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我らが太古の星シリーズ

宴会

作者: 尚文産商堂

「それでは、この1年間、ありがとうございましたー!」

「っしたー!」

どこかの飲み屋で、忘年会を開いている面々がいた。

その中でも、大ジョッキ片手に飲み比べをしているのは、宇宙初の量子コンピューターであり、現在は全惑星が加盟している統一組織である惑星国家連合の顧問をしているTeroだった。

飲み比べ相手は、惑星国家連合量子コンピュータ指導監で、イワノフ・サガチノフだ。

どちらも酒豪として知られていて、飲む片っ端からアルコールを分解しているとまで言われているほどだった。

「今年も無事に終わったね」

Teroの横には、Teroの娘である科学と、そのマスターである轟希久(とどろききく)がジュースを飲んでいた。

「飲み会にまで来て、酒を飲まずにジュースって…」

Teroが轟と科学の飲み物を見て、ボソッと言った。

「しょうがないじゃないか。科学は未成年だし、俺は酒は苦手なんだよ」

「車で来てるしね」

轟が答えた言葉に、科学が付け足す。

「車なら…」

Teroは仕方ないという顔をして、続けた。

「それで、科学はちゃんとしてた?」

「してたよ!」

科学が間も置かずに答える。

「んなこと言って、家でパソコンのキーボードは壊すわ、コーヒーメーカーは壊すわ、電子レンジは壊すわ、近所の子供と遊んでいたらブランコを強く押しすぎて泣かすわ……」

科学がTeroが見ていない間にした悪行の数々を、ここで暴露をしていた。

「ちょっと、それは言わないって約束してたじゃない!」

「いいじゃないか。1年の締めなんだし、これぐらいだったら。それとも、もっと暴露して欲しいのか?」

科学ににやりと笑いかけながら、轟が言うと、科学はコップの中に刺さっているストローを口にくわえて、黙り込んでしまった。

「…まあ、その話はいいとして」

Teroが、轟に聞いた。

「今年一年、どうでした?」

「どうでしたって、どたばたな一年でしたよ」

今年は、惑星国家連合成立2100周年ということもあり、大々的なお祭りが各惑星で開かれたのだ。

そして、それに参加するために、科学と轟は量子移動を連続して経験をしていた。

「量子移動を1日に3回経験する生活を1カ月も続けてたら、体が中からバラバラになりそうな感じに襲われましてね」

ジュースのコップをテーブルに置いて、轟がTeroに話しかけた。

「科学も、一緒に移動してたんですけど、途中でへばっちゃいましてね。予定では3カ月ほどあったんですけど、1か月で家に帰ってきたんですよ」

「量子移動は、まだ安全ではないところのほうが多いですからね」

量子移動というのは、物質を構成している原子を量子状態化し、なんだかよくわからない方法を使ってワープをするような感じだ。

理論上、どんなに離れていても移動することは可能らしいが、距離に比例して消費電力も大きくなり、さらに、連続して量子化することは構成している原子が分解する恐れがあるということから、事実上の限界は3万光年とされ、1日の連続量子移動回数を3回と法律で決めていた。

「仕方ないですけどね」

そう言いながら、轟はお酒のつまみのようなものを片っ端から注文していた。


テーブルの上に、空の器ができては店員によって持っていかれるということが何回も繰り返された後、Teroが最後に提案した。

「どうです、これから二次会とか」

その場にいたほとんどの人がそれに同調したが、轟はやめておいた。

「科学も寝ちゃってますし、このまま帰らせてもらいますよ」

科学は、壁を枕にすっかりと寝てしまっていた。

「この子も、まだ子供ですよ」

「親っていうのは、子供がいつまでも子供だと思っちゃうんですよね」

サガチノフがぼやきのような口調でいった。

「自分の娘も、すっかりいい年になっちまいまして、妙齢期っていうんですかね。男が群がるような美人っすよ。でも、自分からみればまだまだ子供。なのに、いつの間にやら……」

酒が入って、完全に酔った勢いで話し続けていた。

「この人も、Teroには勝てなかったみたいですね」

「量子コンピューターには勝てないでしょ」

Teroは勝ち誇った顔をしていたが、そのほほには紅が入っていた。


サガチノフはそれからも子供がどうのとか言い続けていたが、あるときぜんまいが切れた人形のように、グターンと倒れると高鼾(たかいびき)をかいて寝始めた。

それから、Teroたちと話し合って、彼の家へタクシーで送るように手配をしてから、轟はすっかり寝てしまった科学を背負ってTeroたちと別れた。

乗ってきた車に乗り込み、すっかり冬になりクリスマスから大みそか、そして正月へと一気に変わっていく世界の中、轟は家に着いた。

「ただいま~」

家の中に言ってから轟は思い出した。

轟の奥さんはいたが、今は一足先に実家に帰省していた。子供を連れて。

「俺一人だったな……」

そうつぶやくと、科学をベッドに寝かせて、轟は居間でアルバムを広げた。

畳敷きの部屋にちゃぶ台という、昭和スタイルな部屋で、自身の子供について振り返っていた。

テレビでは、今年1年の出来事を振り返る番組をしていた。

「今年も終わりか…」

畳に大の字になり、天井を見ながらぼんやりと考えた。

「…子供が子供じゃなくなる時って、いつなんだろうな」

考えているうちに、自然にまぶたが重くなり、そして、ゆっくりと寝始めた。

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