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誓い

 俺は、何処とも知れぬ空間に漂っていた。


(何処だ・・・ここ?)


 ボンヤリとした頭では、答えを出すのに時間が懸かったが・・・。


(宇宙空間だ・・・)


 周囲には、無数の星屑が広がっている。アレの一つ一つが、何億光年もの時間を生きた惑星なんだと思うと、背筋がゾクゾクとして、少し心地いい・・・。


(あの光のどの位に、生命体がいるのかな・・・。もし居るとしたら、どんなのなんだろう・・・?)


 漂いながら考える。ふと、あの光に届くような気がして、手を伸ばした。そこには・・・


(俺の、手だ・・・)


 人間の時の、俺の手が存在していた。


(どう、して・・・?)


 俺は、ロボットに改造された筈だった。俺は、その体で大切な人を、殺した筈だった。


(もしかして、全部夢だったのかな・・・?)


 今までのは全て長い長い夢で、起きたら何時ものように家族の笑顔があるんだろうか?彼女と、友達と、笑い会えるんだろうか・・・?


 ボンヤリとそこまで考えた瞬間、周囲の景色が一変した。広大な宇宙空間から、瓦礫の積もる廃墟、いや、廃都市へ・・・。





「はあ・・・はあ・・・どうして・・・?どうしてこんな風になっちゃったの?」


 その瓦礫の山を、一人の少女が足を引き摺りながら歩いていた。


「何処・・・?何処にいるの、幸平君・・・・・・?」


(・・・・・・オイ・・・)


「グス・・・幸平君・・・。幸平君・・・。何処に居るの?」


(何で・・・どうして彼女が・・・)


 そこを歩いていたのは、俺の彼女・・・黒河紅音くろかわあかねだった。


「・・・!・・・・・・!」


(何で声が出ないんだ・・・!紅音さん、紅音さん!俺はここだ!ここに居るぞ!)


「幸平君・・・、お父さん、お母さん・・・・・・皆死んじゃったの・・・?」


 彼女は、とうとう座り込んで泣き出してしまった。瓦礫によって、体に傷が付いているのも気がついていないようで・・・。


(俺はここだ!糞、どうにか・・・どうにかならないのかよ!)


「どうにもならないよ?」


 その時、『悪魔』の声が聞こえた。


(・・・・・・嘘・・・だろう・・・?)


 俺にとって、世界で最も聴きたくない声。俺にとって、絶望の象徴とも云える声だった。


(殺した筈だ・・・)


「我々をそう簡単に殺せると思っていたのかい?それは認識が甘すぎるよ。あれくらいでは僕らは殺せない。」


(嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ・・・!)


「信じたくないのならそうすればいい。だが、どちらにしろ彼女は僕が貰っていくよ?」


(・・・なっ!)


 目の前では、彼女が後ろから<<パオーン>>の着ぐるみを着た男に連れ去られていくのが見えた。彼女も抵抗しているが、全く効果は無い。


「・・・!・・・!・・・!」


(やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!)


 どれだけ思おうとも目の前の凶事は止まらない。


(お願いだ止めてくれ!何でもするから、お願いだ!)


「駄目だよ。君は僕たちを裏切ったんだから。これはお仕置きだ。彼女がどうなるか、今から楽しみだね?」


 再び絶望が俺を襲った。もう二度と会えないと思っていた彼女を目の前にして、手も足も、声すら出ない。俺が何をした!?どうして彼女が連れ去られなきゃいけないんだ!?何で俺ばかりがこんな目に会うんだ!?


(助けてくれ!誰か、誰か・・・)


「・・・お願いだ、紅音を助けてくれー!!!」


「な、まさか、声が出るはずが・・・!」


「この声・・・!幸平君!?」


 その俺の願いは・・・


「分かった。私がその願い、聞き届けた!」


 瓦礫の山の上から飛び降りてきた・・・


「私の名前は一ノ瀬恋華いちのせれんか!助けを求める声により参上した!」


 一人の女の子により、叶えられた。





「はああ!」


 彼女の強さは圧倒的だった。<<パオーン>>の着ぐるみを着た男を一瞬でなぎ倒し、紅音の事を守ってくれた。


「この人の安全は確保した!貴方は何処にいる!?」


「そ、そうだ幸平君!何処!?何処に居るの!?」


「分からない・・・。でも、必ず迎えに行く!・・・そこの人、紅音さんを・・・守って下さい・・・!お願いします!何でもしますから!」


 土下座をして頼み込む。二人には俺が見えていないようだが、関係無い。紅音さんを守ってくれるなら、命さえ差し出す!


