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第1話 人体改造されました。

「なあ、少し話を聞いてくれよ、って言っても誰も居ないんだけどね。そもそも俺自身の声すら聞こえてないしね。ここ宇宙空間だし。だけど、それでも愚痴を言いたい。例え誰も居なくても、例え独り言だとしても、誰にも聞こえなくても言わざるを得ないんだ。そうじゃないと俺の気が収まらない。だから、俺の気が済むまで永遠に語らせてもらうぜ。時間は無限にあるんだからな。・・・・・・あれは、暑い夏の日だった。」



 

✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩

 


 今となっては何の意味も持たないが、一応自己紹介をしておこう。

 俺の名前は 春木幸平はるきこうへい、私立高校の一年生で、何処にでもいるような普通の男だった。

 少なくとも俺は、俺だけは、自分は普通の男子高校生だったと、そう信じている。

 あれは、ただ運が悪かっただけなのだと。

 その日のテレビの占いでは最高の運勢だったが、本当は最悪の運勢だった、ただそれだけなのだと。




 その日の俺は、少し浮かれていた。

 いや、少しじゃないな、かなり浮かれていたさ。

 高校最初の夏休みに入ったばかりで、その二日前に彼女をゲットしていた俺は、そりゃあもう有頂天だったさ。

 入学式の日にその子を見て一目惚れしていた俺は、ついに勇気を振り絞り、友人たちの応援(冷かしともいう)を受けて、放課後の誰も居ない教室に彼女を呼び出し、そして告白した。

 綺麗な長い黒髪で、笑顔がとても素敵な優しい女の子なので、狙ってる男は多かったし、これで振られても仲間と泣きながらカラオケでも行くかとか考えていたんだが、意外なことに彼女は嬉しそうに即OKしてくれたんだ。

 話を聞くと、どうやら彼女も俺のことを気にしてくれていたらしい。

 かっこ悪いかもしれないけど、あまりに嬉しくてそこで泣いてしまったよ。

 うん、それくらい嬉しかったんだ。

 



 で、告白から二日後、夏休み初日、俺は初デートの場所へとっても緊張しながら向かっていたわけだ。

 背後から悪魔が迫っているとも知らずに。

 俺は背後から忍び寄っていた何者かにいきなり両手を抑えつけられ、口元に何かを当てられた。

 そしたら、フッと意識が遠くなって、俺は気を失った。

 今思えば、アレはクロロフォルムとかだったんだろうな、ほら、麻酔効果があるらしいじゃん?

 まあ何でもいいんだけど、重要なのは俺が誘拐されたってところかな。

 どのくらいの時間がたっていたのか、目を開けてみると、俺はでっかい倉庫みたいなところに仰向けに転がされていた。

 眩しい照明から目を逸らそうと朦朧とした意識で考え、横を見てみた。

 すると、転がされているなら当然見えるはずの床が見えなかったんだ。

 で、更に顔を回してみると、はるか下に灰色のコンクリートが見える。

 俺の脳内には ? マークが沢山浮かんでいたはずだ。

 で、もう一度天井を見てみて、天井がやけに近いことに気がついた。

 ここまで来ると、いくら薬で朦朧としてる頭でも段々とパニックになってくる。

 俺は必死に、体を動かそうと試みて・・・・・・。

 次の瞬間、絶望した。




 とくに拘束されているわけじゃなかったので、体を起こしてみる。

 立ち上がると天井に頭がぶつかるので、足は伸ばした状態で上半身だけを慎重に起こす。

 体は、鋼鉄で出来ていた。

 何を言ってるのかわからないかもしれないが、これしか表現のしようがない。

 俺は、ロボットになっていた。

 全体はやや黒みがかった銀色、ゴツゴツと様々な装飾が付いていて、まるで戦隊モノ特撮番組の巨大ロボのようだ。

 角張って太くて長い足、胴回り、そして上半身。

 全体で二十、いや、三十mはあるだろうか。

 そして、その巨大な体の上にチョコンと小さな俺の顔が乗っかっているのがボディーに反射して見える。

 俺は、感覚で確信していた。

 これは、俺の体なんだと。

 元の体は、跡形もなく消えてしまったのだと。

 何故か、俺にはそれが分かってしまっていた。

 頬を抓って夢かどうか試してみようかとも考えたが、この太い指で抓ろうとしたら頭をグシャっと潰してしまいそうだったのでやめた。

 万が一現実だったらどうする?と考えられる程度には俺の頭も回復していたらしい。

 




 混乱していた俺は何者かがこちらにやってくるのを感じて目を向けた。

 そこには、変態がいた。

 変態としか言いようがなかった。

 全身ビッチリとした黒タイツ、頭には何故か子供たちに大人気のアニメ<<象牙刈りのパオーン>>という、頭のおかしい番組の主人公である<<パオーン>>の着ぐるみを被っている。

