5.懐かしい
「痴話喧嘩ってなに……?」
かつんかつんと幻聴を響かせ、踵を返した蘭と引き換えに、晶子と馨はその場に残されていた。
「嶋田さんが言うなら、そうなんじゃない」
目が合っている。面倒だという言葉が浮かぶ。
「……幼馴染は……」
「恋愛できない?」
「どうして?」
晶子は質問を投げかける。
「……どうしてって。こちらが聞きたいよ……」
晶子はじろっと見上げ、
「‥‥知らないわよ……あなたの、あなたの考えなんて……。なにその顔……」
馨の顔は泣き虫だった彼の幼少期を彷彿とさせる。その姿は晶子の思い出と重なりをみせ、馨は泣いているようだった。
誰かの足音と、声が聞こえる。昼休みだからだ。咄嗟に隠さなくてはと、馨の手を引いて、空いている教室に入る。教室は静かで、不覚にも二人しかいないようなんて言葉を思い出す。外と離れた空間、それは、いつもの私たちだった。
「…………」
「……面倒見させる気?……ずっと?」
晶子は馨に聞くが、馨は話さない。
「今も?……いつも言っていたでしょう。言わなきゃわかんないって」
「言ったら、君が叶えてくれるの?」
大人へと変わっていく、青年の柔らかい部分に触れたみたいで不快だ。不快だよ。
「ことによるでしょう?たとえば」
くるっとスカートを揺らし、背を向ける。たとえば……犯罪……。
「たとえば、好きとか」
振り返る気などない。なかったのに、負け犬の顔だけ見たくて、振り返る。
「なんだ、ふつうー」
「なにが?」
少々苛立たせたようだ。
「ははっ」
真剣な顔より、そっちの方が面白いよ。
「じゃあ」
馨の声に晶子は重ねる。
「昼休み終わっちゃうから」
出ようとする晶子に馨は遅れて身体が動く。
「勇気があるなら聞いてあげる」
がちゃんと扉は開かれ、少女は日常に戻ってゆく。開け放たれた扉は、なんだかいつもと違って見えた。




