超短編 貝殻の指輪
宏美からの手紙(抜粋)
昨日ね、高校の卒業遠足があって、三崎港に行ってきたの。
よりによって、三崎港だよ、暖かかったし花も咲いていたし、きれいなところだった。
バスのガイドさんが、三崎、三崎って言うから、そのたびにドキドキして、気がふれそうだったよ。
貴方へのおみあげ・・・指輪買ったんだ。
封筒に同封しました。
友達にひやかされたんだよ、でもそれが嬉しくてね。
お小遣い少ないから・・・サイズが合うと良いのですが。
離れないで欲しいから・・・今は、こうしてずっと手紙を書いていたい。
絶対、貴方の住むところの大学に合格する・・・。
・・・約一年半後。
宏美が家に来なくなってどれくらい経つだろう。
サイズが合わなくて、内側から削って合わせた、貝殻の指輪。
昨日、その指輪が割れた。
これが「もう、終わりました。貴方は明日から自由です」・・・神からの知らせなのか。
長い間つけていた為か、なくなると妙に淋しい。
この割れた指輪は、最後の、僕たちの出会った印だったような気がする。
今でも、割れたまま、机の引き出しにしまってある。
僕の右手から、その指輪がなくなった二ヵ月後、出会いがあった。
二歳年下の、自称十六歳の少女だった。
・・・少し、擦れていた。
僕が、直してあげようと思った。
指輪は直せないけど、この少女の心は治せそうな気がした。
・・・海へ行った。
海岸へ一緒に行こう、と言うと、少女は首を横に振って、クルマの中で待っていた。
僕は心配で、ワンセット波を捕まえると、直ぐに上がってクルマに戻った。
スプリング(春用)の軽めのウェットを少女の前で脱ぐと、両手で目を隠しているが、隙間を開けて僕の全てを見ているのは分かっていた。
聞くと、処女ではないという。
あまり深くは、その訳は聞かなかった。
僕は・・・最後の一線を、未だ越えていない。
そのことを話すと、今夜、それを付き合ってくれると言う。
潮の香りと寝てみたいと言う。
親に内緒で、夜、僕の部屋に案内した。
少女は、僕に女性を教えてくれると、少女は素直な女性になり、直ぐに寝てしまった。
まるで貝殻の指輪をくれた宏美が探した、僕の女神のような寝顔をしていた。