表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

第四話



 結果的に、カニーユ村を守ることはできた。

 淵上(ふちがみ)の『雨女』のおかげで助かった。

 ただ、何人も死んだ。


 「見るな」

 

 あのとき守れなかった子の家族と思しき人が声をだして泣いている様子を、同じ村の人たちは俺に直視させないように、気を遣ってくれた。

 

 「最初から、あの女があの力を使っていればこの子は、、、」


 戦いが終わり、雨が止んでから淵上とは会っていない。

 どこで何をしているかも知らない。


 俺は魔物を殺すことに慣れていた。

 そのせいで、人の死の重さを忘れていた。

 二度と、俺の前で誰も死なせない。


 「ちょっばか」

 

 村の人たちが止めるが、それでも家族の方には謝りたかった。


 「あなたの娘を守れなくて、本当に申し訳ありませんでした。」


 「は、はぁはぁ、ちがうの。」

 「え?」

 「私が、私が守っていたら。ごめんなさい。ごめんなさい。」


 「あなたは、まだ若いのに。それなのに私。」

 

 俺がもっと強ければ、そんな言葉をかける資格はない。

 言い訳をしてと見苦しい。

 もっと、もっと強くならなくては。


 「どうだ、わかったか。」

 「ああ、あの人型の魔物。兵士さん曰く魔人族だったようだ!」

 「魔人、、、族」


 魔人族、人は争っている。

 そんなものに、蚊ほどの興味もなかった。

 別の世界の話。俺には関係ない。


 関係ないかもしれないが、この世界に生きる人にとって、魔人族は人を無差別に殺す。

 俺は、俺は一人でも魔人族と戦う。

 

 こんな、こんな表情の人を一人でも減らせるように、俺は戦い続ける。

 

 無関係なんて、この世界に来た時点で無理だったんだ。

 元の世界やクラスメイトに捨てられ、全てを失った俺が、新しい世界では、誰かを守れる。

 守ってみせる。


 魔人族、人とは比べ物にならない強さだった。

 それこそ、淵上がいなければ今頃。


 ポイントが増えている。

 

 《New‼︎ 魔力反応を検知、新しいコモンスキルの習得実績が解放されました。

 コモンスキル『無反応性化』をポイントで習得しますか?》


 これは、きっとあの時の光線か。

 なにか理由があったと思ってはいたが、魔力反応で剛体化が貫通したのか。

 て言っても、魔力反応なんて知らないが。


 迷わずYesだ!


 《新たに『無反応性化』を習得しました。》

 

 どんなスキルかはよくわからんが、あって困るものでもないか。

 ふむふむ、淵上の能力も元に戻っている。

 雨がやんで解除されたか。


 *


 「淵上!」

 「八神くん?」

 「探したぞ。」


 村にはいなかったから外に出て探すこと数時間、やっとのことで見つけた。


 「何してんだよこんなところで。さっさと帰るよ。」

 「私は、帰れないよ。」

 「なに言って」

 「私が、、、殺したようなものだもん」

 「違う、あれは、、、」


 俺が守れなかった。とは言えない。

 それはきっと彼女が言いたいことと同じだ。


 「あれは、俺たちだ。」

 「!!」

 「二人の、実力不足だ。」

 「そんな」

 「一人で抱えるなんて傲慢だよ。俺は守られる存在なのかよ。

 俺にも背負わせてくれよ。」

 「でも、」

 「二人がもっと強かったら、誰も死ななかった。

 そうだろ。」

 「私が、私がもっと強いスキルを」

 「スキルじゃない! 俺たちに足りないものはスキルじゃない。強くならなきゃいけない。

 ここまでなんで淵上と来たのか、結果的に淵上がいないとどうなってたか。

 自分一人が悪者みたいにいうのは、、、やめてくれ。」


 悪いのは、人を殺す魔人族と魔物だ。

 人を殺していいわけない。

 

 「、、、、」


 ***


 「あの女です!!」


 俺と淵上が村に戻ると、兵士と一人の村人が淵上を指さしていた。

 

 「あの子が、お前ら取り囲め!!」


 いっせいに兵士たちが俺たち二人を取り囲む。

 兵士たちは剣を抜き放つと、鈍い光が俺たちを睨む。

 

 「危険な力を持っているのはお前だな。」

 「ちょっとまってください。俺たちが何したって」

 「お前は黙れ!! 話はそこの女にある。

 大人しく我々のいうことを聞け!!」


 兵士たちの中から背の高く、勲章を胸につけた男が現れる。

 

 「私はこのカニーユ村での騒ぎの後始末をつけるためにわざわざ都市から飛んできたんだ。

 荒い真似はしたくないんだ!!

