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『俺、ラノベの真似して勉強してるだけなんですけど、なんで東大判定出てるんですか?』  作者: さらん
第三部:三年生

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■第23話 「特別」という名の向かい風

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

それでは、本編をお楽しみください!


 一年生への補習手伝いは、俺と涼子の日常に、これまでとは違う緊張感をもたらしていた。


 自分の勉強時間を削って教壇に立つことは、一見すると遠回りに見える。だが、教えることで自分の理解の甘さが露呈し、それを必死に埋める作業は、結果として東大対策のキレを劇的に増させていた。


 ある日の補習後、誰もいなくなった講師室で、神田先生が俺たちに一通の小さな封筒を差し出した。


「はい、これ。少ないが、今回の手伝いの分だ」


 中を覗くと、数枚の千円札が入っていた。


「え、バイト代なんていいですよ。俺たちの勉強にもなってるんですから」と遠慮しようとした俺に、先生は厳しい視線を向けた。


「いいか、プロの端くれとして知恵を貸し、生徒の貴重な時間を受け持ったんだ。対価を受け取る責任を持て。それが、自分の放つ言葉に重みを持たせるということだ。お前たちはもう、ただの『教えてもらう側』じゃない。自分の知性で価値を生み出す側に片足を突っ込んでいるんだ」


 自らの知性を対価に変える。その封筒の重みは、昼間は会社員として働く大人たちが背負っている責任の重さに、ほんの少しだけ触れたような、誇らしくも身の引き締まる経験だった。


 しかし、予備校という閉鎖的なコミュニティにおいて、特定の生徒が「教える側」に回ることは、周囲に波紋を広げた。


「……あいつら、最近調子に乗ってるよね」

「神田先生のお気に入りだからって、特別扱いされすぎ。裏でバイト代までもらってるって噂だよ」


 自習室の廊下ですれ違う際、向けられる視線が以前よりも冷たくなっているのを感じる。俺たちが結果を出せば出すほど、周囲の嫉妬や不信感は、目に見えないトゲとなって刺さってきた。


 そしてある日の午後、ついに一人の男子生徒が、大勢が見ている前で神田先生に詰め寄った。


「先生、いくらなんでも不公平じゃないですか! どうして高橋たちだけが講師の真似事をして、特別な指導を受けているんですか。僕らだって同じ高い月謝を払っているのに、彼らだけが特別扱いされるのは納得がいきません!」


 自習室全体にピリついた空気が広がる。俺と涼子は、針のむしろに座っているような居心地の悪さに身を縮めた。だが、神田先生は動じなかった。ゆっくりと椅子から立ち上がると、詰め寄った生徒を射抜くような眼差しで見据えた。


「不公平、か。なるほど。では、お前に一つ聞こう。教えられる側の生徒が、一番不幸になるのはどんな時だと思う?」


 生徒は不意を突かれたように口を噤んだが、やがて「それは……教え方が下手な時、じゃないですか?」と答えた。


「違う。もっと最悪なのは、実力がない者に教えられることだ。中途半端な知識で、他人の人生を左右する時間を奪うほど罪深いことはないからな」


 先生は、俺たちが一年生のために、深夜までかかって書き溜めたボロボロの教案ノートを、皆の前にドンと叩きつけた。


「こいつらがここに立っているのは、俺の『お気に入り』だからじゃない。俺が、責任を持って生徒を任せられるレベルに達していると判断したからだ。教える立場に立つということは、それだけの『実力』と、間違ったことは教えられないという『責任』を伴う。このノートの分析を見てみろ。こいつらは、自分の不完全さを潰すために、誰よりも深く問題を解剖し、誰にでもわかる言葉に置き換える訓練を積み重ねてきた」


 先生の声が、静まり返った自習室に響き渡る。


「特別扱いが羨ましいなら、こいつらと同じレベルまで這い上がってこい。こいつらはもう、提示された問題をただ解く『受験生』という枠を超えて、自分の足で正解を創り出し、それを他人に共有できる側に立っている。俺が評価しているのは、その到達点だ」


 詰め寄った生徒は、ノートにびっしりと書き込まれた執念のような分析を目の当たりにし、二の句が継げなくなった。周囲の冷ややかな視線も、一瞬にして畏怖へと変わった。


 俺たちが手にしているのは、甘い「贔屓」などではない。泥臭い努力の末に掴み取った「信頼」なのだと、神田先生の言葉が改めて教えてくれた。


「……陽太、もう後ろ指を指されるような距離にはいられないね」


 涼子が、赤く染まった夕日に顔を上げ、引き締まった表情で言った。


「ああ。先生が『任せられる』と言ってくれた。その信頼に、合格という最高の結果で応える。それが今の俺たちの、プロとしての仕事だ」


 秋の冷たい風が吹き抜ける中、俺たちは再び、自分たちにしか描けない「最強の地図」に向かって、これまで以上に力強くペンを走らせた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


少しでも「面白かった!」「スカッとした!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、

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それでは、次回もどうぞお楽しみに!

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