八つ当たり
「京都が海に沈んだ説があるじゃけ」
静香が窓から外を見ながら言った。
「何じゃそれ」
蛍はせわしなく着物の帯をしめながら言った。
「こないだ出おうた結川様が言ってたじゃけ」
そこでなぜか静香は、「はぅ」と、ため息をついた。
ドタバタと階段を、舞妓たちが降りて行く。
するとまた、ドタドタという音がして、蛍と静香がいる部屋に舞妓が顔を出した。
「皆伐様が来てるじゃけ」
「ええ?」と、静香は、蛍が帯をしめるのを手伝いながら、「ほなら、うちも急がねば」と焦った。
「のんびり窓の外を見てるからじゃけ。何が、「はぅ」じゃ」
蛍はそう言うと、「先に降りてるじゃけ」と、まだ見ていた舞妓に、「しっしっ」という手ぶりをしながら出て行った。
「ちょっ!待ってーや!うちの帯は?!!」
階段に向かって静香が叫ぶと、隣の部屋から黒澤が出てきた。
「はぅ」と、静香が思わず素っ頓狂な声を出した。
黒澤は、一瞬静香を見たが、そのまま階段を降りて行った。
黒澤様に見られてしもうた。
「紅くらいさしとけばよかった」
静香は、再び、「はぅ」と、ため息をついた。
階下の別室に、お茶を運んできたのは、舞妓であった。
ちゃぶ台を挟んで、黒澤と皆伐、花と蛍、静香が向かい合っていた。
「ここには特別な客が来るじゃけ」
黒澤が言うと、「政治家さんだろうか?」と、蛍が聞いた。
そこで、黒澤の携帯が鳴った。
「もしもし」と言いながら、部屋を出て行く黒澤を全員が目で追った。
「女じゃろか?」と、静香が声をひそめると、蛍が堪忍袋の緒が切れたとでも言ったように、静香の頭を殴った。
「何するじゃけ!!」と、静香が怒鳴った。
「八つ当たりは、大概にしとき!!」
蛍が更に、静香を殴ろうとするのを、皆伐が、「やめんか!!」と、止めた。
「はん!!黒澤様がこそこそするからじゃ・・・け」
そこで黒澤が戻って来たので、静香は咳払いした。
「特別な客を回す」
黒澤が続けると、花が言った。
「守りは誰じゃけ?」
静香が、「守り?」と花を見た。
「総括は、皆伐がやる」
黒澤がそこで、自分の腕時計を見た。
「お座敷の時間じゃろうから、詳しいことは後で話す。とり急ぎ、質問は?」
黒澤の言葉に、静香が手を上げた。
「うちも、スマホっちゅうものが欲しいじゃけ」
一瞬場が静まったが、黒澤が、「後で聞く」と立ち上がった。
「すんまへん」と、静香が頭を下げた。
黒澤が出て行き、花は、お茶に口を付けた。
皆伐も、お茶に口を付けると、静香がいきなり、「はぅ!」と悶えた。
「良薬口に苦し」
蛍はそう言い、お茶を飲み干した。
「当たるも八卦当たらぬも八卦」と、皆伐が言う。
「悪手も好手じゃけ」
花もお茶を飲み干した。
「茶碗は私が」と、静香が盆に茶碗を集めた。
今宵は、無礼講となる。