 早くこちらへこい!!」


 あの男、、、仮に勲章の男とでも呼ぼうか。

 居丈高にそう口にすると指を指し示す。

 淵上は俺の後ろに隠れ怯えているのか服の裾をギュッと握っていた。


 「まず状況を説明していただきたく」

 「民風情が兵士である我々に意見する権利はない!!

 我々は業務秘匿権がある。お前たちに答える義理はない!」


 なんだよ業務秘匿権とは。そんなとってつけたような。適当言っているんだろ絶対。


 「淵上、、、」

 「私、、連れて行かれるのかな。」

 「貴様!!」


 勲章の男に背を向け、淵上をしっかりと抱きしめる。


 「なっ!!」

 「きゃっ」

 「しっかり捕まってて。」


 膝を曲げると『加速I』を使って高く飛び上がる。

 

 「や、奴らを地面に叩き落とせ!!

 これは命令だああああああ!!!」

 

 『剛体化I』を使って肉体を固定する。

 さらに、『加速I』を解除、&再展開かつ向きを調整して空を飛んでいく。


 「と、飛んでるの!」

 「俺の体の中に隠れて、魔術打たれてるから!」


 兵士たちが魔術を使うと俺に直撃するも、すでに剛体化済み。


 すぐに泊まっていた宿まで来ると、荷物を全て回収する。


 「淵上、先に逃げていてくれないか?」

 「先にって、どうやって。八神くんはどうするつもりなの?」

 

 「早くでてこい!!!」


 外には兵士たちが迫ってきていた。

 彼らの狙いは淵上だろう。

 俺はお呼びでない。

 彼女は今捕まればなにをされるか分かったもんじゃない。


 「君が逃げるまで時間稼ぎをする。

 集合場所は、、、、ココ!!」


 地図を取り出して指さしたのはここから少し西にある『ルリヤ』という町。


 「ここならこの村からでもすぐに着く。」

 「でもどこで落ち会うの?」

 「俺たちはギルドで必ず再開できる。」

 「本当?」


 彼女の瞳は震えていた。

 それを安心させるよう優しい口調で答える。


 「ああ、必ずだ。今回は俺に任せてくれ。」

 

 外からは宿屋の悲鳴と兵士たちの怒号、そして勲章の男の声。

 

 「ほら、早く!!」


 彼女は窓から飛び降りた。

 器用に風魔術で着地した。


 すると、ドン!!と扉を突き破る音共に兵士が現れた。

 剣を抜き身にすると声を張り上げ俺に切り掛かる。


 「眠っていてもらうぞぉぉぉぉぼほおぉ」


 剣が俺の肉に触れる直前、『剛体化I』を展開、そして即解除して鳩尾に拳を叩き込む。

 その拳に『加速I』を乗せてボクサー顔負けの速度で振り抜き、衝突直前に『剛体化I』を再展開。

 さらに、拳が衝突した直後に『加速I』で肉体を減速させる。


 もし、させなければ兵士の肉体がどうなっていたことか。


 「なっ!」


 その光景を見ていた別の兵士が絶句する。


 その隙を逃さず即座に間合いを詰めて拳を振り抜く。

 先ほどのプロセスを踏襲して。

 兵士の鎧が嫌な音を立てながら炸裂する。

 そのまま扉からなだれるように侵入してくる兵士と衝突した。

 

 「うらあああ」


 背後から切り掛かってきた兵士の剣に『剛体化I』を使った拳を振り抜き粉砕する。

 そのまま懐に潜り込み、アッパーで顎を穿つ。

 

 「っ!」


 外から飛んできた土魔術の岩が宿屋の壁を粉々にして直撃する。

 ギリギリで剛体化するもそのまま外へと放り出される。

 

