再び
―――――ホーホー…
遠くで何かが鳴いている。
山奥の村は、そこだけ時代が切り離されているように思えた。
暗く静かでどこか不気味な夜。
私達は乗ってきた車の周りに集まっていた。
「なぁ…アイツ遅くねぇか?」
大道が言った。
「いや、きっとバナナがなくて焦ってるんだって…っち、だから前日に準備はしとけって言ったのに…」
「そうですね…あ、でもアキラ君はそういうのは張り切って三日前くらいから準備しだす派ですよ?」
「うーん。となると、やっぱり張り切り過ぎちゃって結局、当日熱出したとか…」
「いやいやいやいやっ!」
女子三人のボケに大道がツッコミを入れる。
「遠足じゃないからっ…てか、もうちょい緊張感持てよ…仮にも今から人間2人誘拐しようってんだぜ?」
やれやれと首を振っている。
そんな大男を見上げて思った。
確かに遅い。
アキラにはここの場所も集合時間もおぼえて帰ったはずだ。現に何度も確認した。
なのに来ない。約束時間はもう過ぎている。
何かあったのか…それとも――――――。
「来るって言ったよ」
私の気持ちを察したのかレイがポツリと言った。
「…レイ」
私は大道からレイに視線を移す。
「来るって言った。絶対来るって、そう言ったんだ」
今度ははっきりと、言いきった。
「少年…そうだな、アイツは絶対来る。来るって言ったもんな」
沙耶歌は安心させるような微笑みをレイに送った。
あぁ、こんなところがあるから沙耶歌を嫌いにはなれないんだ。
そう思った。
その時だった。
――――ドォォォォン!
「なにっ!?」
「屋敷のほうからです!」
耳を劈くような爆音が聞こえてきた。
「燃えてる!赤い、燃えてるぞ!」
それを追って沙耶歌の叫び声がした。
「マジかよ…」
アキラはあの後ばれないようにここに来るって言って屋敷に戻った。
もしや村人たちに…?
「あ、あれ!」
美鈴さんの声で思考が途切れた。
と、同時に目の中に飛び込んできたのは血まみれで走ってくるアキラだった。
「みんな乗って!」
怒鳴るようにして言ったレイに思わず全員車に乗る。
「乗った?」
「ゼェ…ゼェ…」
最後に息も切れ切れのアキラを引っ張り上げドアを乱暴に閉める。
「車出して!」
「お、おうっ」
そして発進…。
何がどうなっているのかわからないまま私達は山道を車で走り抜ける。
「お水…」
「あ…ゴホッゴホッ…」
ゴクゴクと頭上で音がして私はアキラを盗み見た。
暗くて皆は見えてないだろうが、首元にムチの後がありそこから血がにじんでいた。
「はぁ…助かったよ」
アキラはまだつらそうにしながら、それでも口の端をあげた。
「どうした…何があったんだ?」
「その傷、普通じゃないわ…」
「屋敷でも何かあったみたいだし…」
ふー。と溜息が聞こえ、血まみれの気配は動いた。
「バレたんだ。逃げ出そうとしてること、それでちょっとお仕置きされて閉じ込められてたから遅くなった。ごめんね?」
悪びれもせず言う。
「っつ…」
「もぅー、そんな顔しないで。追手が来るかもしれないけど屋敷爆破しといたしこのままいけばよゆ…」
――――――キキーー…
アキラの余裕余裕!は聞けなかった。そしてさっきまでおどけていた顔は無表情だった。
車が急に止まったのだ。
「どうした?」
私はアキラそっくりの顔を見上げた。
「岩…」
「いわ?」
答えたのは黙っていたレイだった。
「道を塞いでいて、車は通れない」
大道が絶望的な顔をした。
――――――だー…じ…り…
「なにか、何か聞こえないか?」
沙耶歌さんがドアを開けた。
―――――――け…り…だー!
だんだん近づいてくる音。聞き取ろうとしていたら、レイとアキラがつぶやいた。
「「獣狩りだ」」