 そして、その謎の変態はパンパンと手を叩いて拍手し始めた。

「グレイト!素晴らしい。もうそこまで動けるんだね!うん、やはりキミは適正が高いようだ。いやー、キミに決めてよかったよ。」

 声から察するに恐らく男らしい。

 俺は、意を決して話しかけてみることにした。

「あんた何なんだ?俺をこんなところに誘拐してどうするつもりなんだよ?」

「目的?巨大なロボットまで作ったのだから、やることは一つだろう?我々<<新月>>の目的はただ一つ、世界征服だよ!キミを使って、私がこの世界の王になるんだ!」

「し、新月ってまさか・・・・・・。」

 最近世間を騒がしている、所謂<<悪の秘密結社>>だ。

 いや、秘密結社なのに何で知ってるのかというと、ニュースで度々放送されているからだ。

 秘密結社を自称しているにも関わらず、警察やテレビ局に予告状を提出し、今や世界で知らない者はいないほどだ。

 そんなアホな連中なのにやってることは悪逆非道で、要人の殺害、ハイジャック、街を一つ丸ごと吹き飛ばしたこともある。

 明らかに現代の科学技術から逸脱した兵器を駆使し、世界各地で悪意を振りまくその組織は世界中の人間から恐れられ、そして恨まれている。

 まさか、現在は日本に潜伏していたなんて・・・・・・。 

「我々は今日この瞬間、とうとう最強のカードを手に入れた。この世界が私の物になるのも時間の問題だっていうことだよ!さあ、一緒に世界を牛耳ろうじゃないか!」

「くそ、何なんだよ!何で俺なんだよ!自分たちで勝手にやればいいだろ!何で俺を巻き込むんだ!」

「キミがこの巨大ロボット<<テンペスト>>のコントローラーとしてぴったりだったからだよ、 春木幸平君。父、母の三人家族、私立芥川高校一年生、成績は中の上ってところかな。最近、彼女が出来たらしいね、おめでとう。」

 俺のことを調べ上げている、ということは、こいつは最初から俺を狙っていたのか。

「キミには、 テンペスト のコントローラーになってもらう。いや、正確には命令受信機かな。私がキミをコントロールして、キミが テンペスト を動かす。完璧じゃないか!」

「どういうことだよ・・・・・・。俺の体はどうなったんだよ!」

 聞かなければいいのに、このときの俺は怒りと恐怖と混乱が入り混じった状態で、正常な判断が全く出来なかった。

 その結果、俺は更に絶望することになる。

「燃やしちゃったよ?必要なのは頭だけだからね。正確には脳みそさえあればいいんだから、あまり五月蝿くすると・・・・・・口、抉っちゃうよ?」

 そう言いながらその男は、どこからか取り出した白い袋を無造作に落とした。

 その袋は、地面に落ちるとバサァと音を立て、中から白い粉末が大量に零れ・・・・・・そして、その中には、小さな塊が混じっていた。

 そうだ、確か、昔じいちゃんの葬式に行ったとき、体が燃えた灰の中からあんな塊が・・・・・・!