 「今だ!!! やれ!!」

 「よくも今までやってくれたな!!」


 足元がぬかるむ。

 泥沼に嵌っているようだ。

 

 そんな中でも魔術を連発でお見舞いしてくる兵士たち。

 

 「お前がどんな強度をしていようと、これでは何もできまい!!!」

 

 「これで終わりだアアアアアアア!!!」


 勲章の男が大岩を俺の頭上に生成するとそのまま落下させる。

 腹まで沈んでいた体が一気に頭まで埋まってしまった。



 

 遠くで歓声が聞こえている。


 「どうだ、すごいだろ!!」

 「ウオオオオオオオ」


 こんなところで足を奪われているわけには行かないのに。


 すぐにでも淵上の元へと行かなければならないのに。

 

 約束したんだろ。彼女が、俺を守ってくれたように。


 《『逆転(ギャンブル)』を使用しますか?

 成功率:27%、失敗率:60%》


 ん? これはいつぞやの。

 てか、確率って合計で100%にならないのね。

 それはもはや確率なのか?


 しかし、迷っている場合ではない。

 一か八か、、、賭けてやる。


 《   》



 《   》



 《   》



 《『逆転(ギャンブル)』は成功しました。

 一時的に筋力をC-からAまで上昇させます。さらにスキル『土魔術・初級』の獲得を試みますか?》


 さらにガチャを引かせるのか?

 それをやったら筋力上昇は無くならないのだろうか。


 《失敗すれば、筋力上昇はなくなりますが、成功すればどちらも得られます。試みますか?》


 そんなの決まっている。


 

 《   》



 《   》



 《   》



 《『土魔術・初級』の獲得に成功しました。新たなる『逆転』参加の権限の取得に失敗しました。

 これを持ちまして『逆転』を終了致します。》



 俺のステータスが更新される。


<<<ヤガミ レオ 16歳

 体力   D

 筋力   C-→→→A(仮)

 防御力  E

 魔力   E-

 魔法防御 E

 瞬発力  C


 メインスキル  『剛体化Ⅰ』

 サブスキル   『演算』

 ユニークスキル 『逆転』

 コモンスキル  『加速I』

         『無反応性化』



 魔術  『土魔術・初級』>>>


 

 力が溢れてくる。

 初めて得る魔術への興奮でつい無駄遣いしそうになるが俺の魔力は依然として低い。

 あまり役には立たないだろう。


 『土魔術・初級』を使ってジワジワと足場を盛り上げていく。

 少しすると頭に例の岩を感じた。

 さらに上昇させていくと周囲には岩を眺めていた村人が俺を見て驚いていた。


 「兵士たちはどこへ」

 「あっあっちに!!」


 指差す先は先ほどの宿。

 まだ淵上が宿に隠れていると見ているか。

 はたまたこの村人が嘘をついているのか。

 しかし、疑っている余裕はない。

 今はその情報が頼りだ。

 

 完全に泥沼から脱却すると、俺は俺の頭上にある岩を持ち上げ上昇する。

 『加速I』と『筋力 A』の重ね合わせは凄まじい。


 そのまま急落下して岩を地面に叩きつける。

 瞬間、地響きが建物を唸らせる。

 

 慌てて飛び出してきた兵士を一人、また一人と沈めていく。

 魔術を撃ってくる兵士にも今は剛体化せずとも攻撃が通る。

 いちいちスキルのオンオフを切り替えなくていいため頭に優しい。


 「ひっひいい」

 「見つけた。教えて欲しい。どうして彼女を探しているんだ。」

 「そ、そんなこと言えるわけないだろ。」


 勲章の男は震える声でそう答える。

 剣をもってこちらに構えるが、震えでまるで握れていない。

 一瞬で距離を詰めて剣を砕く。そしてすぐに勲章の男の元へと戻る。


 「なんなんだ、お前は!!」

 「け、剣が!!!」


 目の前の光景が信じられない。その場にいた兵士たち全員の感想であった。

 

