来歴
「……つまり、私達がスパイ活動をしている間、少年達は家探しをしていたということか!」
「お、おいこら! 人聞きの悪い言い方するんじゃねえよ」
沙耶歌の(遠慮のかけらもない)発言に、大道がおどおどと突っ込みを入れた。隣で苦笑しているハルカに、レイが頭を掻きながら謝罪する。
「本当にすみません。けど、通してもらった部屋に色んな資料があったので、つい……」
「いいんですよ。遠慮なく使ってくださいと言ったのは私ですから」
ハルカはそう言うと、机の上に散乱している資料を見た。
「――それにしても短時間で、よくここまで探し出せましたね。それも、重要な資料ばかり」
「あ、ごめん。それやったの、あたし」
レイの隣から、美鈴さんがひょいっと頭を出す。
「職業柄っていうか職業病っていうか、本を探したりするのは得意でね。この部屋の本棚、村の歴史やら何やら色々あったからさ。レイと関係のありそうな資料だけ抜粋したんだ」
「そうですか。……よかった」
――これもハルカの思惑通りか。安堵のため息をつくハルカを見て、私はそんなことを思った。
ハルカの実家とはすなわち、元村長の家だ。村に関する資料、もしくはそのコピーが残っていてもおかしくはない。ハルカは恐らく初めから、これを狙っていたのだろう。
私達を二手に分け、一方をアキラの元へと案内し、もう一方には資料を読ませる。そうすれば効率がいい。――レイの性格上、すまないと思いつつも資料に手を伸ばすことは、ハルカになら簡単に読めただろう。
大体、見られたくない資料がある部屋に通すわけがない。どう考えたって、わざとだ。
……相変わらず、この娘は機転がきく。
「それで? その資料から、何が分かったんだ?」
沙耶歌の質問に、美鈴さんと大道が黙りこんだ。……あまり楽しい内容ではなかったらしい。予想はできるが。
二人の様子を見たレイは、少し硬い笑顔を見せた。
「僕が説明しますよ。――双子について、だけど」
レイの話は、私の知っている内容とほぼ同じだった。
大昔、この村は大飢饉に見舞われた。何百年に一度あるかないかの、酷いものだった。
そんな中、とある村人が双子を出産した。だが、子供二人を育てる余裕がない。村人は泣く泣く、生まれたばかりの双子の、――『弟』を殺した。
双子の『弟』を殺した数か月後、謎の疫病で村人達は次々と倒れ、死んでいった。
双子の呪いだと恐れた村人達は、双子が生まれたら徹底的に隔離するよう命じた。絶対に殺してはならない、不自由をさせてはならない、と。
そうして、村人達は双子を崇めるようになった。双子の、『二人』を。
ところが。ある時、双子の『兄』が肺炎をこじらせて死んだ。
双子の呪いを恐れていた村人は、毎日怯えて過ごした。大飢饉が、大災害が、すぐやってくるに違いないと。
だが、その予想は外れた。飢饉ではなく、豊作が続いたのだ。
最初は怯えていた村人も、徐々に笑顔を取り戻し、――そして極端な答えを導き出した。
双子の『兄』は、殺すべきだと。
「それ以降、双子の『兄』もしくは『姉』は、生まれると同時に殺された。……そうですね?」
レイの問いかけに、ハルカは唇を噛みしめたまま頷く。
黙って話を聞いていた沙耶歌が、思いっきり首を傾げた。それに気付いたレイが、笑う。
「だったらなんで、双子の兄である僕が生きているのか。……それは、僕が『兄』なのか『弟』なのかが曖昧だったから」
「どういうことだ?」
「これ」
レイが、一枚の資料を手に取る。それは、自分とアキラに関する資料だった。
「僕たちは、自然分娩ではなく帝王切開での出産だったんだ」
「それが何か関係あるのか?」
「自然分娩の場合、お腹の下側にいる子供が最初に出てくるよね? ――お腹の下側にいる子が兄、上にいる子が弟ということになる。けれど僕らの時は、やむを得ない事情で、『上にいた子供』を『先に取り出した』んだ。……つまり、自然分娩なら弟になるはずだった子供が、先に生まれた」
意味を理解した沙耶歌が、「ああ」とだけ答えた。
「どうも、このパターンは初めてだったらしい。この場合、どちらが兄でどちらが弟になるのか。困惑した村人達は、その判断を占い師に任せた。そして、全てを託された占い師は、『先に取りだされた子供』を兄とした。……けれど、その判断が間違いだったら? それを恐れた占い師と当時の村長は、双子の兄を『殺す』のではなく『捨てる』ように命じた。万が一の場合は、すぐに僕を連れ戻せるようにね」
その後、村人達はアキラの存在を必要以上に恐れた。ただでさえ不吉な双子の片割れのうえ、兄なのか弟なのか分からない存在に。
結果、村人はアキラを禍神と称し、幽閉した。
「ところがある日、僕が村を出ていってしまった。……資料はここで終わっています。ハルカさん、他に何か知っていることがあるのなら、教えて頂けませんか」
レイの言葉に、ハルカは両手で顔を覆った。
ややこしい設定を付け加えて申し訳ありません(今更謝罪)
くぃかそ様、お願いします。