村人
「ここで止まってくれ給え」
男の指示に従い同行した私達は唯一道に面した村の入り口の外側、つまり乗ってきた車があるところまで連れて来られた。
村の入り口には道を塞ぐように武装した男達が立ち並ぶ。その意図は見え透いている。これ以上村の中においておきたくないということだろう。
「おとなしく同行してくれたことには感謝するよ。私達もすき好んで暴力的な手段をするわけではないのだからね」
「はっ、何ふいてやがる」
「まぁどう思ってもらっても構わんよ。それで私達の言いたいことだが、なにそんなに難しいことではない。このまま帰って二度とこの村に近づかないでくれということだけだよ」
「ふざけんじゃねえぞ!」
今にも殴りかかっていきそうな大道を美鈴さんが体を張って止める。大道が怒るのも無理はない。やはりこの男は今も昔も変わらず私達のことを禍をもたらす悪魔の化身としてしか見ていないのだ。
「申し訳ありませんが私達もここまで時間を使って来た以上、帰れといわれて帰るわけには行かないのです。なぜそこまでレイたちを目の敵にするか理由を教えていただけませんか」
大道を押さえながら美鈴さんは男にそう尋ねた。言葉こそ丁寧だがそこに敬意だとか、礼儀と言ったものはまるで含まれていない。おそらく美鈴さんも表に出していないだけで大道と同じように怒ってくれているのだろう。大道を押さえる手に震えるほどの力が込められているのが見て取れた。
「なるほど、そいつは君達に何も話していなかったのだね」
「生憎レイは記憶をなくしていましてね」
「自分の身の程すら忘れてしまうとはおめでたいことだ」
男は私達がどう思うかなんてまるで気にしていないのだろう。心底あきれ果てたという様子で鼻を鳴らした。
「そいつは禍をもたらす双子の片割れ。本来ならば生まれたと同時に殺されても仕方なかった存在なのだよ」
「馬鹿馬鹿しい。レイの扱いの説明になっていませんね」
「慣わしだよ。この村で生まれた双子は何代も前から禍をもたらすものとして忌み嫌われてきた。ならばそいつが忌み嫌われるのも当然だろう?」
この男は自分がどんなことを言っているか本当に分かっているのだろうか。葛藤も疑問も、何一つ挟むことなく男は言い切った。
あまりも発言に美鈴さんは言葉をなくしている。当然だろう。考えの違いといったレベルではなく考え『方』の違いなのだ。
一般の常識が通用せず、ありえないことを当たり前だと思う。そんなやつにまともな話が通じるわけもなく、何を言っていいのか分からなくなってしまうのも無理のない話だ。
私達の言葉が止まりそれとは逆に村の連中が帰れ帰れと騒ぎ出す。村のやつらにしり込みしたわけでもなければ自分達が間違っていたと思ったわけでもない。
ただ単純に何を言えばいいのか分からないゆえの沈黙が私達の間に流れた。
そんなときだ、今まで黙っていた沙耶華が口を開いた。
「あなた達は本当に自分のことをおかしいと思わないのか?」
その声は悲しくて、苦しくて。何かを必死に耐えているかのように切ない響きを伴っていた。
「何を言っているのかよく分からないな」
しかしそれに答える男の声は平坦で冷たい。
水と油。どれほど混ぜようとも決して交わらないだろうことがそのやり取りから伝わってきた。
「君達がどう思おうとも私達はこの慣わしを変える気はない。
もういいだろう、言葉で伝えるのはこれで最後だ。このまま帰って二度とこの村に近づかないでくれたまえ」
その一言で村への道を塞いでいた男達が再び動き始める。
さすがにこれ以上食い下がるのはまずいだろう。美鈴さんもそう感じたのか今にも飛び掛っていきかねない大道を押さえ車のほうにじりじりと後退し始めた。
「みんな車に乗りな。これ以上ここにいると危なそうだ。あんたもおとなしく車に戻って」
美鈴さんに促され大道もゆっくりと車に戻る。レイや沙耶華も異存はないのだろう。二人とも特に反応することなくおとなしく車に乗り込んだ。
「帰るかどうかは別にしてもとりあえずここから離れよう」
車に乗り込み美鈴さんが指示を出し、大道は村の連中に悪態をつきながらそれに従い車を出した。ゆっくりと車が動き出し村からどんどん離れていく。
果たしてみんなは今どんな気持ちでいるのだろうか。沙耶華は、大道は、美鈴さんは――そしてレイは。
沈黙の続く車内に道を走る車の音だけがやけに大きく聞こえた。
うーん、なんとも難しい。
EARTHさんよろしくお願いします。