 「俺たちは魔物を倒した。それだけ。なにもしていないのに剣を抜いて囲んで理由も伝えないなんて」


 「強いからと調子に乗るなよクズが。お前なんか私の権力を使えば、、」

 「使えば、、、って、脅してるのかよ。

 どうして、俺はこんなに優しくしてるのに。」

 「どこがだ!!!」


 理不尽な要求を出され、傷つけられそうになったり殺されそうになったりしたとしても、兵士や勲章の男をからしていないのは俺なりの優しさだった。

 

 彼らの本質は魔物や魔人族と変わらない。

 理由も告げずに人を襲う。

 それでも同じ人間だから対話を試みて。それが俺のできる譲歩だ。

 

 勲章の男と話していても埒が明かない。

 

 「俺たちは何もしていない。ついていくギリもない。だからもう関わらないでくれ。それが条件で俺はもうあなたたちに何もしない。」

 「おのれぇぇぇ、身分を弁えろよ!

 冒険者風情が!!」

 「身分、そんなに兵士が偉いのですか。」

 「そうである。お前ら矮小で学のない腕だけの阿呆とは違う。

 血筋も教養もあるのだ!!」


 血筋とか、教養とか、そんなものを振り翳しているうちは誰も敬意なんて持たないだろうに。


 「兵長、ここは彼の言う通りに」

 「黙れ!」

 

 そういうと勲章の男は若い兵士の顔面目掛けて岩を飛ばした。

 

 その時、俺の中で何かが切れた。


 「おい、どうして、その人を殺したんですか?」

 「私に舐めた口を聞いたからだ。貴様も同じようになりたいらしいな!!」


 そう言って俺に魔術を何度もぶつけてくる。

 しかし、俺の体は『剛体化I』で覆われている。

 岩魔術なんかではどうともならない。


 「クソ、バケモノめが。だが、これならどうだ!!」


 そう言うとポケットから薬品のようなものを取り出して投げつけてくる。

 しかしそれも『無反応性化』によって防ぐ。

 

 すると勲章の男は事態を重く見たのか冷や汗を流し始めた。


 「こ、これに懲りたらこれ以上のことは見逃してやる。

 私に行った無礼もだ。これはありがたいことなのだ。額を地面に擦り付けて感謝するのだ。私はなんせ偉いのだから。」


 そう言いながら俺の目の前から立ち去ろうとする勲章の男を引き止める。


 「まてよ、、くださいよ。まだ、話は続いてるでしょうが。」

 「き、貴様、この私が許してあげると行ってあるのにも関わらず何を話すことがあるのだ!!」


 急接近して腹をどつくとそのまま『加速I』を使って空中は放り投げる。


 「あああああああああああ」


 俺も加速をして彼の横で飛び寄り添う。


 「このままだとお前は空を永遠に飛び続ける。

 そしたらお前は死ぬ。死にたいか?」

 「し、死ぬ?」

 「そうだ。です。死にたいですか?」

 「い、嫌だ。やだやだやだやだやだやだやだ死にたくない死にたくたい!! 

 パパ、ママ、助けてえええええ!!!」


 空中で泣き出すおじさんに気持ち悪いと感じながらも話をやめない。

 

 「お前が今からした兵士にも、同じ気持ちがあるとか思わなかったのかですか?

 どうして、そんなに自分が可愛いのですか。

 ふざけているです。」

 「ごめんなさい。許してください。死にたくないです。お願いします。」


 宙で体を縮こまらせて謝罪している男にかける慈悲は必要だろうか。

 俺個人としてはこのまま宇宙の彼方まで行ってきて欲しいと思っているが、彼にも彼の帰りを待つ仲間や家族がいるのかもしれない。

 

 「約束しろ、金輪際俺たちに関わるな。村の人たちに迷惑をかけたことを誠心誠意謝罪しろ。そしてお前が殺した兵士の家族にちゃんと誤れ。これが条件だ。」

 「しますします!! だから許して!!」

 「許すわけないだろ!! 許すわけ、、ただ、お前のことを大切に思う人に罪はない。」

 「つ、つまり」

 「殺さない。ただ、」

 「ただ?」

 「少しは痛みを知れ。」


 *



 死なない程度の高さな、自由落下させた。

 足や腕がグロい方向に捻じ曲がっている。

 あんなおっさんにかまけている時間はない。


 俺は急いで淵上の元へと向かった。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