「・・・恋華でいい。それに、悪鬼から人を守るのは当然の事だ。安心していい。」


「じゃ、じゃあ・・・!」


「貴方が迎えに来るまでの間、私が彼女を守ろう!その代わり・・・必ず、彼女を迎えに来いよ?」


「・・・分かった!」


「いい返事だ。」


 彼女が紅音さんの腕を取る。


「ここは危険だ。身を隠すぞ。」


「は、はい!」


 二人してその場を離れようとして・・・


「幸平君・・・!」


「・・・何?紅音さん。」


「待ってるから。ずっと待ってるから。何年かかっても、絶対に迎えに来てね・・・!」


 その言葉に、俺は涙を堪えながら・・・


「わかってる・・・。絶対に迎えに行くから・・・!だから、待ってて!」


「・・・うん!」


 最後に、とびっきりの笑顔を見せて、二人は走り去って行った。





「・・・どうして・・・・・・、何故失敗した・・・?」


 そうだ、まだこいつが居たんだ・・・。


「あいつは一体誰だ?あんなイレギュラー想定してないぞ・・・!?」


「知るかよ・・・。」


「・・・!」


 周囲の風景も先程の宇宙空間に戻り、俺は何処に居るのか分からない声の主に、殺気を込めて宣戦布告した。


「殺す。」


「・・・・・・!」


「絶対に殺す。だから待ってろ。お前らが何を企んでいようと、その尽くを潰して、貴様らも全員殺す。」


 これは誓い。家族、友達、その他、あの事件で大切な人を失った全ての人への誓い。そして、紅音さんと恋華に対する誓いだ。


「必ず殺しに行く。だから、首を洗って待ってろ!」


 そう言うと、周囲の景色が歪み始めた。もうこの夢もお仕舞いなのだと、本能的に察する。


(でも、あの出来事は現実だ)


 彼女が助けられ、「待ってる」と言ってくれたのは現実。これも本能的に理解する。


「・・・待っててくれ。絶対、迎えに行くから・・・。」


 その言葉を最後に、俺の意識は途切れた。







「ば、馬鹿な・・・。」


 敵対していたロボットは、<ドラゴンブレス>で焼き払った筈だった。彼の<ドラゴンブレス>は、対象をグラム鉱石へと変化させ、その後、存在ごと食らうという物で、当たったが最後、どのような手段を用いても再生などは出来ない筈だった。


「何らかの手段で防御されたか・・・?」


 それも有り得ない話だった。彼は確かにロボットが<ドラゴンブレス>に当たったのを見たし、その後敵がグラム鉱石へと変化したのも確認した筈だった。そもそも、残骸は彼が食ったのだ。なのに・・・。


「再生・・・?いや、まさか時間を巻き戻しておるのか・・・!?」


 彼の目の前では、その有り得ない事が起こっていた。敵の立って居た部分の空間が捻じ曲がり、そこに敵が再生していくのだ。まるで、ビデオテープを巻き戻すように。


「くっ・・・!」


(思った以上に危険じゃ。これを放置しておくことは出来ない)


 彼はもう一度<ドラゴンブレス>を放とうとした。だが、その瞬間、敵の再生速度が跳ね上がった。


「・・・!」


(間に合わん!)


 彼がエネルギーを貯めている間に、敵の体の再生が終了し・・・


(儂もここまでか・・・!)


 覚悟を決めたドラゴンの前で・・・


「俺は敵じゃない!お前らの仲間だ!!」


 予想も出来なかった言葉が飛び出したのだった・・・。




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