4.引いて逃げる
「ど、どこへ」と蘭が言い、「どこへだって」と晶子が続ける。立ち止まった二人は整った息で見つめあっていた。
「どうして、王子様に寄ってるんだい?」
どうやら追いかけてきたらしい、邪魔者め。
「邪魔よ、馨。この方は私が守るわ」
あなたじゃ、役立たずなのよ馨。晶子は蘭を守るように前に立つ。
「…………なんか追いかけてきたけど、心配いらなそうだね。任せるよ、君に」
君にもなにも、全部任せる気だったでしょう。追いかけてきただけ、まし……いや、ましなのか?いつもいつも、絶妙な範囲で行動しやがるのはなんなのよ。昔の思い出を振り払うように、はっっと息を吐き、気持ちを落ち着かせる。その様子を蘭は不安げに見つめていた。
「どういうことですの……?」
「大丈夫、すぐどっか行ってもらうからね」
馨はなにやらじっと見てきている。
「なによ」
「……いや、なんでもないよ」
「そう」
袂を分かつかのように二人が動く、前に
「どうして、私と付き合ったんですの」
蘭の声は二人に響き、問う。
「どうしてですか、答えてください。目時くん」
蘭の可愛らしい顔を、苦くして問う姿は馨の中である少女と重なりを見せる。……はぁ、どうりでと馨は声には出さずに独り言ちる。
蘭は聞くまで返さない気で晶子の手を握っていた。晶子はその様子を見守っている。
ぐぐぐっと握る手からも思う、この人可愛い。可愛い人だ、どうして馨は別れたのだろう。こんなに可愛いのに。
「どうして、か。……付き合おうって言われたから」
「今まで断ってきていたでしょう」
「よく知ってるね」
蘭はなんですのこの人と、晶子に同意を求める。
理解できないと言いたげだ。馨はむかつくくらいでちょうどなんだ、お嬢様。
「馨、素直に言って。私もいるんだし、ね」
晶子はゆるく微笑んだ。
「__素直、素直に言うなら、いいかなって思ったんだ。君たちは似ているし」
馨はふっと笑う。
「ほら、その顔似ている」
「正気、正気ですの?」
「…………うーん」
蘭の慌てた様子と、馨の消えそうとか例えられそうな笑顔を見て考える。馨がむかつくのはいつものことなので、それは置いておく。
「じゃあなんで別れたの?」
またしても言葉を失った蘭は、馨と目を合わせる。呆れたように納得した蘭は言う。
「……痴話喧嘩に巻き込まれるほど、わたくし暇じゃありませんのよ」




