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第九話



 「レディース&ジェントルマーン!!

 今宵も始まりました奴隷オークション。

 本日も司会を担当させていただきます。クリム・クライムだヨォ」


 武闘会を終えた夜。

 賞金として得たのは55,000ルミオール。

 ルミオールだよギランだのややこしい。


 ルミオールっていうのは俺たちのいるガロネシアで流通している通貨。

 ギランはちょっとプレミアな通貨のようだ。


 対して、賭けで手に入れたのは俺とエルノーラの分合わせて198,740ルミオール。

 合計253,740ルミオール。


 参考程度に職業別年収一挙公開!!

 農民や労働者「1,800ルミオール」

 熟練職人「7,200ルミオール」

 商人「18,000ルミオール」

 冒険者「36,000ルミオール」

 魔術士や官職「180,000ルミオール」

 貴族や領主「720,000ルミオール」


 さらにさらに、物価もご紹介!!

 一杯エール「50ミリルミ(0.05ルミオール)」

 パン一個「20ミリルミ(0.02ルミオール)」

 宿一泊「5ルミオール」

 服「20ルミオール」

 低級(ロー)ポーション「50ルミオール」

 魔術杖「500ルミオール」

 馬「2,000ルミオール」

 家「50,000ルミオール」

 

 と言った具合である。つまり、適当な家が5件も立つのだ!!!


 奴隷の相場は

 下級奴隷(労働者)「500ルミオール」

 中級奴隷(熟練者)「2,000ルミオール」

 上級奴隷(専門家)「10,000ルミオール」

 特級奴隷(魔法使い・戦士)「50,000ルミオール」

 最上奴隷(貴族・王族)「500,000ルミオール」


 

 なんか聞いてる感じ、騙されてないから俺。


 「謀ったな、、、」

 「念には念をってことだろお?

 そう怒るなよ兄弟!」


 エルノーラがただ金に困っていただけだと俺は思っているが。

 

 「あ、あれが!!」

 「淵上、、、」


 酷い姿だ。裸にされ、首輪や手錠までされて壇上に立たされている。

 

 「もしかして」


 エルノーラと似たような耳を持つ少女。

 淵上の時もそうだが、誰かの裸体を見るのは少し気が引けるな。

 目を覆う。


 「心遣いは嬉しいけれど、君が悪いわけじゃない。」

 「わかってるよ。わかっているけど。」


 順番で奴隷が売りに出されていく。


 「続いてはコチラ!!」


 淵上の番だ。


 「この奴隷は歳も若く肌艶も髪の手入れもされています。

 相当に育ちが良かったものかと。

 スタート金額は17,000ルミオールからとさせていただきます。」


 「17,500!」

 「18,000!」

 「18,900!」

 「20,000!」


 どんどん値段が釣り上がっていく。

 

 「21,000!」

 「23,000!」


 「ねぇ、そろそろレオくんも名乗りを上げないと、、、」

 「いや、まだだ」


 「25,000」

 

 1人の横幅だけで俺3人は取りそうな男が手を挙げる。

 周りからはおお、というどよめきが。

 

 「25,000出ました! 他の方は?」

 「、、、」


 これ以上は上がらないか。


 「50,000」


 俺は額を2倍に釣り上げ手を挙げる。

 すると、先ほどより大きなどよめきが広がる。

 俺の声に気づいたのか、淵上と目が合う。

 さっきまで、恐怖で俯いていただろうからな。


 「ぐぬぬ、、55,000……」

 「70,000」

 「っくそ、変態野郎が!! 

