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人見知りする碧  作者: くぃかそ 南晶 EARTH 白かぼちゃ うわの空
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困った爆弾


「分かってたなら、もうちょっと、早くっ、言えっ!」


 ハルカを横抱えにした大道が息も絶え絶えになりながらアキラに向かって呪詛を吐いた。和服のハルカが走れるはずもなく、大道が抱えたのだが如何せんとっさのことで安定した体勢とは言いがたい。刺された沙耶歌も知ってたんなら言っておけと、恨みがましそうな視線をアキラに向けていた。


「ごめっ、ぎりぎりで、言う暇、なかった」


 当のアキラはハルカを抱えている大道よりも辛そうに必死で走っていた。長時間の移動と急激な疾走に体力がついていっていないのが見え見えだ。大道はアキラの状態を感じ取ると舌打ちして黙って走り始めた。


「どうするんだい、このままじゃ確実に追いつかれるよ!」


 問題山積みのこちらに対して、追いかけてくる村人は山に慣れた成人男性だ。おそらく私を除き一番早いレイでさえも追いつかれるだろう速度でどんどん距離をつめてくる。

 時間が経つにつれみんなの足も遅くなり始め、村人も後わずかのところまで迫ってきた。


「しかたねぇ、あいつらを迎え撃つぞ!」


「面白い! でもできるの!?」


「できなきゃ捕まるだけだ。できるやつは参加しろ!」


 大道はハルカを半ば投げ捨てるように下ろしながら私たちに向かって叫んだ。ハルカを除く全員がすぐに反応したが沙耶歌は使えないだろうし、アキラは体力的に問題がある。戦力的に不安だが、このまま逃げていても大道のいうとおり捕まるのも時間の問題だからやるしかない。


 追ってくる男たちのほうを向き心を決めて構えを取る。男たちは私たちの行動に驚いたようだったが、捕まえる相手が止まったのだからそのまま突っ込んでくる以外に選択肢があろうはずもない。減速もせずそのままの勢いでこちらに向かって走りこんできた。




 結果から先に言うなら、大道が珍しく役に立った。といったところだろう。女子供プラス猫では戦力的に大問題なのだが、足りない部分を補うほどの活躍を大道が見せた。戦う姿はまさに人里に降りてきた野生のゴリラ。もう少し違った見た目だったら印象が大いに変わっただろうに残念なことである。


「くそ、ふざけやがって。おい、鈴を鳴らせ!」


「わかった! 『そこのゴリラをどうにかしろ』!」


 男たちは形勢が悪いと判断するといったん離れた。そして一人の男が怒鳴りもう一人の男が応じて持っていた鈴を鳴らした。

 場違いなほど澄んだ音がしゃらんと鳴り響く。


「それがいったいなんだってんだ。おとなしくしてやがれ!」


 仲間に知らせるにしてはやけに小さな音はいったい何の意味があるのか判断があつかない。案の定仲間がやってくるわけでもなく、関係ないとばかりに大道は男たちに飛び掛った。

 これで何とかなったか。

 私たちは完全に楽観してしまったのだが、その考えは裏切られることとなる。大道にアキラがしがみつき動きを妨害したのだ。


「お前何しやがる!」


 大道が怒鳴るがアキラはピクリとも反応せずしがみついている。予想外の出来事に私たちは動けず、大道も動きを封じられてしまった。

 当然その隙に殴りかかってくる男たちを止める手段はなく、このままでは間違いなく大道はやられてしまうだろう。こちらの主戦力がやられてしまえばその後はおそらく勝負にもならない。適当に痛めつけられ村へ運ばれた後、想像もしたくない展開が待っているはずだ。


 下手をすればすべてが終わってしまいかねない危機的状況。そこから私たちを救ったのは、意外なことに今まで大人しくしていたハルカだった。

 いつの間に動いていたのか、満足に走れもしない和服で技術も何もなく文字通り男たちに飛び掛った。細身の女性であるハルカが飛び掛ったところで大した妨害にもならず、あっという間に引き剥がされてしまうが、わずかながらも貴重な時間を稼ぐことが出来た。

 沙耶歌がためらいなくアキラを蹴り飛ばし大道が自由になったのだ。


「よくやったな。後は任せとけ」


 大道はハルカを尊大にねぎらいバキバキと指を鳴らした。こうなればもう心配は要らない。

 腰が引けてしまった哀れな男たちに向かって大道は一歩一歩近づいていった。




「覚悟は出来てるんだろうな」


 男たちをのした後、私たちは座り込むアキラをにらみつけていた。一歩間違えれば大変なことになっていた事態を引き起こしたのは間違いなくアキラだ。やはりこいつは信用ならない。そんな思いが私の中に渦巻いていた。


「待ってください、今の違うんです!」


 黙っているアキラの前にハルカが立ちふさがった。


「何が違うってんだ。間違いなくそいつが動いて邪魔してきたじゃねえか」


「あの鈴なんです!」


 ハルカが指差したのは男たちの持っていた奇妙な形をした鈴だった。男たちがこの場にもってきているにしては異様なものに間違いないが、それがいったいどうしたというのだろうか。


「あれは村の儀式のとき使われる鈴です。禍神としての生活を強いられてきて、あの鈴で暗示がかかるようになってしまったんです!」


 普通に考えれば何を馬鹿なと一笑にふしてしまうようなものだが、あの村をよく知る私からすればあながち嘘ではないのかもしれないと思ってしまうような内容だった。アキラがどんな精神状態で禍神としての役目をこなしてきたか知らないし知ろうとも思わないが、あの村での扱われ方を想像すれば可能性としては十分にある。


「それは本当なのかい? 私としてはいまいち突拍子もない話に聞こえるんだけど」


「こればかりは信じてもらうしかありません」


 当然の疑問を口にする美鈴さんにハルカはそういって黙り込んでしまった。

 演技との区別がつかない以上暗示を証明することは難しい。時間があれば可能だろうが、今ここでゆうゆうとそんなことを調べている時間はとてもありはしない。

 どうするべきか沈黙がおりかけたとき、沙耶歌が当たり前のような口調で話し始めた。


「たぶんその暗示の話は本当だと思うよ」


「どうしてそんなことが言える?」


「私が蹴っ飛ばしたとき、アキラ人形みたいな気持ち悪い顔をしてたんだ。それに私の蹴りを避けようって感じが少しもしなかったからまともな状態ではなかったと思うよ」


 沙耶歌の言っていることが正しいなら暗示にかかっていた可能性は相当高いといえるだろう。そうなればアキラは単なる被害者で悪意はなかったと考えることは確かに出来る。

 しかし仮に悪意がなかったとしても鈴の音一つで裏切ってしまう人間を連れて行ってしまっていいのだろうかという問題も残る。

 レイの希望を最優先にかなえてあげたいのは山々だけれど、レイ自身をこれ以上危険にさらしてまでなすべきことではない。


 みんなも対応に困っているのだろう。お互い困惑したように顔を合わせてしまった。



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