訪問者
さすが崩壊寸前、木造住宅。
ギシッ、ギシッと一歩一歩登ってくるヤツラの足音が耳障りに響く。
「オイデ、オイデ~!」
気色の悪い、低い男性の猫なで声。
私はブルっと背中の毛を逆立てる。
冗談じゃない。
美しい黒猫を抱くのは、古今東西、麗しきマダムと相場が決まってるのだ。
その対極にいるこのゴリラ男に捕まる訳にはいかない。
チャンスは一瞬だ。
階段から男の黒髪がゆっくり上がってくるのが見えた時、私は持てるだけの脚力を駆使して、その頭目掛けて飛びついた。
「うおああああ??」
いきなり自分の頭を踏み台にされて、大道叶冶は奇声を上げて階段でよろめいた。
その踏み台のお陰で加速のついた私は、勢いのまま、後続のレイをも飛び越し、一気に玄関まで飛び降りる。
・・・どんなもんだ、愚鈍な人間よ・・・。
得意げに振り返った私は、階段で繰り広げられている信じられない光景に息を呑んだ。
階段の最上段で猫に飛びかかられ、頭を踏み台にされた大道叶冶はバランスを崩し、まるでスローモーションのようにゆっくりと背中から倒れていくところだった。
その後ろにピッタリくっついていたレイは当然、巻き添えを食らい、大男の下敷きになる形で一緒に背中から押し倒される。
猫の動体視力で見たその光景はまさにスローモーションだったが、実際は息を呑む間もなかっただろう。
つまりこの大男はレイを下敷きにしたまま背中から階段にひっくり返って、そのまま二人でもつれ合うように最上段から落下してきたのだ。
ダダダダダ・・・ダダーン!
すさまじい音とともに、呆然と立ち尽くす私の目の前に、二人は絡み合って転がり落ちてきた。
「おい?レイ?それと、あんた・・・、大丈夫か?」
まだもつれ合ったまま動かない二人に、私は恐る恐る問いかける。
しばらくの沈黙の後、大道の体がビクンと動いた。
「・・・ってええ。くっそお、やられたあ・・。あ、おい、あんた大丈夫か?」
頭を抑えながらムクリを起き上がった大道は、顔をしかめて恨み言を吐いたが、すぐに下敷きになって倒れているレイに気が付き、その顔をペシペシ叩いた。
私も慌てて、近寄ってレイの顔をペロペロ舐めた。
レイは目を瞑って眠っているように動かない。
「・・・おい、ヤバイぞ、猫。」
「そっ、そんな・・・!」
大道の言葉に、私は横たわるレイの胸の上に乗って両前足を使ってモミモミした。
多くの猫が持っているこの習性を、私もまた忘れる事ができない。
心臓マッサージとしては威力に欠けるが、癒し効果はテキメンだ。
今、癒しが必要かどうかは別問題として。
必死でモミモミ攻撃を続ける私の背中から、突然、眠っていた筈のレイの両腕が巻きついてきた。
あっと思った瞬間、私はレイの腕の中に捕獲されていた。
「・・・ってえ。ひどいな。手加減してくれよ。」
顔をしかめて、レイは腕の中にいる私にブツブツと恨み言を言う。
よ、よかった。生きてる!
そう思ったのも束の間。
レイの頭上から、ニュっと現われた大道の顔が私に向って微笑んでいるに気が付いて、私は背中の毛を逆立てた。
「よかったな、猫。」
そう言いながらドサクサ紛れに伸びてきた大道の手に、私は渾身のネコパンチをかまして、レイの腕からすり抜ける。
その勢いのまま、私は廊下をダッシュして、突き当たりの部屋に飛び込んだのだった。
ドアノブが回す式でない事を確認しながら・・・。
◇◇◇◇
この10分後、見事に部屋を飛び出す事に成功した私は、廊下を突き抜け、玄関まで猛ダッシュした。
さすがに玄関のドアは私の猫力で開くようなものではなく、不本意にも私はそこで再び、袋の鼠(猫?)となってしまった。
せめて臨戦態勢は整えておかねばと、玄関のドアを背に私はうずくまって、敵がいる前方を見据える。
だが、人見知りの神様が私に味方した。
ドタドタと廊下をこちらに向ってくる大道とレイの姿が見えた時、私の背中の玄関のドアがガラリと開いた。
ドアが開き放たれた瞬間、爽やかな秋風がサアっと吹き抜け、私の柔らかい猫っ毛をなびかせる。
「・・・何でこんなトコで座り込んでるの?」
聞き覚えのあるその声に、私はびっくりして振り返った。
開け放った玄関に仁王立ちになっている声の主。
それは紛れもなく、図書館の美鈴さんだった。
2周目、二番手 南でした。
次は白かぼちゃ様です。
宜しくお願いします。




