『迷惑です』
ギ、ギリギリに投稿なのは
い、いつもの事だから気にしないで、下さい……
「思い……出したのか?」
部屋にいる、私を含めた全員、アキラや大道でさえもが見守る中、
彼は――――ゆっくりと首を横にふった。
「いや……でも、名前だけ。
名前だけが、頭に浮かんだんだ。
春の息吹、って言葉と一緒に」
ハルカが顔を被って膝を付いた。
肩が小刻みに震えている。
それが希望なのか喜びなのか、
それとも自分でなかったという絶望なのか悲しみなのか、
私には分からなかった。
皆が、記憶を取り戻しかけているレイと、
崩れ落ちたハルカに気をとられる中、
レイはゆっくりと歩み寄り、真っ直ぐアキラに向き直った。
「初めて見た気が、しませんね」
「当たり前だ、君は鏡を見ないのか?」
「いや、そういうんじゃなくて」
レイが苦笑して頭をかきながら軽くうつむき、
アキラも面白がるように片頬を上げた。
「僕はね、貴方の『眼』を知ってるんです」
改めてアキラを見据えるレイの顔から、笑みは消えていた。
「その眼は……贖罪の眼だ。
自罰と後悔と、そして嘆きの眼だ」
まるでどこかの名探偵が犯人を言い当てる時のように
毅然とした口調でアキラに詰め寄る。
「その眼は自分勝手な眼だ。
自分が堕ちて代わりに他人を押し上げようとする、
そんな考えをしている眼だ。
誰もそんな事望んでいないのに」
「君は……何も知らないだろう?
僕の事も、ハルカの事も、自分の事さえも!」
「ええ知りません!
僕は皆に比べて何も知らない。
それこそ一般常識はともかく、この村の事情から、
自分の経緯さえ全て貴方達より知らないでしょう。
けど、僕は一つだけ貴方より、
ずっとずっとよく知っているものがある」
言葉を荒げたアキラを封じながら、
一呼吸置いてレイは続ける。
「それは『他人に迷惑をかける』という事。
記憶を失くして自分の名前も分からなくなった僕に、
皆とても優しくしてくれました。
僕がとんでもない失敗をしても、
くだらない癇癪をぶつけても、
些細な事で落ち込んでいても、
皆本当に親身になって僕を支え、助けてくれた。
だから、『他人に迷惑をかける事』だけは、
ここにいる皆全員よりよく分かるつもりです。
だから、その眼が、その眼が出した答えが、
間違いだと分かるんです」
「じゃあ君はどうすれば良かったっていうんだ!?
あの状況で、あの環境で! 一体どうすれば良かったって言うんだ!」
「知りません! ”昔の事”なんて。
そんな昔の事なんて、今はどうでもいい」
絶句をするアキラに、レイがさらに畳み掛ける。
「貴方が僕に何をしたにしても、
僕はそんな事忘れました。もうそんな昔のことはどうでもいい。
だから、勝手に自分で自分を不幸に追いやって、
勝手に自己解決しないで下さい!
償いたいんなら僕の隣で償ってください。
こんな山奥の誰にも見えない所でひっそり不幸になられたって、
嬉しくもなんともありません。
だから――」
まるで。
「行きましょう、僕達と一緒に」
まるで溺れた人に向けるように、
レイはアキラに向かって真っ直ぐ手を差し出して、
笑顔を向けていった。
「失敗したって、次頑張ればいいんですから。
呪いだの禍神だのは、
この村のヒステリックな人たちに任せておきましょう
僕達が神や獣でないように、
僕達は正義の味方でも悪の親玉でもないんです。
全てを終わらせる必要も全てを背負う必要もない、
恐かったら逃げればいいし、手に負えなければ誰かに投げればいいんです」
呆気に取られた、という言葉がこれほど使いどころなのも珍しいくらい、
アキラはぼぅっと口をあけ、眼は見開かれていた。
その眼はだんだんと細まっていき、
口も閉じられ、端の方がヒクヒクと震えている。
ついには大声を上げ、上を向いて高らかに笑い出した。
「あはははははははは!
ははははははははは!!」
流れる涙を手で押さえながら、
高らかに、朗らかに、笑い、哂った。
しばらくしてアキラの笑いが収まったとき、
アキラは急に真面目な顔になり、
美鈴や沙耶歌、大道に向き直った。
「皆さん、香坂さんには言わせて頂きましたが、
改めて御礼を言います。
彼をここまで連れて来てくれて有難う御座いました。
まさか彼がここまでの人になっているなんて思いもよらなかった……
今まで彼を支えて頂き、本当に、本当に有難う御座いました」
深々と頭を下げると、大道は気まずそうに鼻の頭をかき、
美鈴さんはすぅっと目をそらし、
沙耶歌はいつものように、どうだ参ったかとでも言う様に胸を反らした。
皆を一様に見回したあと、
アキラは改めてレイに向き直った。
「君が僕を許すからと言って、
僕は即座に自分を許せはしないけど、
君が望むというなら、
僕も君と共に村を出よう」
「強情ですね」
「これくらいで勘弁してくれよ、
6歳から引きずってるんだぜ?」
レイは可笑しそうに笑い、
アキラもつられて笑った。
「これで」
二人に見とれて呆けていた私の前に、
そっとレイが膝を付く。
「これで一緒に来てくれるよね、イブキ」
「ああ」
ため息交じりで頷く。
全くこの少年は、
いつも知らないうちに強くなっている。
いつも隣にいる私が、全然気付かないうちに。
「完敗だよ、レイ」
首を振る私を、レイは面白そうに笑った。
ね、眠い 目蓋が鉄アレイみたいに重い
(現在霧桐は徹夜明け)
つ、つぎはしろかぼちゃさんです……
よろしくおねがいします