 持ってけ小僧!!」

 

 「70,000出ました!」


 他に名乗りをあげる人はいない、、か。


 俺は壇上へと登り淵上と向き合う。


 「八神くん、、」


 今にも泣き出しそうな淵上に、羽織っていたマントを被せる。


 「今度は俺が助けに来たよ。」

 「………うん!」

 「さーて、これから奴隷契約移行に移りまーす!!!」

 「なんだと?」

 「だーかーらー、奴隷契約の移行ですって。

 引き継ぎですよ引き継ぎ!」


 その場でクリムが教えてくれた。

 奴隷を奴隷商人から買い上げると、その場で奴隷契約が商人から購入者に当たるということ。


 奴隷契約を破棄したいと申し出たが、そんな技術は私は持っていないと。

 別の国には奴隷契約破棄できる技術はあるらしいが、まあ、クリムごときにはできないらしい。

 破棄したきゃ自分の足でそこへ行けと。


 クリムに金を渡して淵上を受け取る。


 「八神くん、、、私、ずっと、怖くて。

 もう、何度も死のうって、考えて。」

 「大丈夫だよ。もう二度とこんな目には合わせない。

 守ってやらなくてごめんね。」

 「ううん、いいの、助けてくれて、本当にありがとう。」

 

 俺の想像より、何倍も孤独で心細くて怖かったと思う。

 それでも耐えてよく頑張った。

 またこうして会えて、本当に、本当に良かった。


 「怖かったんだよ。でも、私より小さい子もいて、その子に少しでも安心してほしくて、強がって、、、」

 「本当偉いよ。怖かったね。」

 

 「お二人がたー? 

 お熱いところ申し訳ないけど、進行続けていいかナァ?」

 

 おっとこれは。

 感動の再会に水をさすなと言いたいが、確かに邪魔になっていたか。


 エルノーラのいる場所へと向かう。


 「レオくん、取り戻せたね。」

 「ああ、残りの金はやるよ。助けてやれ。」

 「ああ、ありがとう。使わせてもらうよ。」

 「八神くん、あのね、1人助けて欲しい人がいるの。」


 淵上からの提案、叶えてやりたい気持ちもあるが。


 「どの子?」

 「あの、あ! 今購買にかけられてる!」


 話してた歳下の子かな。

 そうそう、背丈も低くて、耳が、ケモノっぽくて、、、、


 「エルノーラ」

 「私の妹エレナだよ。」


 「続きまして! 

 次の奴隷はコチラ!!

 亜人、それも獣人族の娘です!!

 まだまだ若く、労働力にするもよし!

 性奴隷にするもよし!

 獣人族ならうまく行けば自主的な隷属仕草をしますかも!!

 スタート金額は30,000ルミオールから」


 「3,5000!!!」


 真っ先に手を挙げたのはエルノーラだ。


 「淵上、あの子はこの人が助けてくれと思うよ。」

 「そうだ。気になってたけどこの方は?」

 「ここだとあれだから、あとで話すよ。

 エルノーラもそれでいいよね?」

 

 「47,000!!!」


 ちょっとお熱だは。

 今話してもなにも聞けないよね。


 「にしても、淵上、本当会えて良かった。」

 「私も、」


 感極まり、2人して抱き合い泣いてしまう。

 横ではまだ応酬が続いているのにだ。

 

 「50,000」

 「60,000」

 「70,000」

 「80,000」

 「90,000」

 「100,000!!」


 桁が変わってきた。

 大体残り、手元にあるのは180,000弱。

 削り切れるかどうか。


 「淵上、ちょっとくっつきすぎじゃないか。」

 「怖かったもん」


 そう。それはわかるが、布一枚ほぼ裸の同級生の身体がゼロ距離密着は流石にクラリとくるものがあってだな。

 

 さっきまでは最下位の喜びでなにも感じなかったが、少し泣いて冷静さを取り戻したのか、頭が切り替わってきている。


 彼女はまだ泣いてしまっており、状況の異様さに気づくのは時間がかかりそう。


 「絶対奴隷契約破棄しようね。」

 「……私、八神くんの奴隷ならいいよ?」


 なんだそのセリフは!!

 手を、出すぞ!

