大道の怒り
山狩りというものがある。
行方不明者が出たときや山に何者かが逃げた場合に行われる山の捜索のことだ。大人数で火をたき山を探し回るそれは暴力的なまでに夜の闇を暴き目的のものを見つけようとする。
そして今起こっている獣狩り。これはまさに山狩りの後者に当たるにふさわしいものだった。
山の中、深夜の森の中。本来ならば全ての生き物が眠りにつく時間帯だというのに今ここに静寂というものは存在しない。
村のほうには空を照らすほどの明かりがつき、人が何かを探し回るような気配がざわざわと森の眠りを乱している。
そうだ、こんな感覚だった。以前行われた獣狩りの忌まわしきあの感覚は。
「秋及さん、だったわよね。この道は一体どういう道なの?」
「私が占いをする前、身を清めるときに使う滝に向かう道よ。その先に村の外に続く道があるの。普通の村人じゃこの道すら知らない、たとえこの道を知っている人でもその奥に抜け道があることまで知っている人はいないはずだわ」
道を先導する秋及は美鈴さんの質問に振り返ることもなく答えた。内容は丁寧ながら話すその答えは秋及の私達への心情を表しているかのように淡々としたものだった。
みんなもその気配を感じ取ったのか続けて声をかけることもない。暗い道を歩き村の明かりが遠ざかっていくことだけが移動していることの証明。夜の森を逃亡者の行進はただただ静かに進んでいった。
それからしばらく歩くと私の耳に水が岩を叩く音が伝わってきた。どこからともなく漂ってくる水の匂い。どうやら秋及のいう滝に近づいてきたようだ。
岩の増えてきた山道を抜け木々をくぐる。生い茂る葉をどかすと目の前に月明かりに照らされる小さな滝が現れた。
それは小さいながらもどこか神秘的な気配を漂わせる滝だった。こんな森の中にあるというのにきちんと人に手入れされていることが伝わってくる。秋及の家が先祖代々占いの前に身を清めてきた滝、その言葉を深く実感させるに十分な光景がそこにはあった。
「これは……すごいな。あんな村にこんな場所があるなんて思いもしなかったよ」
「本来なら部外者、ましてや"禍神"に近寄らせるような場所じゃなかったのだけどね」
「あんたなぁ」
秋及は目を伏せるようにして呟いた。大道はその言葉に反応し秋及に険しい視線を送る。
緊迫した空気が当たりに漂い始める。一歩。静止しようとした美鈴さんを押しのけ大道は前に進み出た。
「ちょっと、大道!」
「美鈴、少し黙っててくれ。
おい秋及とかいったな。いい加減言わせてもらうがお前にアキラたちをせめる権利なんてあるわけねぇだろ」
「どういうことかしら?」
いい加減我慢の限界という様子で大道は秋及に詰め寄った。
「アキラたちの母親が難産で亡くなったというならまだしもそうじゃない。アキラたちが悪さをして村が乱れているのかといえばそうでもない。
こうなったのはどう考えてもこの村の自業自得だろうが」
「アキラたちが、禍神が生まれてこなければこんなことにはならなかったのよ!
生まれてきさえしなければ、この村は信心深いだけののどかな村でいられたのに」
「もともとのどかな村なんてありゃしないんだよ。
双子が生まれることなんて珍しいことじゃない。双子が生まれたら忌み子として殺してのどかな村ってか。一体なんの冗談だ」
「大道!」
秋及を見下ろす大道の背中を美鈴さんが叩く。言いたいことをいったからか大道はおとなしく美鈴さんの制止に従った。
「大道がいい過ぎたことは謝ります。ですが……私達もこの村の慣習に納得がいっていないのも事実なんです」
美鈴さんの言うとおりだ。レイやアキラが納得しているはずもないし、私にいたっては大道の言葉が言いすぎだとすら思っていない。厳しいかもしれないがこれが率直な気持ちなのだ。
秋及はこれをどう思ったのだろうか。何も話さず後ろを向きもとのように先へ先へと進んでいった。
大変おくれて申し訳ありません。
試験なんてこの世からなくなればいいのに……。
大道を働かせようと思ったらこんなことに。
お次はEARTHさん、よろしくお願いします。