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人見知りする碧  作者: くぃかそ 南晶 EARTH 白かぼちゃ うわの空
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大切なモノ

大変遅れました……

バイトしんどいとか仕事山積みとか、

食器洗いと洗濯が面倒で吐きそうとか……

一人暮らしを言い訳にするつもりはあんまりありません……


本当にごめんなさい……

 誰も何も言わなかった。

 レイもアキラも、ハルカも大道も沙耶歌も、

皆それぞれに思いつめた顔をして押し黙っていた。


 レイもアキラもよく似た、少し悲しげな表情で、

大道は不機嫌そうに眉を寄せて、

ハルカは毅然とした表情でコブシを握り締めて、

沙耶歌はいつも通り明々後日の方を向いて、けれど表情だけはまじめに、

そして美鈴さんはそんな皆――特に大道とハルカを――気遣わしげに見やりながら。


 それぞれに違った思いを抱いていて、

ただ、考えていた。


 遠くに聞こえた追っ手の喧騒はいつしか聞こえなくなり、

どこか拍子抜けたような、けれど気まずい沈黙の中、

誰も口を開こうとしなかった。



 静寂を破ったのは携帯電話の軽い電子音だった。

 大道がのした男から鳴っている。どうやら着信音だ。

 皆一斉に倒れた男を見つめ、さっきとは違う種類の沈黙の中視線を交わした。


 もし出なければ、何かあったと言っている様なものだ、

すぐに新たな追っ手が来るだろう。

 かといってもし出たとしても、声で即座にバレてしまう。


 何コールか電話が鳴ったあと、みんなが顔を見合わせる。

やはり長居は無用だ。

 皆が着信を無視して走りだそうとした時、


「はい」


 聞き覚えのない、いや、さっきまで確かにのびていた男の声。

とっさに振り返ると、アキラが携帯の持ち主の声で電話に出ていた。


「何をっ」


 声を上げようとする紗弥歌の口を美鈴さんが素早く塞ぐと、

口をパクパクと大きく動かした。

 おそらくだが、『どういうつもり』と言ったのだろう。


「はいはい、え? ああちょっと待って下せぇ。

 だから大丈夫だって、もし何かあったら『殴って』でも教えてくれよ」


 冗談混じりな口調で強調された言葉に頷くと、

大道はアキラをすぐに引きずり倒せる位置まで移動した。


 アキラは大道が近くに来ていることを確認すると、

野太い別人の声で電話に応対する。


「はい、はい? はい……あ!」


 そうして、わざとらしく声を上げてアキラは電話を落とすと、

もたもたと電話を拾った。


「…………すまねぇ村長、落とした時におかしくなっちまったみたいで、

 スピーカーフォンに設定されちまいました、

 ちょいとうるさいと思いますが、申し訳ねぇ」


『いや、構わない、それより』


 電話の向こうから聞こえるのは、村で度々聞いた村長の声だ。


『君の娘が例の高熱にやられた、今すぐ戻って来なさい』


「え、ええぇ! そ、そんな。

 …………分かりやした、すぐに戻ります」


『……嘘だ』


「え?」


『アキラ様、お戯れはよしてください、

 その声の主に娘はおりません』


 ため息混じりの村長の声、

どうやらアキラが電話に出ているという事は

バレてしまっていたようだ。


 皆が凍り付く中、アキラは何でも無いようにヘラヘラと自分の声に戻すと、

まるで世話話をするように語りかけた。


「みんなの調子はどうだい?」


『すぐ近くで狸が大暴れしたようで。

 皆疲れきっております』


「はは、いい事だ、労働は達成感と充実感を生むからね。

 秋乃さんも元気?」


『…………そちらにいると思っていましたが。

 先程から姿が見えません』


「ふぅ~ん」


「一つ良いかい?」


 腕を組んだまま、険しい表情で美鈴さんが口を挟む。


『……誰だね?』


「彼らのお付きさ、まぁそんなことはどうでもいい。

 あたしは『どうしてそこまで執拗なのか』聞きたいんだよ」


『…………』


「村を出ようとする段階で追われるのはまだわかる、

 けど、わざわざ山のふもとまで監視を置く理由がわからない」


『……この村の習慣は知っているだろう、

 それ以外に説明しようがない』


「それじゃ納得出来ないんだよ!

