を取り出した。その表面には達筆な文字で“退学届”と書いてある。
「山竝證さん、短い間でしたがお世話になりました」
そう言って、退学届を机の上に置いた。
「……」
「では、俺はこれで失礼します」
そう言って、踵を返してドアノブに手をかけた時だった。
「山森君、一つだけ君に伝えておこう」
「…」
「君はいずれここに来る事になるだろう。おそらく君は私の野望の前に立ちはだかるだろう。それも沢山の仲間と共にな」
「それはありえませんよ。俺は二度とここに来る事はありませんよ」
「いいや、必ず来る君はそういう人間だからね。それに、山森財閥グループ現総帥山森彰一の息子であるからね」
「俺は、親父とは違いますよ。それに、俺は誰の言いなりになるつもりは一切ありません」
「そうか……そういや、君には彼女さんがいたね。彼女は今頃どうなってるだろうね?」
「なん……だと……」
「先に言っておくが、私は何もしていないよ。心配なら、確認すればいいだろう?」
「……」
俺は、扉を開けて理事長室の前から遠ざかり階段の踊り場でスマホを取り出し電話帳から、俺の彼女の名前――白岩涼子――を探す。見つけて直ぐに電話をかける。
10秒ほどした頃だった。
『もしもし白岩です。健一どうかしたの?』
「……白岩、良かった。無事で」
『えーと、何のこと?』
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ。ところで部活中だったか?」
『大丈夫、今は休憩だから』
「確か野球部のマネージャーだっけ?」
『うん、中学の時は3ヶ月間だけだったけど、今度は3年間しっかりとやるつもりだよ』
「そうか、なら良かった。近いうちにまたどこかに出掛けないか? 部活で忙しかったら無理にとは言わないけどさ」
『大丈夫だよ。今週の土日は部活は休みだから、その2日間は健一の方は大丈夫?』
「ああ、大丈夫だ。それじゃ、詳しいことはまた後で」
『それじゃ、また後でね』
通話終了を押して、内ポケットにスマホをしまう。