 出さないけど。

 涙目上目遣いで昇天したのは理性ではなく邪念でした。

 

 純真無垢な感情に漬け込むようなことはしちゃダメだ。

 俺は己の邪な考えを霧散させる。


 「110,000!」

 「120,000!」

 「150,000!!!」


 ドン! とエルノーラが会場に響き渡る声と踏み込みで喧伝する。


 「150,000出ました! 他に名乗りをあげる方は?」

 

 「私はまだまだいけるぞ!」


 そう煽るエルノーラ。おいおい、そういうのやめた方がいいと思う。


 俺の感覚とは裏腹に、周りはこれ以上やっても無駄だと感じたらしい。


 「購入されました〜!!!」


 カンカンカン! 

 と、快活な音を鳴り響かせる。

 

 「行ってこい!」

 「うん、レオくん、本当にありがとう!!」


 そういうと喜色満面の笑みを俺に向け、壇上へと駆け抜けて、妹、エレナに飛びついていた。

 ま、俺と似たような反応だな。


 「幸せそうだね。」

 「会いたい人に会えたからね。」

 「むー、」


 俺の胸に、2人のように飛び込む淵上。

 そのまま強く抱き寄せられ、柔らかなものが、俺の胸板に。

 

 「あ、戻ってきたみたいだぞ。」

 「エレナちゃん!」

 「カンナちゃん!!」


 そういうと淵上とエレナが抱き合う。

 エレナを支えてあげていたんだな。

 淵上は本当に心優しい女の子だ。

 同じように感じたのかエルノーラが2人と抱き合っている。


 そのまま俺たち4人はエルノーラとエレナの家へと帰ることにした。


 ***


 「この度は妹を守っていただき本当にありがとうございました。」


 淵上とエレナが着替えている部屋から、エルノーラの感謝の声がした。

 話していた内容は奴隷だったときの話だろう。


 「あのー、入ってもいいか?」

 「ああ、いいよー」

 「ちょま!!」


 エルノーラのOKをいただき部屋へと入る。


 「淵上、へそだしの服を選んだのか。」

 「違うよ!!」


 エルノーラと淵上じゃ結構身長差あるもんな。

 別にエルノーラのスタイルが悪いとかってわけじゃないぞ。

 決して、断固としてだ。

 ただ、淵上は背が高いし、結果的に、サイズがね?

 そうなってしまったってことでしょう。


 「ふ、ふちがみ!?」


 先ほど同様、俺の隣にきて腕を組んでくる。

 距離近いなーこの子。

 やべーな、茜もとい長谷川のときもそうだが、俺ってことごとく女免疫ないなー。

 普通に会話する程度なら問題ないんだけれど。

 こうやってくっつかれたりしたら流石に意識しちゃうぞ!!!


 でも、長谷川の一件から俺はソードがバトル体制にシフトしたことがない。

 頭では意識しているが、体はどうにも反応しないんだよな。

 これは不思議だ。

 なんか病名とかあるのかな。(EDです。)

 そんな様子をみていたエレナが一言。


 「お姉ちゃんとお兄ちゃんは付き合ってるの?」

 「、、、」

 「、、、」

 「あはは、ごめんね2人とも。うちの妹が、、、あはははは」


 耳まで真っ赤の淵上さん。


 「そういうわけじゃ、」

 

 ちょ、痛い痛い、太もも捻らないで。


 「でもまあ、友達以上の関係かな。」


 捻るのをやめてくれる。

 まったく、やれやれ困った嬢ちゃんだぜ。

 

 「俺は淵上と奴隷契約破棄する方法について考えようと思っているんだが、エルノーラたち姉妹はどうする?」

 「同行してもいいと?」

 「そりゃ、ね? 淵上。」

 「うん。他の女の子なら許さないけど、エレナちゃんとそのお姉さんならいいよ。」


 なんだその嫉妬まじりの発言。

 キュートでプリティーでラブリーじゃないか随分と。

 本気で意識しちゃうわよ!!

 本当やだやだ、困っちゃうわもう!!


