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人見知りする碧  作者: くぃかそ 南晶 EARTH 白かぼちゃ うわの空
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独りと一人とひとり

「レイ!レイっ!」


大きな何かが下からやってくる。

アレはなんだ…

心が不安に揺れ動く。

はやくレイをみつけてやらないと、同じように孤独さに消えてしまいそうになっているだろう。

そんなことを考えているうちにアレは迫ってくる。


「あ…ああぁぁぁ」


目を凝らしている隙にアレの正体がわかった。

一瞬すくんだ足を叱咤して逃げる。

私を飲み込もうとするそれは…純粋な闇。

黒ではなく、ただたんにすべてを染め上げて取り込んでいく。


「どこだ!レイ!レっ…」


尻尾の感覚がなくなったのがわかった。

間に合わない、そう思ったときにはもう闇に咀嚼されていた。





「に…」


視界がぼやける。

くぁ…と欠伸をして瞬きをした。

あぁ…なにかとてつもなく不安な夢を見ていた気がする。

ガタガタと寒くもないのに筋肉が震えている。

この震えは…


「お、猫ちゃんおきたか」

「なーう」


大道の声に反射的に返事をして、やっと我にかえる。

そうか…私は寝てて、夢を見て勝手に震えているのか。

たかが夢だ、内容も覚えていないほどのものならば気にすることはない。


「もうすぐつくらしいよ」


そう思ったが、頭上から降ってきたレイの声にも揺らぐ何かがあるように感じてしまった。


「美鈴も起こさなきゃな」

「あ、僕が」

「おう」


いや、今は今に集中しよう。

まずは美鈴さんを起こすところから…。


「美鈴さーん!美鈴さーん」

「…」

「美鈴~?美鈴~?起きろ!」

「…」


レイと大道が呼びかけたが美鈴さんはしっかり眠っている。

そこまで大きくないとはいえ、一つの図書館を取り仕切っているのだ、

いつも明るい彼女だがそれだけに無理をしたりして溜まっているものもあるのだろう。


「もうちょこっとだけ寝かせてやったらどうだ?」


クロさんが同じことを考えたのかそう言ったが、本当にもうすぐつくらしい、

大道もそうさせてはやりたいんだが…という顔をして、再度運転席から声かけをした。


「美鈴~?起きろ!」

「美鈴さーん!」


私も加勢して


「にゃーう、にぃー!」


と鳴いた。


「…」


しかし起きない美鈴さん。

見かねた大道が大きく酸素を吸い込んだ。


「美す…」

「うるさぁぁぁぁぁぁい!」

「ぐへっ!」


大道、お疲れ、お前のことは忘れないよ…


誰もがその時こう思った。


そして私は一瞬遅れて気がついた。

不安も恐怖もいつのまにかどこかへ行っていた。




―――――――――――――――――ブロロロロ


「疲れたぁ~」

「ふう…」

「大道さんお疲れ様です」

「やっとついたわ」

「なっふ」


車からぴょんと飛び降りてあたりを見回す。

あの頃と少しも変わっていないように見える入口。

だけど初めて見るような気持ちになるのは、私とレイがふたりぼっちじゃないからか。

孤独ではないからか。


「いいかレイ?」

「…」


美鈴さんが言った。

全員の視線がレイにそそがれる。

瞳に差し込む光を拒絶するかのように下を向いたレイ。


「…もう一度聞く」


クロさんがレイの肩に手を置く。

人間はこうすると手を置いたほうも置かれたほうも、双方が勇気をもらえるらしい。

私ではそんなことができないからただ見上げる。気持ちが伝わりあうように。

ジャリッ…そんな音がして誰かが息を吸い込む音がした。


「いいかい、レイ?」


さらっと風が吹き抜けて行った。


「はい」

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