 何でたかが迷信で人をここまで貶められるのか訊いてるんだ!」


 美鈴さんが声を荒げると、

しばらくして村長の声がゆっくりと、

考えながら話すようにとつとつと返ってくる。


『……我々には守りたいものがある、それは君たちと同じだ。

 そして村の言い伝えに従っている間は、何らかの理由で村は安全だった』


「どういう意味だい」


 美鈴さんの声はいつになく苛立たし気だ。


『この村には原因不明の難病が確認されている。

 高熱が数ヶ月にわたって続き、発症者は例外なく衰弱死する。

 前の村長もこの病で亡くなった。双子を追い出した直後だった』


「……それで?」


『不思議な事にこれは双子の生きている期間でしか発症者は出ず、

 また村のシキタリに従っている間は発病者は毎回ほぼゼロだ』


「だから、そんなことで!」

『では君はどうすればいいと言うんだ?

 我々にも家族がある、君たちと同じように大切な者もいるし、

 守りたい者も沢山ある、それを守るにはこれしか方法がないんだ』


「そんな事っ」


『納得して貰おうとは思はない、我々だって原理は理解していないし、

 正しい事をしているとも思っていない。

 しかし、事実効果があり、引けない理由がある以上、

 誰に何と言われても我々は鬼になるだけだ』




「ご高説ごもっとも、けどね」


 今度はアキラが口を挟んだ。


「それでも、僕らは『生きたい』んだ」


 顔は笑っていたが、声は真剣に、むしろ真摯な程に、

アキラは端的に言い切り、これ以上ない程容赦なく斬り捨てた。




『一つだけいいだろうか』


 しばらくして村長が口を開く。


「なんでも言いなよ、聞き入れるとは限らないけど」


『……彼女を返してもらえないか?』


 村長の声色は遠慮がちだったが、

先ほどとはまた違った強いものがあった。


『彼女が背負うべきものなんて何もない、

 君の件は全て我々の世代が背負うものだ、

 彼女が背負う必要など何一つ』

「勝手なこと言わないでください!」


 それまで黙っていたハルカが叫んだ。

 目を怒らせ、手を力一杯握りしめ、

それまでどんなことがあってもおよそ『怒る』

ということをしなかったハルカが、

少なくとも私が知るかぎり初めて、激怒していた。


『……そこにいたのか』


「あなたは……あなた達は、一体どこまで行けば気が済むんですか!

 いつまでその愚かな勘違いを続けるんですか!」


 ハルカはそこで一旦切り、自分を落ち着けるように息を吐くと、

落ち着いた、しかし隠しようもなく怒りのこもった声で続けた。


「あなたはさっきアキラくんに『君の』と言いました。

そこに入るべきは『君たち』のはずでしょう。

いい加減『もう一人』の存在を認めてください!」


 しばらくしても、電話からは何も聞こえない。

言葉を待っていたハルカはため息を付き、


「分かりました、なら一つ言わせてもらいます。

 私は、私の意志で村を出ます。

 ―― 一年前のあの日、私は他に方法はないと言い聞かせて、

 自分の気持ちを押し殺して、嘲笑う演技までしてやっと自分を保って、

 なんの努力をしようともせず、

 ただ何も出来ないと決めつけて逃げてしまった。本当に愚かだった。

 今でも、変わってないのかもしれないけれど、

 今度はもう、間違わない。

 私は、あなた達が見もしなかった彼と共に行きます。

 それが……彼が、私の生きる理由だから」


 ハルカがそう言い切ったが、電話の向こうからは何も聞こえない。


「と、いう訳だよ、村長。

 他に誰か何か言いたいことある?」


 ケラケラと可笑しそうに笑いながら、アキラが全員を見渡すと、

思いつめたようにレイが、一歩踏み出した。


「すいません、一つだけ……

 その、僕はこの村で起きたことを何も覚えていません」


 当然のように、電話の向こうからは何もない。

むしろ前置きがなければ、向こうはレイが誰だか分かっていないかもしれない。


「けど、だからこそ、言っておきます。

 彼女は……彼女は、僕が貰い受けるので、

 彼女のことだけは、何が何でも諦めてください」


 レイにしては力強くそう言い切ると、

大道が思いっきり頭の後ろをはたき、

美鈴さんが力一杯背中を平手で叩き、

紗弥歌はためらいもなくお尻を蹴飛ばした。


 飛び退いて驚くレイに、みなはニヤニヤした笑いを浮かべる。


「そういう事だ、じゃあね、村長」


 アキラは電話を一方的に切ると、

その辺の茂みに投げ込んだ。


「さて、追っても来るでしょうし、

 い、行きましょうか」


 赤面したまま、レイが言った。

何か書きたいこと書ききった感があります


では白かぼちゃさん、ラストスパートお願いします!!

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