旅の仲間
二人で話し合い、レイの生まれた村にいくと決めてから数時間。
ぶらぶらして時間を潰した私達は、美鈴さんを旅の道連れに誘おうと通い慣れた図書館に向かって歩いていた。
ただ普段に比べレイの足取りは格段に重い。まるで今にも止まってしまいそうなものだった。
「ねぇ、やっぱり迷惑じゃないかな」
レイは道すがら何度か繰り返された質問を口にした。
時間を潰している間に聞いたところ、どうやらレイは美鈴さんを誘うことに抵抗があるようだ。なんでも楽しげな旅ならまだしも、かなりの確立で不快な目にあわせてしまうことが分かっている以上、誘うのはどうかということらしい。
「そんなことないさ。それにもし迷惑だったとしても美鈴さんならばっさり断わってくれる」
こう返事はするものの、正直に言ってしまえばレイの気持ちは分からなくもない。むしろ私も人の様子を伺ってしまう傾向が強いだけに共感できると言えるだろう。
しかしそうであったとしても今回ばかりはそれに流されるわけにはいかないのだ。
その理由は目的地にある。古くからの慣習が未だに幅を利かせている村――特にレイの生まれた村では、村人に対し容赦がない。それは慣習があるという理由だけで、何もしていないレイを人間扱いしないということができる点からも容易に想像がつくだろう。そして残念なことにその容赦のなさは元村人にも向けられるのだ。
では私達はどうするべきかというと、村にとっての異物と一緒に行って干渉され難くすればいい。そう、外の人間という異物と。
無論これは私がかってに思っているだけで、本来ならば余計な心配なのかも知れない上、一緒に連れて行かれる人たちからすればなんとも失礼な話だろう。
だけど私はそうでなければ安心できないのだ。生まれてからレイがどんな扱いを受けてきたか覚えている私は。
「どうしたの? ボーっとして」
「いや、なんでもない。それよりもレイは美鈴さんへの誘い文句でも考えておいたほうがいい。レイだって本音としては一緒に来てもらいたいんだろう?」
「それはそうだけどさぁ……」
願わくば三人ともついて来てくれますように。隣でぶつぶつ呟きながら歩くレイを見上げ、心の中でそう祈った。
「バイトじゃないのにここ来るなんて珍しいね」
図書館に着いた私達を出迎えたのは失礼ともなんとも言いがたい美鈴さんの言葉だった。
「えっと、少々お願いしたいことがありましてお邪魔しました」
「バイトのシフトを変えて欲しいの?」
「そういうことじゃないんですけど……」
初めはしょうがないなといった顔で見ていた美鈴さんも、レイの普段とは違う態度に違和感を感じたらしい。少し真面目な顔になってレイの言葉を待ち始めた。
「……今度自分の生まれた村に行ってみようかと思うんです。それで、勝手なのは分かってるんですけど、美鈴さんにもついて来て欲しいと思ってお願いに来ました」
それを聞くと美鈴さんはレイを見つめたままじっと黙り込んでしまった。一体何なんだろうという間。
一秒、二秒。
居心地の悪い沈黙が続いたところで美鈴さんが口を開いた。
「そうかい。で、いつ行くんだい?」
「まだ決めてませんけど……。美鈴さん、来てくれるんですか?」
「うちのバイトの一大事だ。雇い主としてしっかり見届けてあげるよ」
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げたレイを見上げる私は、レイの顔に隠しようのない喜びが現れているのに気がついた。
この村に来るまでは不吉なものとして扱われ、まともに相手をしてくれる人がほとんどいなかったという話を聞いた後だ。たぶんレイは周りの人の優しさを改めてかみ締めているのだろう。
それが友として嬉しく、そして少しだけうらやましくある。
「そうだ、どうせなら大道も連れて行こうじゃないか。車で行くなら運転手になるし、荷物があるなら荷物持ちにできる。少々暑苦しいのが難点だけどね」
カウンターから乗り出した美鈴さんは笑いながらなかなかに酷いことを口走った。
以前会ったときから分かっていたが、やはり大道は美鈴さんにまるで頭が上がらないらしい。表情やしぐさから親しい故の気安さだと容易に分かるものの、さすがにここまでになると大道に同情を禁じえない。合掌。
「それって……いいんですか?」
「なーに、あいつのことだからぐちぐち言ってもちゃんとついて来てくれるさ。それとも君は私と二人の方が良かったのかい?」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
分かりやすくからかう様なしぐさをする美鈴さんにレイはまるで対応できていない。
友としてなんとも情けない様子だが、経験値の足りないレイならばまぁ仕方のないことと言えるだろう。
納得いかないこともあるし、少々助け船を出してあげるとするか。
「にゃーお」
「ん? もしかして猫ちゃんも一緒に行くのかい?」
「そ、そうなんです。美鈴さんたちに断わられても二人では行こうと思ってまして」
「なんだい。なら大道を呼んでも呼ばなくても二人きりにはならなかったんだね」
美鈴さんは面白そうにからからと笑い、レイは助かったとため息を零した。
こんな調子であの少女に会ったときうまく話せるのだろうか?
思わぬ心配事が沸いてきて、私は美鈴さんにばれないようにため息をついた。
なんだかいろいろ申し訳ないです。
次はEARTH様、よろしくお願いします。