「あ、ああああああ、あああああああああああああああああ!」

 この瞬間の思考を、俺はあまり思い出せない、いや、思い出したくないだけなのかな。

 俺は、無我夢中で鋼鉄の腕を振りかざし、男に向かって右拳を突き出した。

 あんな小さな人間、この拳で粉砕できるはずだった、のに・・・・・・。

『停止しろ。』

 あの男が小さな箱型の機械に一言つぶやいただけで、俺の拳はピタリと止まった。

 あと、たった数センチで奴をペシャンコに出来るのに、どう頑張っても全く動けなかった。

「これでわかったかな?キミは私に逆らうことは出来ない。わかったら、これから世界を征服しに行こうか!」

 また、あの箱型の機械に向かって喋ろうと・・・・・・。

「・・・・・・やめろ、止めてくれ!」

『街を、破壊しろ』

 無情な命令が、下された。




 そこからは、本当に何も覚えていない、いや、思い出したくない・・・・・・。

 俺は恐らく、自分の住んでいた、暮らしてきた街を踏み潰して回ったんだろう。

 ミサイルやレーザーで、街を焼き払った。

 見ず知らずの他人も、家族や、友人や、そして、初めて出来た恋人さえも、殺して回った。

 俺は、俺の愛した世界を、たった一人の命令によって壊して壊して壊して壊して、壊しつくした。

 自衛隊、アメリカ軍、果ては他の国の軍までもが俺を壊しに来た。

 そして、遂にそのときが来たんだ。

 どうやら、俺の頭には命令を受信する装置が取り付けられていたらしい。

 そこを、偶々、本当に偶然に、銃弾が掠めて行ったらしい。

 俺は、自由になった。

 奴の命令を聞く必要がなくなった。

 だから、俺は最後に、奴を踏み潰した。

 その時のアイツはどんな顔をしていたのか、今でもわからない。

 だって、 パオーン の着ぐるみを被っていたしな。

 俺は、踏み潰した奴の死体を摘み上げ、今度は両手で磨り潰した。

 そして、十分に磨り潰した後、周囲を見回した。

 何も、残っていなかった。

 廃墟と呼べるものさえ何も残っていない。

 あるのは、コンクリートの破片と潰れた死体のみ。

 俺は、泣いた。

 泣いて、泣いて泣いて泣いて泣いて泣いた。

 これは油なのか、それとも自前の涙なのかすらもわからない。

 本当に、俺は人間では無くなっていた。




 その後、呪縛が解けて動かなくなった俺を、各国の軍が取り囲んだ。

 お偉いさんたちは俺の話を聞いたが、しかし俺は人間ではなかったことにされた。

 そのほうが都合がいいから、俺は<<新月>>の作った人工AIだったということにされた。

 被害が大きすぎたから、誰かが責任を取らなければならなかったから。

 でも、首謀者は、俺が殺してしまったから。

 だから俺に、全ての罪を着せて殺してしまおうという話になったんだ。

 だけど、俺を殺すことが出来なかった。

 どんな兵器でも、傷一つつけることが出来なかった。

 唯一の弱点であろう俺の頭、つまり脳みそさえも、破壊不可能だった。

 だから、俺は今宇宙にいる。

 廃棄することが不可能なら、地球以外に送ってしまえばいいという考えで、俺は宇宙に飛ばされた。

 全ての人間の恨みを一身に受けて。

 俺だって被害者のはずなのに、俺だけが悪者にされ、罪を着せられた。

 俺だって、大好きな人達を、殺されているのに。

 俺は、これから、この暗い世界で一人ぼっちで生きていくんだろうか。

 無理やり明るく愚痴を言おうとしてみたものの、全く成功はしなかった。

 このロボットの体では、俺は死ぬことはない。

 宇宙空間に放り出されても、例え数千年が経とうとも、今の俺は死ぬことが出来ないんだ。

 ・・・・・・死にたい。

 殺して欲しい。

 誰か、俺を殺してくれ。

 お願い、だから・・・・・・。




✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩



 あれから、どのくらい経っているんだろう・・・・・・?

 数年かもしれないし、数十年かもしれない。

 この体では眠ることも出来ず、そして、忘れることも出来ない。

 記憶が曖昧な部分はあっても、完全に忘れ去ることは不可能なんだ。

 どうせなら狂ってしまえれば楽だったかもしれないのに、それすらも機械は許してくれない。

 俺には、こうして未来永劫罪の意識に苛まれ続けるのがお似合いとでも言うのだろうか。

 



 体が、変な感じだ。

 引っ張られている、ような気がする。

 俺は、随分久しぶりに体を動かして、引っ張られている方向を見てみた。

 そこには、闇があった。

 完全なる闇、光すら吸い込むといわれる、あのブラックホールだろうか。

 なんにしても・・・・・・

「ああ・・・・・・これで、終われる・・・・・・。」

 俺は、声にならない声で呟いた。

 俺には、あの闇が、光に満ちた暖かい空間にしか見えなかった。

 目尻から、水滴が一滴浮かんで、球体になって離れる。

 まだ、涙なんて流せたんだな、なんて、人事のように考えながら、俺は目を瞑った。

 願わくば、もう目を開けることがないように・・・・・・。




 ゴオオオオオオオオオという音で目を開ける。

 どうやら、俺は死んでいないらしい。

「なん、で・・・・・・。」

 俺は、大気圏に突入しているようだった。

「何で、だよ・・・・・・吸い込まれるのを確認したはずだろ・・・・・・?」

 俺は、ブラックホールに吸い込まれ、体がグシャグシャになっていくのを確認していたハズだった。

 各部品の計器類がアラームを出していたのも確認している。

 これで、終われると、そう確信していたのに・・・・・・。

「何だよ・・・・・・何だよこの仕打ちは!俺が何をしたんだよ!」

 声にならない声で叫ぶ。

 その間にも、体はどんどん落ちていく。

 墜ちていく。

「俺、もう死にたいよ・・・・・・。」

 ドーンと波しぶき、いや、津波を起こして海に着水する俺。

 このまま海に沈んでも、今度は海の底で永遠を過ごすだけだ。

 一瞬、それでもいいか、などと考えたが、その考えを振り払い、とりあえず近くの岸に上がることにする。

 ここが知的生命体の何もいない惑星なら、ここで暮らすのもありかな、なんて考えて。

 数時間後、俺は、大地に降り立った。

 そこには・・・・・・。

「ぬ?何だお主は?ここらでは見かけぬ顔じゃな。」

 何故だか日本語で話しかけてくる、俺と同じくらいの大きさのドラゴンが居た。

 俺は、これからどうなるんだよ・・・・・・。

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