 「ただ、どこで契約破棄できるかって話だよな。」

 「エルノーラさん、なにか知ってたりする?」


 「人種差別反対って国は結構あってね。

 ポラトヴィアは獣人族の国だけど、契約破棄の技術あるかなー文明レベル的に。」

 

 「他にはないのか?」


 「文明レベルだけならダントツで、隣国のヴァルドライヒだね。でもあそこはちょっと、、、」


 そのなんちゃらライヒってとこはイマイチなのね。


 「スカンディアはそういう呪いの解呪とかできそうなイメージあるけど、ヴァルドライヒ経由でしか行けないしなー。」

 「あんまりうまいこと行かないね。」


 「ヘレニアって国はエルフっていう亜人が中心の国でね。人とも獣人族ともあまり仲は良くないけれど、奴隷には厳しいからワンチャン。」

 

 彼女の顔色はあまり良くない。

 ヘレニアはイマイチの様子。


 「ボヘミカって国は一番契約破棄できそうだけど、一番近道するならヴァルドライヒ経由だし、通らなかったら結構遠まわりすることになるしね。」


 「だが、そのボヘミカって国が一番現実的か。」

 「そうなるかなー。」


 長旅の予感。


 「じゃあ、とりあえずボヘミカを目標に旅をするか。4人で。」

 「本当に連れて行ってくれるんだ。」

 「切っても切り離せない関係だろ?」

 「レオくん! もうそんな関係になったの!」


 涙目で俺を睨んでくる。

 エレナはキョトンとしている。


 「ご、誤解だ。決してやましいことはしていない!!」

 「むむー!!」

 

 ほほをぷくりと膨らませながらジト目で俺を見てくる。

 本当に何もないし、体も悲しいくらいなにも反応しない。

 俺のメインスキル『剛体化』は男なら喉から手が出るほどほしい能力だろうに、うまく扱えないという事実。

 無念。



 無念。



 「でも、私たちお荷物になるんじゃ。淵上さんも相当な手練れでしょ。」

 「俺よりは強いかもな。」

 「ん?」


 なんの話をしているの?

 という風に俺を見ている。


 俺たちの出会いから武闘会での流れまで事細かに説明した。

 最初はふんふんと聞いていた淵上だったが、少しづつ表情が崩れていき、「え、人殺したの?」って目で俺を見ていた。


 「相手は元宮廷魔導士だったんだよ。

 やらなきゃやられてたんだよ。許してやってよ。」

 「、、、ごめんね。」

 「淵上が謝ることじゃ。」

 「ううん、私が奴隷になったから、八神くんは人を殺さなきゃ行けなくなったんだよね。」


 そんな風に受け止めていたとは。

 あまり重く受け取らなくていいのに。

 責任感の強い子だから、これからは話をする時は、できる限り負担しすぎないように配慮するのが男というものだろう。

 気をつけよ。


 「心配してくれてありがとうね。」


 「ところで話は変わるが。

 さっきからレオはどうしてヤガミくんって呼ばれているんだ?」


 そういや、ラストネームとかは、この世界じゃ家族くらいしか持ってないとかなのかな。

 だったら、無理に混乱を招くだけかもな。


 「あだ名みたいなもんだ。」

 「よくわからないな。」

 「ズコー」


 そりゃそうかい。

 

 「そうだな、この際だし。カンナって呼んでもいいか?」

 「なっ」


 淵上の表情が驚きで変化する。

 今までにないくらいニヤけているぞ。

 本人は隠しているつもりなんだろうが、逆なニヤつきを加速している。


 「俺のこともレオでいいから。」

 「レオくん、レオくん!」

 「ん? どうした?」

 「カンナって呼んで!」

 「カンナ!」

 「もっと!!」


 それから、何度も淵上の名前を、それもエルノーラとエレナが眠りにつき、日が上り始めるまで、彼女が眠りにつくまで呼ばされた。

 俺は睡眠不足で起こされた。

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